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診療報酬改定セミナー2024 看護モニタリング

物価・エネルギー費・人件費の高騰で病院経営は非常に厳しい、手術に用いる医療材料等も入手困難な事態に―外保連

2023.10.25.(水)

昨今の「物価高騰」「エネルギー費の急騰」「人件費の高騰」などにより病院経営は非常に厳しい状況にあり、2024年度の次期診療報酬で「十分な手当て」を行うことが強く求められる—。

100の外科系学会で構成される「外科系学会社会保険委員会連合」(外保連)が10月23日に開催した記者懇談会で、こういった極めて強く示されました。

関連して「手術に用いる材料などが入手困難になっている」「がん化学療法の外来移行に支障が出ている」「高齢入院患者の介助に大きな問題が生じている」点なども紹介されています。

外保連の岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)(外保連会見 231023)

物価高騰分で1%、人件費など高騰分で1.5%のプラス改定が必要、食事療養費対応も必須

外保連は、100の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。例えば「実際の手術の状況を踏まえた手術点数の引き上げ」「新規の医療技術の保険適用」などを提言しており、これまでの記者懇談会でも、主に「技術的な提言」に関連するテーマが取り上げられてきました。

しかし、10月23日の記者懇談会では、「病院経営の危機回避」がメインテーマとなりました。それだけ、「物価高騰」「エネルギー費の急騰」「人件費の高騰」が病院経営を苦しめている状況を再確認できます。

述べるまでもなく「物価」「エネルギー費」「人件費」などが高騰を続けています。さらに中東でも戦乱が生じており、今後、ますます物価やエネルギー費が高騰する可能性が高いと指摘する識者もおられます。

一般企業であれば、こうしたコスト増を「商品やサービスの価格に転嫁」して対応する(コスト増を吸収する)ことも一定程度可能ですが、保険医療機関においては、収入のほとんどを占める診療報酬は公定価格であるため、医療機関が勝手に「コスト増を踏まえた引き上げを行う」ことは許されません。このため、経営状況が非常に厳しくなっており、「2024年度の次期診療報酬改定での十分な対応が必要」と外保連は強く訴えています。

例えば、岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)は、各種価格の引き上げ状況を踏まえ、「少なくともコスト割れになるような状況を回避してほしい」とし、次のような診療報酬での対応を行うことを要請。

▽光熱水費分として診療報酬の「1%引き上げ」が必要(医業収益に占める光熱水費の割合が、2021年度には「約3%」であったが、2022・23年度には「約5%」となるため)

▽入院時食事療養費Iについて、現行の「1食につき640円」から「同じく780円」への引き上げが必要(食材費などの物価上昇、管理栄養士・調理師などの人件費上昇、光熱費・調理機器の上昇などに対応するため)

▽人権費・委託費分として診療報酬の「1.5%引き上げ」が必要

また、高度かつ先進的ながん医療を提供する「がん研究会有明病院」の渡邊雅之副院長、一派急性期医療等を幅広く提供する「地域医療機能推進機構」の山本修一理事長からも、同様に「物価、エネルギー費、人件費などが高騰し、病院経営は非常に厳しい状況にある」こと、「2024年度の次期診療報酬で十分な手当てがなされなければ、病院経営が立ち行かなくなってしまう」ことが強く示されました。

この点、骨太方針2023では、2024年度の診療報酬改定に向けて「物価高騰・賃金上昇、経営の状況、支え手が減少する中での人材確保の必要性、患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ、必要なサービスが受けられるよう、必要な対応を行う」旨が示されており、一定の対応が図られると期待されますが、それが十分なものとなるかどうか、今後の動きを注視する必要があるでしょう。



また、岩中会長は、こうした物価高騰などが「外科医療の現場に大きな影響を及ぼしている」ことも紹介しました。例えば、▼IVR治療などで用いる「血管塞栓コイル」など多くの医療機器・医療材料が「欠品」となっている(日本よりも、より高く売れる海外に製品が流れてしまう)▼ドレーンの際の排液バッグなど多くの特定保険医療材料について、納品価格が「公定価格」(償還価格)を上回る逆ザヤが生じている▼手術用ガウンなどの価格が高騰している—ため、外科手術などが「実施困難」に陥りかねない状況となっているのです。

手術に用いる医療材料などが「入手困難」な事態が生じている(外保連1 231023)



さらに岩中会長は、医療現場では「多くの高度医療機器(CT、MRI、放射線治療機器など)について耐用年数をはるかに超過しても使用を継続している(買い替えの原資確保が難しい)」ことや、「建設費など高騰により病院の建て替え、改修が困難になっている」ことも併せて紹介し、「2024年度の診療報酬改定での対応が必須である」と強く訴えています。



また、がん研有明病院の渡邊副院長は「がん化学療法の外来移行が進められているが、外来腫瘍化学療法診療料などの点数設定が十分でなく、一部には『外来から入院への回帰』も進んでいる。これは決して患者のためにはならない。なお、外来化学療法全体の収益は増えているが、この背景には『高額な抗がん剤の登場』があり、『利益』は全く増えていない。現在の点数では、化学療法室スタッフの人件費すら賄うことができない。がん化学療法の外来移行を十分に進め、安全・安心な抗がん剤治療を提供するためにも、点数の引き上げをまず行う必要がある」と強調しています(関連記事はこちら)。

高額な抗がん剤の登場で、外来化学療法の収益全体は上がるが、利益増にはつながってこない(外保連2 231023)

がん研有明病院の渡邊副院長(外保連会見 231023)



さらに、JCHOの山本理事長からは、「現場では看護補助体制が崩壊している。高齢の介助が必要な入院患者が増える中では、介護福祉士の病院配置・評価が不可欠である。JCHO調査では『入院から退院にかけてADLが低下した入院患者が増加している』ことがわかり、早急に手当てを行う必要があると考えている。決して『介護現場から介護福祉士を引きはがせ』と言っているわけではない。高齢化が進む我が国では、医療・介護分野全体でどれだけの介護人材が将来必要となり、医療・介護それぞれに必要な介護人材が配置できるような対応を今からとらなければならない」との訴えが出されました。この考えは、2024年度診療報酬改定を議論する厚生労働省の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(中央社会保険医療協議会の下部組織)でも披露されており、今後、どういった議論に発展していくのか注目を集めます(関連記事はこちらこちらこちら)。

「入院から退院にかけてADLが低下してしまう」患者が増加傾向にあるとの調査結果がある(外保連4 231023)

JCHO病院の看護師の多くが「急性期病棟への介護福祉士配置」を希望しているとのアンケート調査結果もある(外保連5 231023)

JCHOの山本修一理事長(外保連会見 231023)



なお、同日には山本理事長が現在の議長を務める日本病院団体協議会が、2024年度次期診療報酬改定に向けた要望書(第2報)を武見敬三厚生労働大臣に宛てて提出しており、そこには上記の「介護福祉士配置・評価」も含まれています(内容は別稿で報じます)。

日病協要望の重点事項(外保連3 231023)



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