リキッドバイオプシーでも、さまざまな種類のがんで「T-DXd」効果が期待できる患者を抽出できる可能性—国がん・愛知がん
2024.8.9.(金)
リキッドバイオプシーでも、さまざまな種類のがんにおいて、「T-DXd」(トラスツズマブ デルクステカン、販売名「エンハーツ点滴静注用100mg」)の効果が期待できる患者を抽出できる可能性がある—。
「がんの組織採取が困難」な患者を含め、より低侵襲な方法で「T-DXdが奏功する可能性の高い患者」を抽出できる可能性がある—。
国立がん研究センターと愛知県がんセンターが8月6日に、こうした研究結果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。
T-DXd、肺がんや乳がん等以外にも、各種のHER2陽性がんに奏功する可能性
「HER2」は、がん細胞増殖に関係するタンパク質のひとつです。その遺伝子異常は様々ながんで見られ、HER2異常の頻度が比較的高い胃がん・乳がんでは、HER2を標的とする治療薬が診療で使われており、抗体薬物複合体「T-DXd」(トラスツズマブ デルクステカン、販売名「エンハーツ点滴静注用100mg」)もその1つです。
しかし、HER2遺伝子増幅のある他の固形がん(食道がん、婦人科がんなど)では、「T-DXd」の効果が期待されますが、患者数が少ないため、企業主導による治療開発が行われてきませんでした。
また、従来「がんの組織の検査→HER2診断→HER2を標的とする治療を行うかの判断」を行ってきましたが、HER2タンパク質の量は▼同じがん組織の中でもばらつきがある(空間的不均質)▼がん治療経過の中で変化する(時間的不均質)—ことから、「がんの組織を用いたHER2検査」で適切な診断が行われているかどうかが不確かである、という問題点もありました。
そこで、国がん・愛知がんの研究グループは、HER2の空間的・時間的不均質を克服するため、「血液から抽出したcfDNAの解析(リキッドバイオプシー)」により、HER2遺伝子増幅が確認された各種固形がんに対する「T-DXd」の効果と安全性を調べる臓器横断的(バスケット型)な医師主導治験を実施しました(HERALD試験)。
この医師主導治験には、日本国内の7医療機関から計62名・16 種類のがん患者が参加し、次のような結果が得られました。
【主要評価項目】
▽「T-DXd」の奏効割合(がんが縮小・消滅した患者の割合)は56.5%
▽16種類のがんのうち、13種類(食道がん、大腸がん、唾液腺がん、子宮体がん、子宮頸がん、胆道がん、卵巣がん、小腸がん、尿路上皮がん、胃がん、悪性黒色腫、パジェット病、前立腺がん)で有意ながんの縮小が認められた
【副次評価項目】
▽無増悪生存期間の中央値は5.7か月であった
▽全生存期間の中央値は14.6か月
▽奏効期間の中央値7.3か月
【副作用(安全性)】
▽頻度の多かった副作用は、▼悪心(発生頻度(以下同)58%)▼食欲不振(53%)▼倦怠感(40%)▼貧血(39%)—など
▽「T-DXd」の注意すべき副作用である「間質性肺炎」は16名(26%)に見られた
→うち11名が「間質性肺炎により治療を中止」したが、死亡に至る重篤な間質性肺炎はなかった
研究グループでは、こうした結果を踏まえて▼HER2遺伝子増幅が認められる各種固形がんに対し「T-DXd」が効果的である▼患者の負担(肉体的・精神的)の少ないリキッドバイオプシーでも、さまざまな種類のがんで「T-DXd」の効果が期待できる患者を抽出できる可能性がある—と分析しています。「がんの組織採取が困難」な患者を含め、より低侵襲な方法で「T-DXdが奏功する可能性の高い患者」を抽出できる可能性があります。
HER2陽性の各種がん患者において、より効果的かつ簡便ながん治療が実施できる可能性が広がることに期待が集まります。
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