2023年度の薬価中間年改定に向けた本格議論開始、対象品目・引き下げ幅・適用ルールなどをどう考えていくか—中医協・薬価専門部会
2022.10.6.(木)
来年度(2023年度)に行われる薬価改定(毎年度改定、中間改定)に向けた本格論議が、10月5日の中央社会保険医療協議会・薬価専門部会で始まりました。
「対象品目をどう考えるのか」「改定後の新薬価設定にあたり、2021年度改定のようなコロナ特例対応を行うのか」などを、業界の意見・別検討会(医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会)の意見・薬価調査結果等を踏まえながら議論していきます。改定率は年末の予算編成過程で別途決定されます。
2021年度の前回中間年改定では「コロナ対応特例」として薬価引き下げを0.8%緩和
薬価制度の抜本改革が2018年度に行われました(関連記事はこちら(2018年度改革)とこちら(2020年度改革))。
「国民皆保険の持続性確保」と「イノベーションの推進」を両立しながら、「国民負担の軽減」「医療の質の向上」の実現を目指すものです。具体的には、▼新薬創出・適応外薬解消等促進加算の対象品目の限定(真に医療上必要な医薬品について価格の下支えを行う)▼長期収載品から後発医薬品への置き換えを促進するための新ルール(G1・G2ルール)の創設)▼費用対効果評価に基づく価格調整ルールの導入など―のほか、「毎年度の薬価改定の実施」が主な内容となっています。
ここで言う薬価改定は、公的価格・保険償還価格である「薬価」を、取引価格・市場実勢価格(卸-医療機関・薬局間での購入・販売価格)を踏まえて見直していくことを意味します。このほかに様々な制度改革も含めた薬価改革が2年に一度行われますが、「毎年度の薬価改定」では「薬価を、市場実勢価格を踏まえて下げていく」ことが中心になります。
多くの医薬品について、医療機関や薬局は「薬価よりも低い価格」で購入(市場実勢価格、取引価格)し、保険者や患者へは公定価格である「薬価」で請求を行います(両者の差が、いわゆる「薬価差」である)。医療保険財政の健全化などを目的に「市場実勢価格を踏まえて、薬価を引き下げていく」ことが求められ、従前からの「診療報酬改定に合わせて2年に1度行う薬価改定」を、「中間年にも行う」ことになったものです。
7月20日の中医協総会で、▼2023年度の中間年改定に向け、2022年度に薬価調査を行う(調査内容は2021年度の前回中間年改定に向けた2020年度薬価調査と同様に行う)▼薬価改定の具体的な内容は薬価専門部会で議論していく—ことを決定(関連記事はこちら)。この決定を受けて、10月5日の薬価専門部会で「中間年改定の詳細」論議が始まりました。
今後、大きく(1)対象品目をどう考えるか(2)薬価の引き下げをどの程度行うか(3)どのような算定ルールを適正するか—を議論していきます。
まず(1)の対象品目について、前回中間年改定(2021年度)改定では「国民負担軽減の観点から『できる限り広くする』ことが適当である状況のもと、平均乖離率8%の0.5-0.75倍の中間である0.625倍(乖離率5%)を超える価格乖離の大きな品目を対象とする」こととされました(関連記事はこちら)。「新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で医療機関等、製薬メーカー、卸業者の事務負担等を軽くするために対象は狭く設定すべき」との考えと、「国民の経済的負担を軽減するあめに対象は広く設定すべき」との考え方とのバランスを考慮したものです。
10月5日の薬価専門部会では、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「2023年度の中間年改定も、2021年度改定と同程度(医療用医薬品の約70%)となるように対象品目を設定すべき」との考えを、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「コロナ感染症の状況も踏まえ、乖離率の大きな品目に限定して行うべき。ただし予め基準を定めるのではなく、経済財政状況や医療機関・薬局の経営状況などを総合的に判断して慎重に考えていくべき」との考え、同じく診療側の有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)も「乖離率の大きな費目に限定すべき」との考えを述べています。
最終的には、薬価調査結果(12月上旬に公表)や来年度(2023年度)予算案などを踏まえて決定されますが、それまでの間にも薬価専門部会で「対象品目をどう考えていくべきか」を議論していくことになります。
