2024年度からの「医師働き方改革」に向け、B・C水準指定や健康確保措置の詳細固まる―医師働き方改革推進検討会
2020.12.15.(火)
12月14日に開催された「医師の働き方改革の推進に関する検討会」(以下、検討会)で、2024年度からスタートする「医師の働き方改革」を推進する枠組みが取りまとめられました。
近く社会保障審議会・医療部会での了承を経て、次期通常国会への医療法等改正案(医師働き方改革関連法案)提出に向けた準備が進められます。
各医療機関では「労務管理の徹底」や「タスク・シフティング」などを今から進める必要があります。
目次
2024年度から「原則960時間」までの時間外労働上限を勤務医に適用
検討会では、こうした「医師の働き方改革」の制度化(法令等の規定整備)に向けて▼B・C水準の対象医療機関や指定の枠組み▼追加的健康確保措置の内容と実施確保―などの検討を昨年7月から進めてきました。
まず「医師の働き方改革」は次のような枠組みで推進されます。
(1)各医療機関で勤務医の労働時間短縮を進め、「時間外・休日の労働時間合計が年間960時間以内」とすることを目指す
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(2)労働時間短縮を徹底してもなお「960時間を超える時間外労働が必要な勤務医」がいる場合にB水準指定等を受ける
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(3)長時間労働は勤務医の健康を損ねる可能性があることから、健康確保措置の実施を義務付ける
「勤務医の労働時間短縮」が目標であるため、「A水準が原則」であり、「B水準等は例外」であることに留意しなければなりません。
このため、医師の働き方改革では(1)が最も重要と言えます。例えば「労務管理の徹底」「タスク・シフティング(医師から多職種への業務移管)の推進」などが各医療機関に求められます。厚生労働省では医療機関の管理者(院長等)を対象としたトップマネジメント研修を全国各地で開催しており、さらに拡充していく考えも示しています。
この点、鈴木幸雄構成員(横浜市立大学産婦人科・横浜市医療局)は「勤務医自身が働き方改革について知り、また働き方改革に向けた意識改革が必要である」と指摘し、こうした点を検討するワーキンググループ等の設置を提案。遠藤久夫座長(学習院大学経済学部教授)もこれを受け入れ、厚労省に早急な設置を指示しました。
医療機関の管理者には、上述のトップマネジメント研修や関係団体(医師会や病院会など)を通じて厚労省がコンタクトし「勤務医の働き方改革の必要性」などを訴えることができますが、個々の勤務医にはこうしたコンタクトを取ることが困難です。このため「働き方改革」論議そのものを知らない勤務医も決して稀ではありません。全勤務医に遍く、「働き方改革」について周知し、かつ意識改革を促していくためにどういった方策を取ればよいか新設されるワーキンググループで様々な角度から検討していくことになります。
A水準が原則、時短進めてもなお960時間に収まらない場合にB水準等の指定を受ける
労働時間短縮を進めてもなお、地域医療確保などのため、技能獲得のために「960時間を超える時間外労働」をしなければならない勤務医がいる場合にB水準指定等を受けることになります。
B水準等の指定を受けられる医療機関は次のように整理されます。ここで留意すべきは、例えば「B水準指定=当該医療機関の勤務医がすべて960時間を超える時間外労働を行う」わけではないという点です。B水準等を指定を受けた医療機関の中にあっても、勤務医は多様な働き方をしており、例えば「救急科に勤務し960時間を超える時間外労働が必要である」といった医師を特定し、36協定を結んでおかなければなければ、当該勤務医を960時間を超える時間外労働に従事させることはできません。
【地域医療確保暫定特例水準】
▽B水準(3次救急や救急搬送の多い2次救急、がん拠点病院など)
▽連携B水準(医師派遣を通じて、地域医療確保のために必要な役割を担う医療機関)
【集中的技能向上水準】
▽C1水準(初期研修医、専門医資格を目指す専攻医を雇用する医療機関)
▽C2水準(特定高度技能の獲得を目指す医師を雇用する医療機関)
こうした医療機関では、一定の手続きを経てB水準等の指定を受けることが可能です。3次救急や大学病院だからといって必ずB水準等の指定を受けられるわけではありません。例えば勤務医の労働時間短縮に向けた取り組みが「不十分である」と判断されれば、指定が受けられないケースも出てきますし、また事後に「不十分」と判断されれば指定取り消し(もちろん、取り消しの前に改善に向けた指導・支援が行われる)となることもあります。
B水準指定を例とると、指定手続きは次のような流れで行われます。
▽まず労務管理の徹底やタスク・シフティング等により「勤務医の労働時間短縮」を徹底的に進める
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▽当該医療機関で「医師労働時間短縮計画」を策定し、都道府県に提出する(毎年作成し、毎年提出する)
