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高精細リン酸化シグナル解析で「胃がんの治療標的同定」「治療経過に伴う胃がんの悪性化実態把握」が可能に—国がん他

2024.10.21.(月)

内視鏡生検検体を用いたリン酸化シグナル解析によって、「がんのタイプ分類」「治療によるダイナミックながんの変化の把握」「治療標的となるチロシンキナーゼ(酵素、タンパク質)の同定」などが可能となり、個別患者に最適な治療法の選択につながると期待できる—。

国立がん研究センター、医薬基盤・健康・栄養研究所、日本医科大学が先頃、こうした共同研究結果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。

高精細リン酸化シグナル解析を用いた胃がん分析

胃がん、とりわけ難治性胃がんに対する効果的な治療法開発が待たれる

胃がんの罹患数・死亡数は肺がん、大腸がんに次いで3番目に多く(関連記事はこちら)、また切除不能進行胃がんは予後が非常に悪く、効果的な新たな治療法の開発が求められています。

こうした中で国がん、医薬基盤・健康・栄養研究所、日本医大の共同研究グループは、胃がん患者から採取した検体をもとに胃がんの「リン酸化タイプ」を同定。それをもとにタイプ別に効果的な治療法選択ができないかを研究しました。

まず、採取直後(20秒以内)に液体窒素で凍結保存した胃がん組織(127検体)について、リン酸化シグナルを解析。そこから、1検体当たり平均2万1103個の「リン酸化部位」を定量することできました。

画期的な抗がん剤として用いられる分子標的治療薬の多くはタンパク質に直接作用することから、「がん細胞内のタンパク質全体(プロテオーム)の情報」が、治療法選択に有用と考えられます。とりわけタンパク質のリン酸化修飾を介した「リン酸化シグナル」は、がん細胞のさまざまな機能を制御し、リン酸化シグナルを標的とした抗がん剤も多数開発されていることから、リン酸化シグナル解析による、「個々の患者に最適ながん精密医療」への応用が期待されているのです。



こうしたリン酸化シグナル情報から、胃がん患者は次の3サブタイプに分類できます。
【サブタイプ1】:35%
→細胞周期を制御するキナーゼ群が活性化しているタイプ

【サブタイプ2】:15%
→上皮間葉転換(EMT)タイプ

【サブタイプ3】:50%
→酸化的リン酸化亢進タイプ



次に、切除不能進行胃がん患者(9)から、▼1次治療での化学療法後(2次治療前)▼2次治療中▼増悪時—のそれぞれの段階で、内視鏡によって生検検体を採取しリン酸化シグナル解析を実施。

その結果、次のような情報が得られました。

▽【サブタイプ2】(EMTタイプ)の患者割合は、▼1次治療での化学療法後(2次治療前)→▼2次治療中→▼増悪時—と、治療が経過するほど増える

▽未治療患者さんで多かった【サブタイプ1】、【サブタイプ3】の患者は、▼2次治療中▼増悪時—には存在が認められなかった



【サブタイプ2】(EMTタイプ)を構成する間葉系がん細胞は、化学療法・分子標的療法・免疫療法に耐性があり、転移を起こしやすいために予後不良であることが知られており、上記の結果からは「治療効果が十分に得られず、さらなる治療を経るにつれて、がんが薬剤の効きにくい悪性度の高い性質に変化している」ことが示唆されます。



そこで研究グループは、【サブタイプ2】(EMTタイプ)胃がんに対する治療法として、EMTタイプで活性化している「受容体型チロシンキナーゼAXL」という酵素(タンパク質、以下単に「AXL」とする)に着目した分析を実施。そこからは次のような点が明らかになりました。

▽胃がん培養細胞の培養時に、抗がん剤「パクリタキセル」に、2種類のAXL阻害剤(ONO-7475およびGilteritinib)を上乗せして投与し、増殖抑制作用を確認

▼AXL活性が高い間葉系胃がん培養細胞でのみ「AXL阻害剤の上乗せ効果」が確認された
▼他の上皮系細胞・中間タイプ細胞ではAXL阻害剤の上乗せ効果はほとんど確認されなかった

▽間葉系胃がん培養細胞を移植して腫瘍を形成したマウスを用いた実験を実施

▼AXL阻害剤(Gilteritinib)とパクリタキセルの併用により腫瘍の増殖が抑制された



こうした結果を踏まえて研究グループでは、次のように結論づけています。

▽内視鏡生検検体を用いたリン酸化シグナル解析は、がんのタイプを分類するだけでなく、治療によるダイナミックながんの変化を捉えられる

▽治療前・治療中の経時的な解析は、個々の患者の薬剤によるがんの変化を追跡するために使用でき、標的となるチロシンキナーゼの同定も可能となるなど、「がん精密医療」を実行していく上で重要である



今般の研究結果も踏まえた「難治性の胃がんに対する新たな治療法の開発」に期待が集まります。



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