効能追加などで市場拡大した医薬品の薬価再算定、対象や引き下げ方法の議論開始―中医協薬価専門部会
2017.1.11.(水)
薬価制度の抜本改革に向けて、まず「効能追加などに伴う市場拡大への対応」や「薬価算定方式の正確性・透明性」「外国平均価格調整の在り方」などを議論し、5月頃を目途に第1回目の関係者ヒアリングを実施。さらに「薬価算定方式」などについて具体的な議論を詰め、10月頃を目途に第2回目の関係者ヒアリングを行い、12月に改革の骨子を取りまとめる―。
11日に開かれた中央社会保険医療協議会の薬価専門部会では、こうしたスケジュール案が厚生労働省から提示されました。
また11日には「効能追加などに伴う市場拡大への対応」について具体的な議論をスタートさせており、今後、▼対象品目▼薬価引き下げの方法―などを検討していくことになっています。
基本方針に沿って具体的な薬価抜本改革を議論、関係者ヒアリングも
昨年(2016年)末に、塩崎恭久厚生労働大臣、麻生太郎財務大臣、菅義偉内閣官房長官、石原伸晃内閣府特命担当大臣の4大臣会合で「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」が決定されました(厚労省のサイトはこちら)。中医協では、この基本方針に沿って具体的な改革案を検討していきます。
その検討スケジュールについて厚労省保険局医療課の中山智紀薬剤管理官は、次のような考え方を明らかにしました。
【本年5月頃まで】
▼効能追加などに伴う市場拡大への対応▼薬価算定方式の正確性・透明性(1)▼外国平均価格調整の在り方▼中間年の薬価調査・薬価改定(1)▼後発医薬品の薬価の在り方―などを議論し、5月頃を目途に第1回目の関係者ヒアリングを行う
【本年6月-10月頃まで】
▼薬価算定方式の正確性・透明性(2)▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の在り方▼中間年の薬価調査・薬価改定(2)▼長期収載品の薬価の在り方▼イノベーションの評価―などを議論し、10月頃を目途に第2回目の関係者ヒアリングを行う
【本年12月】改革の骨子を取りまとめる
各論点は相互に関係するため、行きつ戻りつしながら改革案を練っていくことになります。またいずれの項目についてもさまざまな課題があるため、スケジュール通りに議論が進むかどうかは未知数ですが、11日の薬価専門部会ではこのスケジュールに異論は出ていません。さらに、費用対効果評価の本格導入など、基本方針に示された他のテーマについても、別の会議(例えば中医協の費用対効果評価専門部会など)で並行して議論されます。
効能追加なくとも、市場が大幅に拡大したものは再算定の対象にすべきと支払側
11日の薬価専門部会では、抜本改革に向けた具体的議論の第1弾として「効能追加などに伴う市場拡大への対応」も議題となりました(厚労省のサイトはこちら)。オプジーボにおいて、患者数の多い非小生細胞がんへの効能効果が追加されたにも関わらず、2年超に渡り極めて高額の薬価が維持されることとなったことが、このテーマの契機となったのは記憶に新しいところです。
基本方針では、こうした事態を避けるために「保険収載後の状況の変化に対応できるよう、効能追加などに伴う一定規模以上の市場拡大に速やかに対応するため、新薬収載の機会を最大限活用して、年4回薬価を見直す」ことが明確にされました。
厚労省はこの方針を具体化するに当たり、次のような検討課題を提示しています。
(1)対象となる医薬品の範囲
(2)薬価引き下げの方法
(3)販売数量の把握
(4)制度の導入時期
(1)では、例えば「一定規模以上をどの程度とするのか」「類似薬がなく新たな医薬品市場が拡大するケースをどう考えるか」「競合品とのシェアが変化するだけで、医療保険財政への影響がほとんどないケースをどう考えるか」という細かい論点があります。
この点について支払側の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)は「少なくとも現行の市場拡大再算定の対象となる医薬品は含めるべき」と提案。また同じく支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「効能効果追加がなくとも、市場が大幅に拡大したものは、国民皆保険維持のために薬価の引き下げを行うべきである」と強調しています。
なお「競合品とのシェアが変わるのみ」の医薬品について加茂谷佳明専門委員(塩野義製薬株式会社常務執行役員)は「医療保険財政への影響はなく、対象から除外すべき」と主張しています。例えばAという疾患の治療薬としてαとβがあり、それぞれ500億円、合わせて1000億円の市場であった場合、合計市場は変わらずβのシェアが900億円になるようなケースで、βを薬価引き下げの対象とすべきか否かというテーマです。抜本改革の目的の1つが「国民皆保険の維持」である点に鑑みると、このケースは除外してもよいように思われます。
(2)の薬価引き下げの方法に関連して、現行では▼市場拡大再算定▼特例の市場拡大再算定▼用法用量変化再算定▼効能変化再算定―といったルールがありますが、厚労省保険局医療課の担当者は、これに限定されず引き下げ方法を探っていくとの考えを述べています。この点について吉森委員は「現行の市場拡大再算定ルールを基本とすべきで。新ルール(新たな引き下げ方法)を検討するのであれば、客観的なデータに基づいて議論する必要がある」とコメントしています。吉森委員は「現行の市場拡大再算定と切り離して新しいルールを設けるよりも、現行ルールを含めて一体として議論するべき」との考えも示しています。
(3)の販売数量把握について、現在の再算定では2年に一度の薬価調査が基礎資料となりますが、「年4回引き下げる」ための根拠データ(市場規模)をどう把握するかが課題となります。この点、厚労省保険局医療課の迫井正深課長と中山薬剤管理官は「すべての給付データが格納されるNDB(National Data Base)を活用してはどうか」との考えを表明。診療側の中川俊男委員(日本医師会副会長)からは「医薬品の市場統計を行っているアイ・エス・エム・ジャパン社のデータも活用してはどうか」との提案も出ています。
(4)の導入時期について、中山薬剤管理官は「2018年度改定に先駆けて」(つまり2017年度中に)実施することをどう考えるか」との論点を示しています。この点、メーカー代表である加茂谷専門委員は「企業経営においては予見可能性が極めて重要となる。前倒し実施の考え方は理解できるが、2017年度事業計画を固めているメーカーも少なくなく、配慮してほしい」と訴えています。
再算定ルールは、基本的な薬価算定ルールの下に設けられるものであること、基本的な薬価算定ルールの確定が今年12月と予想されることなどを考えると、「効能効果追加などにおける再算定」の前倒し実施には、高いハードルがありそうです。
また薬価が期中に引き下げられる場合、医療機関や卸業者が抱える「在庫」をどう考えるか、という問題も施行時期などに関係してきます。
なお、こうしたテーマに関連し、中川委員は「現在、効能効果追加が薬事・食品衛生審議会で承認されれば、自動的に薬価基準にも収載されるが、この仕組みがオプジーボ問題の契機になったと思う」とし、今後「効能効果追加が薬事承認された後、最適使用推進ガイドラインなどと合わせて、中医協で最終的に効能効果追加を認める(新薬の承認、保険収載と同じ手続きとする)」という仕組みに見直すべきと提案しました。
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