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勤務医の長時間労働是正、看護師から補助者へのタスク・シフト、病院薬剤師確保等も2024診療報酬改定のポイント―入院・外来医療分科会(1)

2023.10.2.(月)

医師を含めた医療従事者全体の業務負担軽減を図るために様々な診療報酬上の手当てが行われてきているが、不十分な点も少なくなく、2024年度の次期診療報酬改定でも最重要論点の1つとなる—。

また医師働き方改革は「2024年4月からの長時間労働規制」で完了するわけではなく、今後も継続推進、さらなる強化の必要性があり、診療報酬での対応が重要な点はいささかも減らない点に留意が必要である—。

9月29日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こういった議論が行われました。同日には「地域包括ケア病棟」「慢性期入院医療」「救急医療管理加算」「短期滞在手術等基本料」「データ提出加算」に関する議論も行われており、別稿で報じます。

地域医療体制確保加算を取得する病院で長時間労働が増えている点をどう考えるべきか

Gem Medで繰り返しお伝えしているとおり、2024年4月から勤務医の新たな労働時間規制がスタートします(医師の働き方改革)。

原則として休日・時間外労働は年間960時間以下とされ(A水準)、▼救急医療など地域医療に欠かせない医療機関(B水準)▼研修医など集中的に多くの症例を経験する必要がある医師(C水準)—など限られた医療機関・医師についてのみ年間1860時間以下という別基準が適用されます。あわせて、一般労働者と比べて「多くの医師が長時間労働に携わらなければならない」状況に鑑みた追加的健康確保措置(▼28時間までの連続勤務時間制限▼9時間以上の勤務間インターバル▼代償休息▼面接指導と必要に応じた就業上の措置(勤務停止など)―など)を講じる義務が医療機関の管理者に課されます。

医師働き方改革の全体像(中医協総会1 210721)



この新たな時間外労働規制のスタートまで、わずか8か月となり、全国の病院では▼労務管理の徹底(労働時間・研鑽時間の把握、36協定の締結、宿日直許可の取得など)▼労働時間の短縮(労働時間と研鑽時間の明確化、タスク・シフティングの推進など)—を進め、院内に1人でも「960時間の時間外労働をする医師」が出現する可能性のある病院では、B水準・連携B水準・C水準などの指定を受ける必要があります(指定を受けなければ960時間を超える残業は認められない)。

診療報酬でも、こうした病院の取り組みを進めるために、例えば2020年度改定では【地域医療体制確保加算】を新設し、2022年度改定でこれを拡充するなどの下支えが薦められてきています。

しかし、6月14日の中央社会保険医療協議会・総会では【地域医療体制確保加算】を取得する病院が増加しているが、これらの病院において、わずかではあるが「勤務医の長時間労働が増加してしまっている」などの実態が明らかになりました。

地域医療体制確保加算取得病院での宿日直許可の状況(中医協総会(1)2 230614)



この点について入院・外来医療分科会では、「各病院で医師働き方改革を進める中で、例えば『宿日直許可を得られないような業務で夜間の業務を交代制勤務に変更。その結果、日中に時間外労働が発生する』などといった経過的な事態が生じている部分もある」(牧野憲一委員:日本病院会常任理事、旭川赤十字病院院長)、「医師の働き方改革が各病院で進められる中で『一部病院への救急医療の集約化』が進み、結果、当該病院で長時間労働が増えている可能性があるのではないか」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)といった見方が出ています。

また津留英智委員(全日本病院協会常任理事)は「2024年4月を迎えれば1860時間を超える長時間残業は基本的に皆無になり、【地域医療体制確保加算】の要件厳格化などは不要である。逆に地域の2次救急病院では、大学からの医師派遣ストップを大変恐れており、むしろ加算要件の柔軟化が必要である」と、山本修一分科会長代理(地域医療機能推進機構理事長)は「より要件の緩やかな加算2を設けるなど、柔軟な加算に見直していくべき」旨を主張。これに対し中野惠委員(健康保険組合連合会参与)は「医師働き方改革の実効性を高める必要があり、加算要件の厳格化が必要である」と反論しています。

【地域医療体制確保加算】は、とりわけ勤務医の負担が大きいと考えられる「救急搬送受け入れ件数の多い病院」において、「医師労働時間短縮計画」の作成・実施を進めることを評価し、結果「勤務医の負担軽減」を目指すものです。「入院初日に620点」という高い点数が設定されており、「成果が出ていない場合には、加算の継続を考え直さなければならない」と強く指摘する向きもあります(関連記事はこちら)。今後、より詳細に「なぜ加算取得病院で長時間労働が増えてしまっているのか」を把握・分析し、その結果を踏まえて「要件追加(厳格化)」が検討される可能性も否定できません。



