2020年薬価調査実施とその内容を決定、2021年度改定の是非は改めて検討—中医協総会(1)・薬価専門部会
2020.7.22.(水)
7月22日に開催された中央社会保険医療協議会・総会、および先立って開催された薬価専門部会で「2020年の薬価調査」内容が固められました。
ただし2021年度の薬価改定について、「実施するのか」「今般の調査結果をそこに結び付けるのか」、などは今後、改めて検討されます。
薬価調査実施に当たり「7月豪雨の被災地医療機関を除外する」などの配慮・工夫
2018年度からの薬価制度抜本改革の一環として、「市場実勢価格を適時に薬価に反映して国民負担を抑制するために、従前2年に1度であった薬価改定について、中間年度においても必要な薬価の見直しを行う(毎年度改定)」方針が明確化されています。
直近では、2020年度(前回改定)と2022年度(次回改定)の通常改定の間となる「2021年度」に薬価改定を行うこととなり、そのベースとなる市場実勢価格の把握を今年(2020年)に行うことが必要です(市場実勢価格を踏まえ、薬価の引き下げを行うため)。
しかし、新型コロナウイルス感染症の影響が依然として大きな中で、今年(2020年)の薬価調査(2020年9月取引分対象)を行うべきかが議論となっていました。中医協においては、「薬価調査を実施するか否かは政府が決定するもので、中医協では実施に備えた準備を進めるべき」と考える支払側委員と、「医療機関・薬局・卸業者のいずれも新型コロナウイルス感染症対応に追われ、納入価格交渉も進んでいない。薬価調査を行える状況になく、また調査結果も実態を反映したものとならない」と反対する診療側委員・専門委員との間で議論が交わされてきました(関連記事はこちらとこちらとこちら)。
この点、7月17日に閣議決定された骨太方針2020(経済財政運営と改革の基本方針2020)では、▼今年(2020年)の薬価調査は実施する▼2021年度の薬価改定については、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえて検討する—こととされ、厚生労働省医政局経済課の林俊宏課長も政府方針に沿って薬価調査を実施する考えを明らかにしました。調査対象となる医療機関・薬局・卸業者の「負担軽減」と、調査結果の「正確性担保」の2つの視点に立ち、次のような工夫がなされます。
▽現場負担に配慮する観点から、2019年度調査の半分の規模(病院210客体程度、診療所260客体程度、保険薬局500客体程度)とする
▽販売側の負担軽減を図りつつ、一定の調査精度を確保できるよう、販売側調査の抽出率は2/3(67%)に設定する。ただし、全数調査との誤差が一定程度生じることに鑑み、必要に応じて個別精査するなどの対応を併せて行う
この点について、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)や有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)らは「極めて遺憾である」とした上で、▼新型コロナウイルス感染症への対応に追われる医療現場に配慮を行う▼調査結果については通常以上に慎重に検討し、2021年度の薬価改定を行うかどうかは改めて検討する—ことを強く要請しています。
前者の「医療現場」への配慮としては、▼先の豪雨(令和2年7月豪雨)の被災地域の医療機関等は調査対象から除外する(松本委員、島弘志委員:日本病院会副会長から要望)▼医療機関で管理している医薬品購入価格データ等を、調査票に転記せずに提出することなどを可能とする(松本委員から要望)―などが行われる見込みです。
また後者の「2021年度薬価改定実施の是非」については、毎年度薬価改定方針が固められた時点(2018年・2019年)には想定されなかった「新型コロナウイルス感染症」の要素を勘案して、今後、中医協で改めて検討することになります。診療側委員は「新型コロナウイルス感染症への対応(感染防止など)が優先され、価格交渉が進んでない。今般の薬価調査の結果は、医療現場とは齟齬が出る。その結果をもとに薬価改定を行うことは、極めて慎重に考えるべき」と要望しています。
もっとも、この点について支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は、上述の「全数調査との誤差が一定程度生じることに鑑み、必要に応じて個別精査するなどの対応を併せて行う」ことで乗り切れるのではないか、とも見ています。例えば、これまでの薬価調査データに照らせば、抽出率を67%にした場合には、▼新薬の0.1%▼後発品の3.0%▼その他の1.6%―の品目について「5%以上の価格乖離」(全数調査した場合に把握できた価格と、67%抽出調査で把握した価格との差が5%以上)が生じることが分かっています。幸野委員は、こうしたデータに基づいて「補正」等を行えば、改定の根拠資料として十分な精度の「薬価調査結果」が得られると見ているのです。
今後(8月以降)、中医協において「2021年度薬価改定の対象となる品目」「2021年度薬価改定の適用ルール」などを検討していくことになり、「補正」手法も議題にあがると思われます。調査結果の速報値は今年(2020年)12月上旬に中医協に報告され、年内に「2021年度薬価改定内容」が決定される見込みです。
なお、幸野委員は「新型コロナウイルス感染症で医療機関等のみならず、日本経済全体が大きなダメージを受け、医療保険財政も厳しい。そうした中でこそ、国民負担軽減のために薬価調査・薬価改定を実施すべき」と強調しています。
毎年度薬価改定のベースとなる薬価制度抜本改革は、「▼国民皆保険の持続性▼イノベーションの推進―を両立しながら、▼国民負担の軽減▼医療の質の向上―を実現する」との趣旨で進められてきています。薬価を市場価格に合わせて引き下げる(通常は薬価>市場価格である)取り組みは、国民の負担軽減・国民皆保険の持続性確保に直結するものであり、幸野委員の指摘は「医療現場の窮状に配慮したうえで、薬価制度抜本改革の原則に立ち返るべき」との考えに基づくものでしょう。
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