Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

受動喫煙は「能動喫煙と異なる変異」を誘発、「受動喫煙の回避の重要性」を再認識―国がん

2024.4.19.(金)

「受動喫煙」は、能動喫煙とは異なるメカニズムで遺伝子変異を誘発し、肺の中にできた初期の腫瘍細胞(がん細胞)の悪性化を促進すると推定される—。

国立がん研究センターと東京医科歯科大学が4月16日、このような「受動喫煙が肺がんの遺伝子変異を誘発することを証明」する研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。

国がんでは「受動喫煙による健康被害を防ぐ必要性を強く示唆している」「受動喫煙による肺がんの予防に役立つ」と訴えています。

「受動喫煙の回避による肺がん予防」が非常に重要

「受動喫煙は、肺がんの危険因子である」と認められていますが(国際がん研究機関(IARC)では受動喫煙を、最も危険レベルが高いグループ1「ヒトに対して発がん性がある」と分類)、「受動喫煙と遺伝子変異との関係」は明らかにされていません。

そこで国立がん研究センターと東京医科歯科大学の研究グループは、女性の肺がんの多くを占める「肺腺がん」について、日本人の非喫煙者女性に生じた肺がんの遺伝子変異と受動喫煙歴の関係を調査しました。具体的には、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)で手術を受けた非喫煙者女性291名・能動喫煙者女性122名の肺腺がんについて、ゲノム全体にわたる変異を同定。あわせて「受動喫煙歴」(アンケートで回答)との関係も整理しています。そこからは次のような状況が明らかになりました。

▽10歳代、30歳代のいずれか、あるいは両方で「受動喫煙を受けていた(月に1-2日から毎日まで)グループ」に生じた肺がんでは、「受動喫煙を受けていないグループ」の肺がんと比べて、より多くの遺伝子変異が蓄積していた

▽「能動喫煙者」の肺がんで見られるたばこ中の発がん物質により直接引き起こされるタイプの遺伝子変異は、「受動喫煙者」の肺がんではごく稀にしかみられなかった

研究チームでは、この結果から「受動喫煙は能動喫煙とは違うメカニズムで遺伝子変異を誘発する」と結論付けました。

受動喫煙と能動喫煙では違う遺伝子変異を誘発する



また、「受動喫煙」は、ドライバー変異と呼ばれる肺がんの発生初期に生じるがん遺伝子の変異の頻度には影響していないことも分かりました。

そこで10歳代、30歳代のいずれか、あるいは両方で毎日受動喫煙を受けていた患者の肺腺がんをより詳しく調べたところ、次のような状況が明らかになりました。

▽受動喫煙者の肺がんでは変異誘発活性を持つAPOBEC3B遺伝子の発現が高まっている

▽受動喫煙により誘発された遺伝子変異の多くは、がん組織内のすべてのがん細胞のDNAに一様には存在していない

ここから、「受動喫煙は、『腫瘍細胞の発生そのもの』ではなく、その後に不均一性(多様性)を増加させることで『初期の腫瘍細胞の悪性化』を促進している」と研究チームは推察しています。



こうした研究結果をもとに、研究チームでは▼受動喫煙が能動喫煙とは異なる遺伝子変異を誘発する▼受動喫煙により「肺の中での炎症を誘発」→「APOBEC3BなどのAPOBECタンパク質を活性化」→「遺伝子変異が誘発され、不均一性を獲得」→「腫瘍細胞が悪性化していく」—というメカニズムが考えられる—と分析。

「不均一性の強いがん」や「APOBEC3B遺伝子の発現の高いがん」は、早い段階で抗がん薬が効かなくなるなど、患者の予後を悪くすることが知られており、今回の研究の研究結果は「受動喫煙の回避による肺がん予防」が非常に重要であることを再確認するものと言えます。

受動喫煙の肺がん形成メカニズム



国がんは「本邦では改正健康増進法の下でも『経過措置』の形で屋内全面禁煙が十分に普及していない。受動喫煙による健康被害を防ぐために、国際的に標準となっている『屋内全面禁煙の法制化』が望まれる」と訴えています。

あわせて、「受動喫煙によって変異が誘発されるメカニズム」をもとに、「炎症を抑えるなど、受動喫煙に対する新たな肺がん予防法が開発されていく」ことにも期待を寄せています。

【更新履歴】記事タイトルについて、発表内容との乖離がございましたので修正いたしました。記事は訂正済です。



病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

【関連記事】

シングルポートのダビンチSPの活用で、「より侵襲が少なく整容性を向上させたロボット手術」実施を推進―国がん
「感染」「能動喫煙」によるがんの医療費・経済的損失が大きく、HPVワクチン接種勧奨、ピロリ除菌、たばこ対策強化など進めよ―国がん

ステージIで早期発見・治療すれば、乳・前立腺がんで9割、胃・大腸がんで8割、膵臓がんでも4人1人が10年以上生存―国がん
2021年、がん新規登録数はコロナ禍前水準に戻りつつある!ただし胃がんは回復せず背景分析が待たれる―国がん
胆道がんの手術後標準治療は「S―1補助化学療法」とすべき、有害事象少なく、3年生存率も高い―国がん・JCOG
血液検体を用いた遺伝子検査(リキッドバイオプシー)、大腸がんの「再発リスク」「抗がん剤治療の要否」評価に有用―国がん・九大
千葉県の国がん東病院が、山形県鶴岡市の荘内病院における腹腔鏡下S状結腸切除術をオンラインでリアルタイム支援―国がん
抗がん剤治療における薬剤耐性の克服には「原因となる融合遺伝子を検出し、効果的な薬剤使用を保険適用する」ことが必要—国がん
2cm以上でも転移リスクの少ない早期大腸がんでは、「内視鏡的粘膜下層剥離術」(ESD)を治療の第1選択に—国がん
開発中の「血液がん用の遺伝子パネル検査」、診断や予後の予測でとくに有用性が高い—国がん
BRCA1/2遺伝子変異、乳・卵巣・膵・前立腺がん以外に、胆道・食道・胃がん発症リスク上昇に関連―国がん等
乳がんの生存率、ステージゼロは5年・10年とも100%だがステージIVは38.7%・19.4%に低下、早期発見が重要―国がん
全がんで見ると、10生存率は59.4%、5年生存率は67.3%、3年生存率は73.6%―国がん
2020年のコロナ受診控えで「がん発見」が大幅減、胃がんでは男性11.3%、女性12.5%も減少―国がん
「オンライン手術支援」の医学的有用性確認、外科医偏在問題の解消に新たな糸口―国がん