2cm以上でも転移リスクの少ない早期大腸がんでは、「内視鏡的粘膜下層剥離術」(ESD)を治療の第1選択に—国がん
2022.8.16.(火)
転移リスクの少ない2cm以上の早期大腸がんを高周波ナイフで切除する内視鏡治療(ESD)は、▼スネアで切り取る内視鏡治療(EMR)よりも再発リスクを抑えられる▼腸管を切除する外科手術よりも術後のQOLを維持できる—などのメリットがあり、「治療の第1選択となる」可能性が示された—。
国立がん研究センターとNTT東日本関東病院が先頃、こうした研究結果を発表しました(国がんのサイトはこちら)。
大腸ESD、高い治療成績とともに患者QOLの確保が可能
転移リスクの少ない2cm以上の早期大腸がんの治療法には、(1)腸管を切除する外科手術(2)内視鏡的に輪状の細いワイヤー(スネア)を用いて病変を切り取る内視鏡的粘膜切除術(EMR)(3)高周波ナイフで切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)—の3種類があります。
このうち(1)の外科手術には、「病変を取り残しなく切除できる」というメリットがありますが、その一方で「患者の負担が大きく、術後のQOLが低下する」というデメリットがあります。
一方、(2)のEMRには、「簡便かつ短時間で治療可能である」というメリットがありますが、「スネアの直径を超える2cm以上の病変は分割して切り取るために、取り残しが生じ再発につながる」というデメリットがあります。
他方、(3)のESD は、▼術者に高度な技術が求められる▼手術時間が長い—などの課題があるものの「患者への負担が少ない」点が評価され、大腸がんに対しては2012年度の診療報酬で保険適用されてから、普及が進んでいます。
今般、下記の施設において、2013年2月から2015年1月に「(3)のESDによる大腸がん治療」を行った患者1883名(病変数は1965)を対象に、5年間にわたって内視鏡検査・血液検査・CT検査を行い、5年の▼全生存率▼疾患特異的生存率(大腸がんの再発での死亡を除いた5年生存率)▼腸管温存率▼局所再発率▼一括切除(病変を分割して切除することによる取り残しを回避できる)割合▼治癒切除(病理学的に追加手術が必要ないと判断される)割合▼有害事象発生割合—を調査・分析しました。
【参加施設】
・NTT東日本関東病院(東京都)
・大阪国際がんセンター(大阪府)
・がん研有明病院(東京都)
・国立がん研究センター中央病院(東京都)
・東京大学医学部附属病院(東京都)
・静岡県立静岡がんセンター(静岡県)
・岡山大学病院(岡山県)
・国立がん研究センター東病院(千葉県)
・慶応義塾大学病院(東京都)
・順天堂大学病院(東京都)
・栃木県立がんセンター(栃木県)
・石川県立中央病院(石川県)
・宝塚市立病院(兵庫県)
・昭和大学病院(東京都)
・四国がんセンター(愛媛県)
・JCHO大阪病院(大阪府)
・千葉県がんセンター(千葉県)
・東京医科大学病院(東京都)
・JCHO群馬中央病院(群馬県)
・山形県立中央病院(山形県)
その結果、次のような「ESDの利点」が明らかになりました。
▽5年の全生存率は93.6%
▽5年の疾患特異的生存率は99.6%(つまり5年間で、大腸がん再発により死亡した人は0.4%)
▽5年の腸管温存率は88.6%、治癒切除が得られた場合には98%
▽治癒切除後の局所再発は0.5%(8例)で認められたが、すべて「内視鏡による追加治療」が可能であった。また異時性大腸がん(再発と異なる新規の大腸がん)が1%(15例)で認められ、13例で手術が施行された
▽病変を分割せず切除することで取り残しを回避できる「一括切除」の割合は97%
▽病理学的に「追加手術の必要なし」と判断された「治癒切除」の割合は91%
▽有害事象としては、「腸に穴が開く穿孔」2.9%、「術後出血」2.6%が認められたが、多くが「腸管を切除せず保存的な加療での対処が可能」であった(0.5%で穿孔・出血のために外科手術が必要となった)
こうした結果を踏まえ、国がん等では「2cm以上の早期大腸がんに対するESDにより、高い割合で治癒切除が可能で、長期的にもその状態が維持される」「安全性やQOLの観点からも優れている」と高く評価。「2cm以上であっても転移リスクの少ない早期大腸がん」治療では、(3)のESDを第1選択とし、実施できない場合に(1)外科手術(2)EMR—を選択すべきと結論づけています。
この点、海外では、ESDの技術的難易度が高いことから、(2)のEMRが標準治療に位置づけられていますが、国がん等では「今後、ESD 技術の習得がさらに進むよう、国立がん研究センターで開発したESD技術の世界的な普及にも積極的に貢献していく」考えを強調しています。
なお、大腸ESDで治癒切除が得られた場合でも、わずかではあるが▼局所再発(本研究では0.5%)▼異時性大腸がんの発生(同1%)—がみられたことから、「術後の定期的な経過観察が必要である」旨が明らかになったと言えます。
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