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GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

早期肺腺がんの術後再発を予測するバイオマーカーを同定、切除した微量の検体をもとに迅速に検出可能—国がん他

2024.9.12.(木)

肺腺がんは、早期であっても再発リスクが高いため、「リスクの予測」→「最適な治療方針の選択」が重要である—。

この点、マイクロRNA(miRNA)の特定構造の合成優位性を示すスコア(D-score)を利用することで、「早期肺腺がんの術後再発リスク」を予測できる可能性がある—。

国立がん研究センター・秋田大学・福島県立医科大学・広島大学が9月2日、こうした共同研究結果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。微量の手術検体を用いて迅速に検出することが可能であるため、患者に新たな身体的負担をかけることなく、しかも医療経済的にも優秀と言え、「早期肺腺がんの術後再発リスクの有用な診断法」開発や「他のがんへの応用」につながると期待されます。

肺腺がんは、早期でも再発リスクが高く、「リスク予測→最適な治療方針選択」が重要

「肺がん」は日本におけるがん死因の1位(男性では第1位、女性では第2位)であり、▼難治性である▼早期で発見されても約半数近くが「術後に再発」する—などの特徴があります。このため、「術後再発リスクの把握」→「最適な術後医療の選択」が非常に重要となります。

この点、国がん・秋田大・福島医大・広島大の共同研究チームは「がん組織における特定のマイクロRNA(miRNA)構造を定量化する」ことで早期肺腺がんの再発リスクが評価できないか、という研究を実施しました。細胞内の「miRNA」は遺伝子発現制御因子として機能しており、その機能異常が「がんの病態誘発」と深く関連します。

これまでの研究では「がん細胞において『miR-21-5p+C』(がんと関連するmiRNAである『miR-21-5p』の両末端構造が異なるもの)の量が多い」ことがわかっています。

そこで研究チームでは、「▼miR-21-5p+C▼miR-21-5p—のいずれが優位に合成されるか」が、がんの悪性化に重要となっているのかを検討しました。

具体的には、外科的に切除された「肺腺がん」症例の手術検体(国がん患者)を利用して「miR-21-5p」と「miR-21-5p+C」とを定量化。その結果、「miR-21-5pはがんと関連するmiRNA」とされているものの、「肺腺がんでは、むしろmiR-21-5p+Cの合成異常が顕著である」ことがわかりました。

次に、「miR-21-5p+C」の合成優位性を「D-score」として数値化し、「患者の予後」との関連を調査。そこから「D-scoreの高い肺腺がん、とく特に早期ステージ(ステージI、II)では、再発リスクが極めて高い」ことがわかりました。秋田大病院の患者についても、同様の結果が示されています。

D-scoreと早期肺腺がんの再発リスクとの関連



さらに、「D-scoreが、肺腺がんのどのような特徴を反映しているのか」を明らかにするために、ゲノム解析によって遺伝子変異との関連を調査。その結果、次のような点が明らかになりました。

▽D-scoreは「肺腺がんのドライバー遺伝子変異」とは相関せず、ゲノム変異では既定されない

▽D-scoreの高い症例は、▼細胞周期(DNA複製と染色体分配)の亢進がある▼持続的な上皮間葉転換(転移誘発)圧力を受けている▼免疫を回避する特性を有している—

ここから、「D-scoreが高い肺腺がん」は▼早期ステージでも細胞増殖能や転移能を有する悪性度の高い腫瘍である▼転移能を有する—ために、「再発リスクが高い」と研究チームは分析しています。

D-scoreによる層別化される肺腺がんの特徴とその制御機構



また、「肺腺がん症例のD-score」と「RNA制御因子群の遺伝子発現量」との相関関係を解析したところ、「D-scoreは『IGF2BP3』という遺伝子によって制御されている」ことが判明しました。

IGF2BP3は「がん胎児抗原」と呼ばれる遺伝子の1つで、胎生期には発現しているものの、成人の正常組織ではほとんど発現が認められません。一方、ある種のがん組織では高い発現を示す特徴があります(IGF2BP3の機能が、がん細胞の悪性形質と関連する可能性が報告されている)。

今般の研究では、次のような点が明らかになっています。
▽肺がん細胞株の「IGF2BP3」発現を阻害したところ、「miR-21-5p+C」の合成が選択的に抑制される

▽IGF2BP3が細胞核の中で「miRNAの合成因子であるDrosha」と複合体を形成し、「miR-21-5p+C」の合成を促進している可能性がある

▽miR-425-5p、miR-454-3p、Let-7ファミリーの構造アイソフォーム(一部の構造が異なるmiRNA)がIGF2BP3によって制御されており、「D-scoreの高い肺腺がん」でそれらの発現異常が観察される
→これらmiRNAが「D-scoreの高い肺腺がん」の特徴である細胞周期の亢進、転移誘発能と免疫関連の細胞内ネットワークを制御する



これの研究結果から、「D-score」は、がん細胞内で生じているmiRNAの構造多様性を強く反映する指標で、腫瘍特性と強く関連することが分かり、研究チームでは▼この原理が、早期ステージ肺腺がんの術後再発の予測を可能とする▼miRNAの機能異常とは、これらの発現異常のみならず、構造多様化のパターンが変化することとも関連する—としています。

研究チームでは、▼新たな「早期ステージの肺腺がんの再発を予測する診断法」開発につながる▼D-scoreは、微量の手術検体から迅速に検出できる(定量的RT-PCR法)ため、患者への新たな侵襲がなく(患者にやさしい)、医療経済的にも有用(医療保険財政にもやさしい)な「治療奏効性を予測するマーカー」として利用できる—と期待を寄せています。



「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」ことを全体目標に掲げた第4期がん対策推進基本計画では、「新規医薬品、医療機器及び医療技術の速やかな医療実装」を医療分野の1目標に掲げており、こうした研究結果が「新たな診断法」として実装されることに期待が集まります。



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