ところで、医師働き方改革は「2024年度から960時間・1860時間等の上限を設ける」ことで完了するわけではありません。例えば。例外的に1860時間までの長時間労働が認められるB水準(地域医療確保暫定特例水準)については「2035年度で終了し、基本的にB水準病院は960時間以内のA水準に移行する」ことが求められ、2024年度以降も継続して医師働き方改革に強力に取り組んでいく必要があります。このため、【地域医療確保体制加算】をはじめ、医師働き方改革を下支えする各種加算等の重要性は、2024年度以降も、いささかも減るものではない点に留意が必要です。

勤務医負担軽減効果の高い医師事務作業補助体制加算、更なる拡充を求める声

勤務医の負担軽減に向けては「医療クラークの活用」が極めて有用であると現場で高い評価がなされ、【医師事務作業補助体制加算】の拡充が進められてきています。2022年度の前回診療報酬改定では「医療クラークの安定雇用、スキルアップ」を図ることなども目指し、▼加算1において「当該保険医療機関での3年以上の医師事務作業補助者経験を有する医師事務作業補助者を区分ごとに5割以上配置する」との要件強化▼点数の引き上げ—が行われています。

改定後の状況を見ると、加算取得病院の▼57%で医師事務作業補助者の人事考課を実施している▼94%で医師事務作業補助者への院内教育・新人研修を実施している—など「医療クラークの安定雇用、スキルアップ」に向けた取り組みが相当程度進んでいることが確認されています。

医療クラークの人事状況(入院・外来医療分科会(1)1 230929)



入院・外来医療分科会でも「2022年度改定での【医師事務作業補助体制加算】見直しは良いものであり、スキルの高い医療クラークが育ってきている」と多くの委員が高く評価。そのうえで、さらなる勤務医の負担軽減に向けて、「高額なレセプト等では『症状詳記』が求められる。この負担が医師には大きく、医療クラークに当該業務を任せることなどを検討できないだろうか」(牧野委員)、「救急要件(15対1の加算1では「年間の緊急入院患者数が800名以上」など)をクリアできない病院でも勤務医負担が大きなケースも少なくなく工夫を求めたい。さらなる医療クラークのスキルアップを目指した点数引き上げも検討すべき」(津留委員)等の要望が出ています。医療現場での評価が高く、また勤務医負担軽減の効果も確認されており、こうした要望も「前向きに受け止められる」可能性が高そうです。

ICU等では専任医師の常時「勤務」が、HCU等では「常時いる」ことが求められるが・・・

ところで、6月14日の中央社会保険医療協議会・総会ではICU等での宿日直許可にも注目が集まりました。

例えば特定集中治療室管理料では、施設基準の解釈通知において「専任の医師が常時治療室内に勤務していること」が求められており、これは宿日直許可基準における「医師・看護師等の宿日直は『通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のもの』で、『特殊の措置を必要としない軽度または短時間の業務』実施のみを行う場合に限って認められる」等の考え方とマッチしないのではないか、との指摘がなされたのです。

厚労省の調べでは、一般病棟だけでなく、各種ユニットにおいても「宿日直許可を得ているケースが少なからずある(院内の「すべての業務で宿日直許可を得ている」、あるいは院内の「一部業務(例えば一般病棟、ICU、救急など)で宿日直許可を得ている」)ことが明らかになりました。

宿日直許可の取得状況(入院・外来医療分科会(1)2 230929)



ただし、この調査は「医療機関単位で、どの業務(例えばICU業務)について宿日直許可を得ているか」を調べたものであり、例えば「ICUに常時勤務する専任の医師、その人が宿日直許可を得ている」かどうかまでは判別できません。このため上記の指摘を踏まえた厳密な分析は困難です。

この点については、「ICUなどではチームを組んで業務を行っており、業務内容や密度にも濃淡がある点を考慮すべき」(牧野委員)、「ユニット内のすべての医師が常にモニターを凝視し、何らかの処置を行っているわけではない。柔軟な対応を認めなければ集中治療に携わる医師がいなくなってしまう」(津留委員)、「診療報酬と宿日直許可とは分けて議論すべきではないか」(猪口委員)、「医師の勤務状況に応じた段階的なユニット評価を検討してはどうか」(鳥海弥寿雄委員:東京慈恵会医科大学医療保険指導室室長)といった声が出る一方、「ICU等における医師等の勤務・業務実態を明確にし、それを踏まえて『高い点数を取得するために必要な体制をどう考えるか』を検討すべき。ユニット勤務医の負担は患者の状態とも密接に関連するため、SOFAスコア導入とも合わせて検討してく必要がある」との考えが中野委員から示されています。

