2023年度の中間年度薬価改定、「医薬品を取り巻く状況の大きな変化」をどう勘案するかが今後の論点に—中医協
2022.7.20.(水)
来年度(2023年度)に行われる薬価改定(毎年度改定、中間改定)に向けて、本年度(2022年度)に薬価調査を行う。その際、前回の中間改定である2021年度改定・2020年度薬価調査に倣い、医療機関や薬局、卸業者の調査負担に鑑みて「販売サイド(卸業者)の調査は3分の2抽出で、購入サイド(医療機関、薬局)の調査は通常の2分の1のスケールで抽出して行う」こととする—。
7月20日に開催された中央社会保険医療協議会の総会・薬価専門部会でこういった方針が決まりました。12月初旬に薬価調査結果(どういった医薬品で、どれだけ「薬価」と「市場実勢価格」との間に乖離があるのか)が示され、さらに年末の厚生労働大臣・財務大臣折衝で決まる「改定率」(薬価をどれだけ引き下げるのか)も踏まえ、2023年度の薬価改定論議を詰めていきます。
2023年度の薬価改定に向け「2022年度に医薬品の取引価格」に関する調査実施
薬価制度の抜本改革が2018年度に行われました(関連記事はこちら(2018年度改革)とこちら(2020年度改革))。
「国民皆保険の持続性確保」と「イノベーションの推進」を両立しながら、「国民負担の軽減」「医療の質の向上」の実現を目指すもので、▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目の限定(真に医療上必要な医薬品について価格の下支えを行う)▼長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進するための新ルール(G1・G2ルール)の創設)▼費用対効果評価に基づく価格調整ルールの導入など―のほか、「毎年度の薬価改定の実施」が主な内容と言えます。
多くの医薬品について、医療機関や薬局は「薬価よりも低い価格」で購入(市場実勢価格、取引価格)し、保険者や患者へは公定価格である「薬価」で請求を行います(両者の差が、いわゆる「薬価差」である)。医療保険財政の健全化などを目的に「市場実勢価格を踏まえて、薬価を引き下げていく」ことが薬価改定の大きな柱の一つとなります。従前は診療報酬改定に合わせて「2年に1度」行われていましたが、薬価制度抜本改革の中で「より迅速に、薬価を市場実勢価格にマッチさせることで、国民皆保険の維持、国民負担の軽減を図る必要がある」との考えの下、診療報酬改定の中間年度においても必要な薬価の見直しを行う(結果、毎年度に薬価改定を行う)ことになったのです。
薬価改定を行うためには、改定の前年度に薬価調査(医療機関等と卸業者との間の取引価格(実勢価格)を調べる)を行い、「どの程度、薬価と取引価格(実勢価格)との間に乖離があるのか」を把握する必要があります。この結果を踏まえて「薬価引き下げの対象品目をどうするのか、具体的にどの程度の薬価引き下げを行うのか」を考えていきます。
7月20日の中医協では、2023年度の薬価改定に向けて、2022年度にどのような薬価調査を行うかを議題とし、厚生労働省から次のように「前回の中間改定(2021年度改定)に向けた『2020年度の薬価調査』と同様に行ってはどうか」との提案が行われました。
▽本年度(2022年度)の1か月間の取引分を対象として調査を実施する(本年(2022年)9月分を想定)
▽販売サイド調査:医薬品卸売販売業者の3分の2を抽出(全営業所等から層化無作為抽出)し、「どの薬剤をいくらで販売したのか」などを調査する
▽購入サイド調査:▼病院の40分の1▼診療所の400分の1▼保険薬局の120分の1—を抽出(それぞれの全数から層化無作為抽出)し、「どの薬剤をいくらで購入したのか」などを調査する
診療報酬改定と合わせて行われる「通常改定」に向けた薬価調査と比べると、販売サイドでは3分の2(通常調査では全数を調査)、購入再度では2分の1(通常調査では▼病院の20分の1▼診療所の200分の1▼保険薬局の60分の1—を抽出して調査)に調査対象が限定される格好です。「毎年度調査」による卸業者・医療機関・薬局の負担に配慮したものと言えます(抜本改革の基本方針で卸業者について「抽出調査」とする方針が明示されている)。
この点、医薬品卸代表の立場で中医協議論に参画する村井泰介専門委員(バイタルケーエスケー・ホールディングス代表取締役社長)は「医薬品の供給調整などにより、医薬品卸は在庫のやりくりに奔走するなど、2年前と医薬品流通状況が全く異なっている。そうした点への配慮をしてほしい」と要望。診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)や有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)も、▼新型コロナウイルス感染症の再燃▼ウクライナ情勢等に伴う燃料費高騰や物価高▼医薬品供給不安や後発品メーカーの事業見直し—など、医薬品を取り巻く状況が2年前とは大きく異なっていることを強調しています。
