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新薬の価値そのものに着目した評価を求めるメーカーに対し、中医協委員は「新薬開発の競争促進」も重要と指摘―中医協・薬価専門部会

2019.7.29.(月)

 新薬創出・適応外薬解消等促進加算では、「医薬品そのものの有用性・画期性」に加えて、「当該企業の新薬開発状況」をも踏まえた評価が行われているが、「医薬品の価値」に当該企業の新薬開発状況は関係なく、「医薬品そのものの有用性・画期性」のみを評価軸に据えるべきである―。 

 7月24日に開催された中央社会保険医療協議会の薬価専門部会では、関係団体からこういった意見陳述が行われました。

7月24日に開催された、「第154回 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会」

7月24日に開催された、「第154回 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会」

 

中医協委員は「新薬開発の競争」を促す必要があるとの考えを強調

 2020年度の薬価制度改革に向けた議論が中医協の薬価専門部会で進んでいます。5月29日の前回会合では、下部組織である薬価算定組織から、例えば▼新規収載時に新薬創出・適応外薬解消等促進加算(以下、新薬創出等加算)の要件を満たさなかった医薬品についても、収載後に追加された効能が、新規作用機序により既存治療に比した優越性を示した場合には、薬価改定時に新薬創出等加算の対象とする(現在、小児・希少疾病等への効能追加があった場合などにのみ加算が行われる)▼新規作用機序医薬品であって、加算適用品を比較薬として算定するものは、新薬創出等加算の対象とする(有用性と革新性の程度が加算適用品と同程度であると考えられる)▼高齢者(特に75歳以上や要介護状態にある高齢者)を対象とした治験を行い、臨床上高い有用性を示したことを、「有用性加算の加算率を検討する上での要件」の1つとする▼「著しく単価の高い再生医療等製品」について、補正加算率を傾斜配分する(低い加算率と設定する)―などの提案がなされました(関連記事はこちら)。

 7月24日の会合では関係団体(日本製薬団体連合会、日本ジェネリック製薬協会、米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(efpia)、日本医薬品卸売業連合会、再生医療イノベーションフォーラム、日本バイオテク協議会)から意見聴取を行いました。

 意見は膨大ですが、そのポイントを少し整理してみると、例えば新薬の薬価算定について、▼新薬創出等加算について、医療上の必要性の高さや革新性・有用性の評価に基づく品目要件の拡充を行うとともに、公平性に欠け、予見性に乏しい現行の企業指標は廃止し、企業要件を見直すべき▼原価計算方式の適用が結果的に限定的になるよう、臨床的位置づけ等の医療実態も総合的に勘案し、類似薬の対象を拡大する仕組みを検討すべき▼薬価収載時の有用性評価において、患者・医療従事者双方の治療負担軽減や治療の質向上に資する医療的価値を評価し得る要件の見直しを検討すべき▼薬価収載後の効能追加や市販後のエビデンス等に基づき、改定時に評価を行う仕組みを導入すべき―と提案。

また長期収載品・後発品については、▼段階的引下げまでの期間について拙速に見直すべきではない▼G1/G2ルールによる後発品価格を基準とした薬価の引き下げについて、安定供給の観点から、「引き下げ率の下げ止め」や「影響の大きい企業への円滑実施措置」を継続すべき▼後発品の初収載の薬価については、継続的な新規後発品の上市と多くの低薬価品の安定供給に必要なコスト確保のために見直すべきではない―との考えを提示しています。

このうち、新薬創出等加算の仕組みの大枠をお浚いしてみましょう。2018年度には新薬創出等加算の仕組みが大きく見直され、「品目要件」と「企業要件」とを組み合わせたものとなりました(関連記事はこちら)。

(1)【品目要件】について、現在の「薬価と市場実勢価格の乖離率が、全品目の平均以下である製品」という基準から、▼希少疾病用医薬品▼開発公募品▼加算適用品▼革新性・有用性のある新規作用機序医薬品―に厳格化する

(2)【企業要件】についてメリハリをつけ、▼新薬の収載実績▼開発要請への対応実績―など(企業指標)をポイント化し、ポイント合計に応じて、(1)の品目要件を満たしていても「加算の減額」を行う(上位25%メーカーの製品は加算の減額を行わないが、それ以外のメーカーの製品は加算を90%または80%(最下位)に減額する)
中医協薬価専門部会 190529

このうち(2)の「企業指標」についてメーカーサイドは▼大企業ほど新薬の収載実績などが多くなり有利となる(ベンチャーは不利になる)▼品目そのものの画期性・有用性を評価すべき―と主張しています。

この点、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)らは「企業指標を設けた背景には、相対評価とすることで新薬の開発を競ってもらうためである」「ベンチャー企業の製品については90%加算を維持する仕組みとしている」ことを紹介し、「それほど厳しい仕組みではない」旨を説いています。

「メーカー間の新薬開発競争を促す」との考えも理解できますが、メーカー側の「品目の価値に当該企業の新薬開発状況は関係ない。品目そのものの画期性・有用性を評価すべき」との考えにも大きく頷ける部分があります。メーカーサイドと中医協委員との間に、「大きな見解の相違」があり、今後、積極的に意見交換していくことが期待されます。

なお、中医協の吉森俊和委員(全国健康保険協会理事)や松本吉郎委員(日本医師会常任理事)からは「企業指標を廃止したとして、どのような要件設定が好ましいのか、具体的に提案してほしい」との要望も出ており、メーカーサイドにボールが投げられている状況と見ることもできます。メーカーサイドの「品目そのものの画期性・有用性を評価すべき」との考えに基づけば、「企業指標を廃止」することこそがその答えであるとも言えますが、中医協委員の指摘も踏まえた「前向きな検討」のために、何らかの「好ましい要件設定の具体案」が提示されることに期待したいところです。

 
また診療側の今村聡委員(日本医師会副会長)は、「メーカーサイドの要望の多くは、薬価引き上げ方向を目指すものと言える。しかし昨今、医師は『患者負担』を考慮して医薬品処方をしている(つまり同じ効能効果であれば、安い医薬品を処方する)。薬価の引き上げが本当に企業側のメリットになるのか、再考したほうが良いのではないか」ともコメントしています。

 
 
薬価専門部会では、秋以降、「薬価算定ルール見直し」に向けた具体的な検討を始めます。メーカーサイドの意見は、メーカー代表の立場で薬価専門部会に参画する専門委員から改めて主張されると考えられ、激しい議論になることが予想されます。

   
 
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