こうした意見を踏まえて厚労省では、「特定集中治療室等では『専任医師が常時勤務していること』が求められるが、ハイケアユニット等では『専任医師が常時いること』が求められ、両者の記載に違いがある。少なくとも2024年度の次期改定に向け、何が『常時勤務』に該当し、何が『常時いる』に該当するのかを整理する必要がある」との考えを示しています。

手術等の時間外加算1、取得病院でも未取得病院でも勤務感インターバルへの配慮は同程度

また、2022年度の前回改定では、手術・処置の【休日加算1】、【時間外加算1】、【深夜加算1】について、▼記録要件について、「予定手術前日の当直等」に加えて、「2日以上の連続当直」を加える▼当直要件(現在、当直医が6人以上の場合には予定手術前日当直制限が通常の12日から24日に緩和される)について、「予定手術前日の当直が4日以内」かつ「2日以上の連続当直が年4日以内」に改める—といった見直しが行われました。「特定の医師への負担集中」を避ける狙いがあります。

手術等の時間外加算1等における施設基準見直し(2022年度診療報酬改定)



この点、今般の厚労省調査からは「時間外加算1等を取得している医療機関」(今回調査では20.9%)と、取得していない医療機関(同79.1%)とで「当直明けの医師の勤務について、勤務間インターバルの配慮をしている」割合に大きな差がない、ことが分かりました。

時間外加算1等の取得状況と勤務間インターバルとの関係(入院・外来医療分科会(1)3 230929)



2024年4月からは、B・C水準では「勤務間インターバル(24時間以内に9時間以上など)の確保」などの追加的健康確保措置が義務化され、A水準でも努力義務となります。そうした中で、時間外加算1等が追加的健康確保措置の推進に向けて、大きな効果をあげていない状況が明らかになったと言え、2024年度改定で「追加的健康確保措置の推進」を強化するような見直しが検討テーマに上がってくる可能性があります。小池創一委員(自治医科大学地域医療学センター地域医療政策部門教授)は「努力義務が課されている病院でこそ、追加的健康確保措置の実施が重要である(=加算要件等を工夫し実施促す必要がある)点に留意すべき」と、山本分科会長代理は「病院勤務医の多くは兼業をしており、本務先と兼務先との勤務実態をICT等で正確に把握・共有する仕掛けが重要となる。また時間外加算1など取得のために綿密なシフトを作成しても、何らかの事情で医師が1人欠けただけでシフトが崩壊し、加算取得ができなくなる。根本的な見直しが必要である」とコメントしています。

看護師から補助者へのタスク・シフトをどう進める?介護福祉士配置の病棟配置の是非は

医師の働き方改革で重視される方策の1つにタスク・シフトがあります。医師は「医師免許取得者でなければ実施できない業務」に専念し、それ以外の業務は他職種に移管していくというもので、移管先としては「最も人数が多く、患者に接する機会が最も多い看護師」に注目が集まります。

しかし、看護師もすでに「極めて多忙」であり、ここに「医師から移管される業務」が乗ることで、さらに多忙さが増してしまいます。このため「看護師の業務負担軽減」も極めて重要となり、例えば「看護師から看護補助者へのタスク・シフト」などが重要です。

2022年度の前回改定でも、この点が重視され、例えば▼夜間の看護・看護補助配置強化を評価する加算について点数を引き上げる▼夜間の看護配置強化等を評価する加算について、負担軽減の取り組み事項を厳格化する(「連続夜勤2回以下」などの項目を必須化するなど)▼看護補助者との業務分担・協働に関する看護職員を対象とした研修実施等、看護補助者の活用に係る十分な体制を整備する病棟を、新たに【看護補助体制充実加算】として評価する—などの対応が図られています(関連記事はこちら)。

もっとも、こうした対応で「看護師の負担軽減」が完了するわけではなく、▼看護職員は「日中・夜間の患者のADLや行動の見守り・付添」「排泄」といった業務について、「負担が非常に大きい」と感じている▼看護職員の業務負担軽減に向け「病棟クラークの配置」「入退院支援部門のスタッフとの業務分担」「看護補助者の配置」「薬剤師の病棟配置」「11時間以上の勤務間隔の確保」等で効果が感じられている▼【看護補助体制充実加算】の取得割合は、急性期看護補助体制加算取得施設の4割、看護補助加算取得施設の2割超にとどまっている—等の課題に対応していく必要があります。