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▽新設される「評価機能」という審査機関で計画や労働時間短縮の実績等についての審査を受ける
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▽審査結果を踏まえて都道府県が「指定の可否」を決する(3年間の指定)
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▽指定の後に、上述の通り「実際に960時間を超える時間外労働を行う勤務医」の人数や対象業務を特定する
このうちC2水準については、どういった技術が対象になるのか、などは今後検討を深めていきますが、12月14日の検討会では次のような方向が明確にされました。
▽C2水準には、例えば▼高度で長時間の手術等途中で医師が交代するのが困難であること▼診療上、連続的に診療を同一医師が続けること―が求められる分野」が考えられる
▽どのような技術を「特定高度技能」とするかについて、新たに設けられる「審査組織」の中の「技術の特定に関する委員会」において関係学会の技術的助言を踏まえて特定していく
▽「審査組織」では、「医療機関の審査に関する委員会」でC2希望医療機関の教育研修環境の審査(当該医療機関で技術習得が可能なかなど)、「個別計画の審査に関する委員会」で個別の研修計画の審査(当該計画が技術習得可能なものとなっている)を行う
どういった技術がC2の対象となるのかは、このように「関連学会の評価」がベースになります。ある医療技術を「特定高度技能」に盛り込むか否かを判断するためには、アカデミアによる客観的な評価が不可欠と考えられるためです。ただし、今村聡構成員(日本医師会常任理事)は「医師個人が直接『審査組織』に申請できるような仕組み」も設けておくべきではないかと提案。山本修一構成員(千葉大学副学長)も「学会の中枢が必ずしも最新技術に明るいわけではない」ことなどから今村委員の提案に賛同しました。今後、こうした点も検討課題の1つなっていくと思われます。
連続勤務時間制限、長時間勤務医師の面接指導などで、勤務医の健康確保目指す
B水準等に指定された医療機関の勤務医のうち、救急医療等に従事する医師などは960時間を超える長時間労働を行うことになります。またそれ以外のA水準医師では960時間までの時間外労働となりますが、これは一般労働者の「720時間以内」と比べると長時間と言わざるを得ません。
長時間労働は心身の健康を損なう可能性もあるため、B・C水準指定医療機関はもちろんA水準医療機関でも通常の健康確保のほかに、「追加的健康確保措置」を取ることが求められます。
▽連続勤務時間制限(宿日直許可を受けている場合を除いて28時間まで、など)【B・連携B・C水準では義務、A水準では努力義務】
▽勤務間インターバル(当直・当直明け日を除いて、24時間の中で9時間以上、など)【同】
▽代償休息(連続勤務時間制限、勤務間インターバルを確保できない場合の例外措置)【同】
▽面接指導(月に100時間以上の時間外労働が生じそうな医師を対象に実施)【全医療機関で義務】
▽就業上の措置(面接指導の結果を踏まえて実施)
面接指導等については、専門研究班でマニュアル等も作成されています。こうした追加的健康確保措置はB水準等指定の要件(未実施の場合の取り消しなど)である以前に、医療法第25条第1項の立入検査の対象項目にも位置付けられます。すなわち追加的健康確保措置が未実施であったり不十分であった場合には都道府県から指導等を受けることになり、改善が見られない場合には「開設許可の取り消し」対象にもなってくる可能性があります。
B水準・連携B水準、ほんとうに2035年度で廃止できるか
なお、B水準・連携B水準については「2035年度で廃止する」ことが決まっています。森本正宏構成員(全日本自治団体労働組合総合労働局長)は「医師の健康を確保するために、各医療機関で労働時間短縮を着実にすすめ、2035年度を待たずに、前倒しでB水準を廃止すべき」と強調。これに対し馬場武彦構成員(社会医療法人ペガサス理事長)は「働き方改革、地域医療の確保状況を踏まえ、ほんとうに2035年度で廃止できるか否かを見極める必要がある」との考えを提示。今後も「2035年度にほんとうにB水準・連携B水準を廃止できるか」という議論が続くものと考えられます。
今後、社会保障審議会・医療部会での了承を経て、医療法等に「上述の枠組み」を規定する法改正(医師働き方改革関連法案)が行われます。ただし、法律の規定だけでは、制度は動きません。
改正法成立後に、例えばB水準等の指定手続きの詳細、C2について「どのような分野を特定高度技能とするか」「審査方法をどうするか」など、実効性のある追加的健康確保措置の実現方法、診療だけでなく教育・研究を行う「大学病院」での働き方改革などを詰めていく必要があります。遠藤座長は「検討会でこれらのテーマについてさらに議論していく」考えを明示しました。
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