腎臓がんの多くを占める「淡明細胞型腎細胞がん」で日本人症例に特有の遺伝子変異を発見、治療法・予防法開発につながると期待―国がん
2024.5.17.(金)
腎臓がんの多くを占める「淡明細胞型腎細胞がん」について、日本人症例に特有の遺伝子変異が明らかになった。今後、遺伝子変異の原因物質を特定等することで治療法・予防法開発につながると期待される—。
国立がん研究センター・東京大学大学院・英国サンガー研究所・WHOの国際共同研究グループが5月14日、このような研究成果を公表しました(国がんのサイトはこちらとこちら)。
日本人に特有の遺伝子変異、外因性の要因(発がん物質)によって惹起される可能性大
腎臓がんは、その8割を占める「腎細胞がん」と「腎盂がん」に分けられ、「腎細胞がん」のうち60-75%は「淡明細胞型腎細胞がん」が占めていますが、発生頻度は国や地域によって大きく異なります。
我が国でも腎細胞がんが増加しており、その要因として喫煙、肥満、高血圧、糖尿病が知られていますが、発生頻度の地域差は十分に説明できていません。
そこで研究グループでは「ゲノム変異のパターン」(変異シグネチャー)に注目。世界各国(11か国)の「淡明細胞型腎細胞がん」962症例について、地域ごと、臨床背景ごとに変異シグネチャーの分布にどのような違いがあるのかを分析し、そこから次のような状況が明らかになりました。
▽日本の淡明細胞型腎細胞がんの72%の症例で「SBS12」というゲノム変異が検出されたが、他国では2%の症例にすぎなかった
→先行研究では、日本人の肝細胞がんで「SBS12」の検出が多いことが示されている
→日本での腎細胞がん・肝細胞がんにおける「SBS12」を誘発する発がん物質への曝露頻度が高く、他国では稀であることが分かった
→「SBS12」を誘発する要因は現時点では不明だが、「外因性の発がん物質」(環境要因)である可能性が高いと考えられる
→「SBS12」の原因物質を同定することで、日本における淡明細胞型腎細胞がんの新たな予防法や治療法の開発が期待される
▽淡明細胞型腎細胞がん発症に至る危険因子には加齢、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病などが知られているが、今回の研究では「加齢、喫煙と相関する変異シグネチャー」、とくに「特に喫煙と相関するSBS4」が明らかになった
→一方、肥満、高血圧、糖尿病などの危険因子と特定の変異シグネチャーとの関連は観察さなかった
→肥満、高血圧、糖尿病の危険因子は「直接的に遺伝子変異を来さないようなメカニズムで発がんに寄与している」可能性が示唆された
▽淡明細胞型腎細胞がんで頻繁に突然変異するがん遺伝子(VHL、PBRM1、SETD2、BAP1)を含む136の遺伝子で、1913のがんドライバー変異が見つかったが、変異の頻度に国別の大きな差はなかった
▽淡明細胞型腎細胞がんの極めて強い危険因子である「アリストロキア酸」(一部の植物などに含まれる成分、本成分を含有する生薬・漢方薬は日本では承認されていない)に曝露された症例では、がんドライバー遺伝子にもアリストロキア酸関連の変異パターンが検出された
→アリストロキア酸が、がんドライバー遺伝子の突然変異に強く関与していることが明らかになった
今般の研究で「日本人の淡明細胞型腎細胞がん症例に特徴的なゲノム変異パターン」が発見されています。
現時点では、このゲノム変異の原因物質は明らかになっていませんが、今後、原因物質の解明や、ゲノム変異パターンによって誘発されるドライバー異常が明らかになれば「日本における淡明細胞型腎細胞がんの新たな予防法や治療法の開発」が可能になると研究グループは期待を寄せています。
さらに、多くのがん種について同様の研究が進むことで、各種がんの予防法や治療法が開発可能になってくるでしょう。今後の研究に期待が集まります。
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