看護師の業務負担感(入院・外来医療分科会(1)4 230929)

看護師の業務負担軽減効果(入院・外来医療分科会(1)5 230929)

看護補助体制充実加算の取得状況(入院・外来医療分科会(1)6 230929)



この点、「日中・夜間の患者のADLや行動の見守り・付添や排泄などについて、補助者にタスク・シフトしたいが、できない。看護師の増員を可能とするような診療報酬の下支えが必要で、例えば【看護職員夜間配置加算】について、現在の最上位12対1よりも手厚い10対1区分等を設けるべき」(秋山智弥委員:名古屋大学医学部附属病院卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授)、「看護補助者確保が極めて困難である。【看護補助体制充実加算】を中小の回復期・慢性期機能を持つ病院でも取得が可能になるような工夫を検討すべき」(武井純子委員:社会医療法人財団慈泉会相澤健康センター総合管理部長)等の提案がなされました。

さらに田宮菜奈子委員(筑波大学医学医療系教授)は「介護福祉士は介護の世界では国家資格取得者としてアイデンティティが確保されるが、医療の世界では看護補助者として無資格者と同じく扱われアイデンティティが確保されない。プロフェッショナルとしての介護福祉士業務を医療の世界(診療報酬)でも評価すべきではないか」と提案し、井川誠一郎委員(日本慢性期医療協会副会長)や山本分科会長代理もこの考えに強く賛意を表明しています。

高齢の救急患者・急性期患者を「どの病棟で対応すべきか」との問題とも関連する、非常に重要な検討テーマと言えます。

ただし山本分科会長代理は、自身の入院時の経験をもとに「看護補助者自身が直接的ケアを厭うケースが多く、配膳・下膳すら看護師が担当するケースが多い。そうした実態を踏まえた対応が必要となる」と付言しています。また「補助者の成り手が既に不足し、減少を続けている」点にも留意が必要でしょう。

病棟薬剤師の確保に向けた加算引き上げ、病棟薬剤師の業務範囲拡大なども今後検討

ところで、勤務医の業務負担軽減として「薬剤師へのタスク・シフト」に極めて大きな期待が集まっています(関連記事はこちら)。一方で、病院では「薬剤師の確保に難渋している」ことが従前から指摘され、データからも明らかになっています(関連記事はこちら)。

医師の負担軽減策の実施状況(入院・外来医療分科会(4)6 230608)



この点については「外来での医療安全確保(例えばCT造影剤と糖尿病などの生活習慣病治療薬との併用の可否チェックなど)のために、病棟薬剤師に一定程度、外来での業務実施を認めることが考えられないか」(牧野委員)、「【病棟薬剤業務実施加算】の評価を引き上げ、病棟での薬剤師確保につながるようにすべき」(猪口委員)、「医師の負担軽減に資する広範な薬剤師の取り組み、患者退院後の薬局薬剤師と病院薬剤師との情報連携などを診療報酬で手厚く評価すべきである」(眞野成康委員:東北大学病院教授・薬剤部長)、「報酬だけで薬局薬剤師と病院薬剤師との給与差を埋めることは困難だが、診療報酬の面からも『病棟薬剤師の処遇改善』に向けたメッセージを示すべき」(山本分科会長代理)などの提案が出ています。



ところで、優れた医療従事者を確保するためには「高待遇」を保証する必要もあり、財源が必要となります。このため医療従事者サイドからは「点数の引き上げ」を求める声が多く出ています。

しかし、各種加算等について「医療従事者の処遇改善につながっているのか見えにくい」との指摘もあります。このため、2022年度の診療報酬改定で新設された【看護職員処遇改善評価料】では「看護師の処遇改善にすべて充当する」ことが求められています(関連記事はこちら)。

極めて画期的な要件設定ですが、経済団体や保険者サイドからは「医療従事者の処遇改善は、本来は院内で解決すべき事項である」(院内で医療従事者の給与増に向けた財源を確保すべき)との指摘もあります。

医療従事者の処遇改善に向けて、「処遇改善と紐づけた加算」を増やしていくべきなのか、「一般の加算を設け、各医療機関で処遇改善に充てるか否かの検討を求める」べきなのか。いずれにも一長一短があり、「どちらが優れている」と断ずることはできず、今後、「医療従事者の確保が難しくなる」中で検討を継続すべき事項の1つになりそうです。



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