肺がんにおいて、PD-L1タンパク質の「腫瘍内不均一性」が高い場合、術後の再発やがんによる死亡が多い―国がん
2024.4.23.(火)
肺がんにおいて、PD-L1(programmed death ligand 1)というタンパク質の腫瘍内不均一性が「手術後の再発」や「がんによる死亡」に関連することがわかった。がんの病理組織を用いて、この「腫瘍内不均一性」を捉えることによって、より多角的な視野で治療の戦略を立てることが可能になる—。
国立がん研究センターが先頃、このような研究成果「肺がんの術後再発を予測する新たな病理組織学的指標—PD-L1タンパク質の空間的な腫瘍内不均一性—」を公表しました(国がんのサイトはこちら)。
組織学的グレードに加え、「腫瘍内不均一性」を指標にしたがん治療戦略を
「腫瘍内不均一性」とは、がん組織が「一様の細胞」ではなく「多様な細胞から成り立っている」状態をさします。腫瘍内不均一性が大きながんには、「転移や再発率が高く予後が悪い」「薬物治療の大きな障壁となる」など、「悪性度の強いがん」の重要な特徴となっています。
国がんの研究チームは今般、肺がん組織における「PD-L1」というタンパク質に着目し、「腫瘍内不均一性の量的な評価」を行いました。
「PD-L1」は、がんに対する免疫反応に大きく関わっており、例えば、がん組織における「PD-L1」陽性率は、オプジーボやキイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬等の効果を予想する上で重要な指標となっています。
ところで、同一のがん組織内でも「PD-L1」陽性率にはバラつきがあります。研究グループは、このバラつきを利用。具体的には、デジタル化したがん組織画像を正方形の領域に分割し、隣り合う領域の「PD-L1」の陽性率の差異を解析することで、「症例ごとに、がん組織における『PD-L1』の腫瘍内不均一性」を量的に評価することを可能にしました(この腫瘍内不均一性の指標を「SHIP」(spatial heterogeneity index of PD-L1)と名付けた)。
このSHIPの値を分析したところ、次のような状況が明らかになりました。
▽SHIPの値は病期(II期とIII期)では差がなかった
▽組織型の中では「扁平上皮がん」が、腺がんの中では「組織学的グレードの高いがん」でSHIPが大きい値を示しまた
▽免疫染色により「TP53遺伝子変異が示唆されるがん」はSHIPが大きい値を示した
また、「SHIPの値が高い患者」グループと、「SHIPの値が低い患者」グループとで比較すると、次のような状況が明らかになりました。
▽「SHIPの値が高い患者」グループは、「SHIPの値が低い患者」グループに比べて、次のような特徴がある
▼高齢者が多い
▼がん細胞の血管への浸潤が多い
▼肺がん手術後の患者の転帰を見ると、「手術後のがんの再発」や「がんによる死亡」が多い(扁平上皮がん、腺がんの患者集団でも同様)
ここから、肺がんの病理組織における「PD-L1」タンパク質の「腫瘍内不均一性」の大きさが患者の予後に深い関係がある、つまり「腫瘍内不均一性が大きな場合は、再発やがん死亡につながりやすい」ことがうかがえます。
本研究の結果を踏まえ、研究グループは「これまでの『組織学的グレード』と併せて、『腫瘍内不均一性』によって、がん組織を多角的な視点で評価することで、新たな治療戦略につながる可能性がある」「デジタル画像を用いた病理診断や研究が進む中で、がん組織の解析の新たなツールとして重要な位置を占める可能性がある」と期待を寄せています。
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