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テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)が「がん細胞に有害なゲノム異常を排除」してがん細胞が増殖、この機能を阻害すると「がん細胞が死滅」―国がん

2024.5.31.(金)

がんの発生や進展に広く関与する「テロメラーゼ逆転写酵素」(hTERT)は、「がん細胞にとって有害なゲノム異常を排除」する機能によって、がんの生存・増殖を促しており、この機能を阻害すると「がん細胞が死滅する」ことがわかった。hTERTのこの機能を標的にした治療法の開発が期待される—。

国立がん研究センター、東海大学、金沢大学、がん研究会、東北大学の研究チームが5月29日、このような研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。

hTERTによるゲノム制御機構の発見

「テロメラーゼ逆転写酵素」(hTERT)の機能を標的にした治療法の開発に期待

DNAの末端には「テロメア」というDNAを保護する配列が存在します。正常細胞では、分裂のたびにテロメアが短くなり、一定回数しか分裂できませんが、がん細胞は独自にテロメアを維持する方法を持っており、無制限の分裂・増殖が可能です(いわば正常細胞は「回数券」のテロメアを、がん細胞は「定期券」のテロメアを持っているイメージ)。

テロメアを維持する機序



このがん細胞の無制限のテロメア維持に関与しているのが、「テロメラーゼ」といわれる酵素です(テロメラーゼががん細胞DNAの末端にテロメアを付加していく)。

一方、骨や筋肉などにできる悪性腫瘍である肉腫などは、テロメラーゼに頼らず、「隣り合うテロメア配列同士をコピーする相同組換え」という機序でテロメアを維持することがわかっています。

これまで各国で「テロメラーゼを阻害する抗がん剤」の開発を進めてきましたが、有望な抗がん剤の開発には至っていません。また肉腫をはじめとする希少がんの治療において、テロメラーゼや、その酵素活性を示す構成因子「hTERT」(テロメラーゼ逆転写酵素)は、治療標的として認識されてきませんでした。

研究グループでは、これまで「hTERTに、テロメア伸長機能とは『異なる新たな機能』がある」ことを発見し、「hTERTの新たな機能であるRNA合成活性の解明」「肉腫を含む多様ながん種におけるhTERTの発現解析」「hTERTの発現が、がん化につながる仕組みの解明」を目指して研究を推進。そこから次のような状況が明らかになりました。

▽hTERTに頼らずテロメアを維持する肉腫細胞でも、hTERT発現が確認された
→hTERTが特定のRNAを鋳型にしてRNAを合成する

肉腫におけるhTERTの機能



▽「hTERTのRNA合成活性を抑えた肉腫細胞」(RNAを鋳型とするRNA合成機能なしの肉腫細胞)をマウスに移植したところ、腫瘍の増大は見られなかった
→腫瘍の増大には「hTERTのRNA合成活性」が必要である

hTERTの新機能を抑えた肉腫細胞の解析



▽がん細胞から「hTERTが含まれる構造体」を精製し、hTERTに結合する因子を解析したところ、「hTERTが、異常なゲノム構造(R-loop)に結合している」ことがわかった
→R-loop構造は、ゲノムDNAとそれに相補的なRNAが結合することで生じる核酸構造であり、過剰なR-loop構造はDNA損傷や細胞死につながる

▽hTERTの機能を抑えると「異常なゲノム構造が増える」ことが明らかになった
→とりわけ、異常なゲノム構造を解消すること知られている他の因子(BRCA1、BRCA2、FANC)を同時に機能を抑えると、異常なゲノム構造が顕著に蓄積した
→異常なゲノム構造の増加に伴って、がん細胞の死を誘導するDNA損傷が生じていた

hTERTに結合する因子の解析

hTERTによるゲノム制御機構の検証



これらを総合して研究グループは、▼hTERTは、そのRNA合成活性によって、細胞内の異常なゲノム構造を排除している▼hTERTと他のゲノム制御に関わる因子(BRCA1、BRCA2、FANC)を同時に抑えることで、がん細胞に対して、強い細胞死を誘導できる—と分析。さらに「骨や軟部組織から発生する悪性腫瘍である肉腫は非常に多様性に富んだ希少がんであり、治療法の開発が遅れているが、本研究成果をもとにhTERTの新機能を標的とした抗がん剤開発研究が進む」と期待しています。



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