こうした意見を踏まえて、支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「それほど医薬品を取り巻く状況が変化しているのであれば、実態を丁寧に把握するために、調査客体を2年前調査と同様に限定するのではなく、むしろ『通常調査と同じくらいに増やす』ことも考えられるのではないか」と指摘しましたが、「厚労省案どおり」(=2020年度の前回調査と同様に)調査を行うことが決まりました。
調査は本年(2022年)9-10月に行われ(9月下旬に調査票を対象施設等に配付し、10月下旬に厚労省に対し回答する)、12月上旬に結果速報が中医協に報告されます。この薬価調査結果(どの程度の医薬品で、どの程度の「薬価」と「市場実勢価格」との乖離があるのか)や厚労相・財務相の協議にいる「改定率」などを踏まえ、薬価専門部会や中医協総会で「2023年度の薬価改定内容」(薬価引き下げの対象品目をどう考えるのか、引き下げ幅をどの程度にするのか、適用するルール(例えば、新薬創出・適応外薬解消等加算の取り扱いなど)をどう考えるのか)を詰めていくことになります。
新薬創出・適応外薬解消等加算は、▼製品そのものに革新性があり、医療現場にとって欠かせない(品目要件)▼当該製品を開発するメーカーが、革新的な創薬に向けた成果を出している(企業要件・企業指標)―という2軸で選定した医薬品について「一定程度の薬価の維持」(薬価引き下げの猶予)を認める」ものです(加算を原資として、メーカーが優れた医薬品開発を行うことを期待する仕組み)。
ただし、永久に「一定程度の薬価維持」が認められるものではなく、一定期間後(後発品が上市された後、または薬価収載から15年経過後)には、薬価改定の折に「それまで猶予されていた分の価格引き下げ」(累積控除)が行われます。2021年度の前回改定でも「中間改定において、この累積控除を行うべきか」が論点の1つに挙げられており、2023年度の次期中間改定でも論点の1つに浮上しそうです(関連記事はこちら)。
改定論議の中で、診療側委員や専門委員、安藤委員らが懸念する「医薬品を取り巻く状況が2年前と比べて大きく変化している」点も加味した丁寧な議論が行われることになります。このほか、▼2年前は改定スケジュールが非常にタイトであった、可能な限り前倒しで議論を進めるべき(支払側の佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)、同じく松本真人委員(健康保険組合連合会理事))▼最終的に中医協が改定内容を決定する点を確認すべき(同)▼2023年度改定は、通常改定(2年に一度の診療報酬改定とセットで行われる改定)とは区別された改定である点を確認すべき(診療側の有澤委員)▼医薬品メーカー・卸の意見を踏まえた丁寧な検討を行うべき(診療側の城守委員)—などの意見が出ています。
とりわけ薬剤師代表である有澤委員は「2021年度から本格スタートした中間改定により、保険薬局(調剤薬局)経営に大きな影響が出ている。地域の医薬品供給体制が崩壊しないよう、中医協で慎重な異論をすべき」と強く訴えています。
2型糖尿病治療薬「リベルサス錠」、費用対効果評価踏まえた価格調整へ
7月20日に開催された中医協総会では、▼新たな医療機器の保険適用(本年(2022年)9月保険適用予定)▼医薬品等の費用対効果評価—を了承したほか、先進医療(保険診療と保険外診療との併用を可能とする)への新規技術導入(「慢性膵炎等に対する膵全摘術に伴う 自家膵島移植」および、不妊治療技術の1つである「子宮内フローラ検査」)についての報告を受けました。
このうち、医薬品の費用対効果評価では、2型糖尿病治療薬の「リベルサス錠」(一般名:セマグルチド(遺伝子組換え)、3mg1錠:143.20円、7mg1錠:334.20円、14mg1錠:501.30円)を対象とすることとなりました(ピーク時の市場規模が116億円となり、医療保険財政への影響が非常に大きなため)。
分析によれば、同剤は(A)DPP—4阻害薬を含む経口血糖降下薬で血糖コントロールが不十分で、他の経口血糖降下薬が投与対象となる2型糖尿病患者への投与(全体の32.1%)(B)DPP-4阻害薬を含まない経口血糖降下薬で血糖コントロールが不十分で、他の経口血糖降下薬が投与対象となる2型糖尿病患者への投与(27.5%)(C)経口血糖降下薬で血糖コントロールが不十分で、GLP-1受容体作動薬(注射剤)が投与対象となる2型糖尿病患者(40.4%)—に用いられ、▼(A)(B)では比較薬に比べて「効果が同等で、費用が増加する」▼(C)では比較薬に比べて「効果が増大し、費用が削減される」—ことが分かりました。前者からは「費用対効果が悪く、価格を引き下げる」方向が、後者からは「極めて費用対効果に優れ、価格を引き上げる」方向が導かれます。今後、「(A)(B)(C)の各集団の患者割合に応じて加重平均を行う」などの費用対効果評価ルールに沿い、「薬価を引き下げるか否か」などを費用対効果評価専門組織で具体的に詰めていくことになります。
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