また(2)の引き下げ幅について、通常の改定(2年に一度の薬価改定)では「乖離率(薬価と市場実績価格との差)から調整幅2%を差し引く」形で設定します。「薬価と市場実勢価格との乖離がゼロになる」ように引き下げるのでは、例えば過疎地などの医療機関・薬局に納入する際のコストなどを卸業者が被らなければならない事態が生じ、医薬品流通に大きな支障が出てしまうためです。
この点、2021年度の前回中間年改定では「調整幅2%に加え、新型コロナウイルス感染症特例として薬価の削減幅を0.8%分緩和する」措置が行われました。例えば「改定前薬価が100円、乖離率が10%の品目」であれば、通常改定では「10%-2%(調整幅)」の8%引き下げ行われ改定後薬価は92円になるところ、2021年度の空間年改定では「10%-2%(調整幅)-0.8%(コロナ特例分)」の7.2%引き下げとなり、改定後薬価は92.8円となるイメージです(関連記事はこちら)。
2023年度の次期中間年改定の引き下げ幅も、最終的には、薬価調査結果(12月上旬に公表)や来年度(2023年度)予算案などを踏まえて決定されますが、薬価専門部会で「コロナ特例を継続するか」「継続する場合、同じ緩和幅(0.8%)とすべきか」などを議論していくことになるでしょう。支払側の松本委員は「コロナ特例0.8%緩和は、2020年度のコロナ感染症第1波で医療機関等-卸間の価格交渉が遅れたことを踏まえたものだ。状況は変わり緩和は不要となっており、2023年度中間年改定では廃止すべき」と早くも強調しています。
なお、調整幅2%について松本委員は「長年、同水準に維持されている。データを見て、見直しの必要がないか積極的に検討すべき」旨を訴えましたが、長島委員は「現在の医療用医薬品流通は調整幅2%をベースに組み立てられている。調整幅を見直せば、流通や価格交渉にも大きな影響が出る。見直し論議は慎重に行うべき」と松本委員を牽制しています。従前より続く論点であり、今後の議論に注目が集まります。
また(3)の算定ルールについては、中間年改定にも「市場実勢価格に連動する算定ルール」(最低薬価など)だけでなく、「市場実勢価格に連動しない算定ルール」(新薬創出・適応外薬解消等促進加算の累積控除など)を適用すべきかが議論になります。
2021年度の前回中間年改定では、前者の「市場実勢価格に連動する算定ルール」のみが適用されました(関連記事はこちら)。診療側の長島委員や有澤委員は「中間年改定の在り方に鑑み、2023年度も市場実勢価格に連動する算定ルールのみを適用すべき」と強調しました。
これに対し支払側の松本委員は、例えば「新薬創出等加算の累積控除」や「長期収載品のG1 ・G2ルール」(長期収載品から後発品への置き換えを促進するため、長期収載品の価格を引き下げていく仕組み)などは「市場実勢価格に連動する算定ルール」と言えるとし、2023年度の次期中間年改定で適用すべきと要請しました。
新薬創出等加算は、▼製品そのものに革新性があり、医療現場にとって欠かせない(品目要件)▼当該製品を開発するメーカーが、革新的な創薬に向けた成果を出している(企業要件・企業指標)―という2軸で選定した画期的な医薬品について「一定程度の薬価の維持(薬価引き下げの猶予)を認める」ものです(加算を原資として、メーカーが優れた医薬品開発を行うことを期待する仕組み)。
ただし、永久に「一定程度の薬価維持」が認められるものではなく、一定期間後(後発品が上市された後、または薬価収載から15年経過後)には、薬価改定の折に「それまで猶予されていた分の価格引き下げ」(累積控除)が行われます。松本委員は、中間年改定でもこの累積控除を行うべきと主張しています。保険財政の健全化を考慮すれば「中間年改定でも累積控除を行うべき」との考え方に近くなりますが、一方で優れた医薬品の開発・製造に尽力する製薬メーカーにとっては「累積控除が1年前倒しされ、経営の見通しが不明瞭」になってしまいます。今後も薬価専門部会で、様々な側面から検討が加えられることでしょう。
このほか、2023年度の中間年改定を考えていくうえでは、▼2021年度の前回中間年改定の評価▼医薬品の安定供給確保▼新たに設置された「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の状況(関連記事はこちら)▼関係業界(内外の製薬メーカー、卸業者)の意見—なども踏まえる必要があります。
なお、診療側の長島委員は「医療の質向上のために、薬価引き下げ分の一部は診療報酬に振り向けていくことを念頭に置いた議論もすべき」旨の見解を示しましたが、支払側の松本委員は即座に「薬価引き下げ分の一部を、診療報酬本体に充当すべきとの意見であれば、それは認められない」と釘を刺しています。
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