Generic selectors
Exact matches only
Search in title
Search in content
Search in posts
Search in pages
GemMed塾 病院ダッシュボードχ 病床機能報告

薬物療法後にRAS遺伝子変異が野生型に変化した大腸がん、新たな治療選択肢の可能性を発見―国がん・がん研

2024.7.24.(水)

これまで「抗EGFR抗体薬を含む治療法の効果が期待できない」とされていたRAS遺伝子変異型転移性大腸がんでも、およそ1割の患者では「抗EGFR抗体薬を含む治療法」の恩恵を受けられる可能性がある—。

国立がん研究センターとがん研究会が7月19日に、こうした研究結果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。

RAS遺伝子野生型に変化する大腸がん、抗EGFR抗体薬治療に関する臨床試験も進行中

大腸がんの罹患者・死者は年々増加しており、2023年の「人口動態統計月報年計(概数)」を見ると、男女ともに「もっとも死者数の多いがん種」なっています(関連記事はこちら)。

ところで、「RAS遺伝子変異型転移性大腸がん」は、RAS野生型転移性大腸がんと比べて予後不良と言われています。この背景には、▼RAS遺伝子に変異が生じる→▼がん細胞の増殖を促進するシグナルが恒常的に活性化される→▼「抗EGFR抗体薬」投与による治療効果を期待できなくなる—ことが知られています。このため、大腸がん治療の前にRAS遺伝子検査を行い、RAS遺伝子変異ステータスを確認しておくことが推奨されています。

昨今では、身体に負担の小さいリキッドバイオプシー(血液などの体液検体)を用いた遺伝子変異検査法が進歩しており、簡便に、繰り返しRAS遺伝子変異ステータスの確認が可能となってきました。

ただし、▼RAS遺伝子変異型の転移性大腸がんでは、どの程度の頻度で治療後にRAS遺伝子変異ステータスの変化が起こるのかが明らかになっていない▼少数ではあるが「治療後にRAS野生型になる患者に対して抗EGFR抗体薬が有効である」可能性も示唆されるが、該当患者がどのような臨床病理学的特性を有するのかが明らかになっていない—という課題があります。

RAS遺伝子変異と抗EGFR抗体薬の治療効果



そこで今般、▼抗EGFR抗体薬による治療効果が期待できないとされるRAS 遺伝子変異型転移性大腸がんのうち、どのくらいの患者で治療変更後に変異ステータスが野生型に変化するか▼この変化はどのような臨床病理学的特性を有する患者で起こりやすいのか―を明らかにするための研究を国がんとがん研究会の研究チームが実施。

具体的には、2018年3月から2022年2月に「GOZILA」(進行消化器がん患者を対象に、血液を用いた遺伝子解析(リキッドバイオプシー)でスクリーニングを行うプロジェクト)に登録された転移性大腸がん患者4991名のうち、薬物療法前の腫瘍組織を用いた遺伝子検査でRAS遺伝子変異が確認された478名を研究の対象に設定。これらの患者を、▼【A群】治療変更時のctDNAの結果、RAS遺伝子変異が検出されなかった患者▼【B群】A群の中で少なくとも他の体細胞変異が認められた患者—に振り分け、それぞれの割合を調査。さらに、A・Bそれぞれの群で、RAS遺伝子変異ステータスの変化に関連する臨床病理学的な特性を検討したところ、次のような結果が得られました。

▽全体に占める割合は、【A群】治療変更時のctDNAの結果、RAS遺伝子変異が検出されなかった患者:19.0%、【B群】A群の中で少なくとも他の体細胞変異が認められた患者:9.8%

患者をA群とB群に振り分け



▽「RAS遺伝子変異型→治療後にRAS野生型」となる転移性大腸がん患者の臨床病理学的特徴の検討の結果、以下の特性がRAS遺伝子変異型から野生型への変化と関連することが示唆された
【A群】(治療変更時のctDNAの結果、RAS遺伝子変異が検出されなかった患者)
▼肝転移またはリンパ節転移があると変化しにくい(それぞれ転移なしに対する転移ありのオッズ比は0.18、0.75)

A群の患者特性



【B群】(A群の中で少なくとも他の体細胞変異が認められた患者)
▼肝転移があると変化しにくい(転移なしに対する転移ありのオッズ比:0.29)
▼大腸がんでは頻度の低いRAS遺伝子変異があると変化しやすい(KRASエクソン2に対するKRASエクソン2以外のオッズ比:2.33)

B群の患者特性



また、RAS遺伝子が変異型から野生型に変化した患者(91名)のうち、抗EGFR抗体を含む治療を受けた患者が6名の治療内容を調べたところ「今回の治療ライン(抗がん剤投与による治療の順番)は4-7次で、全員が抗EGFR抗体薬を単独、または他の化学療法剤との併用で投与」されていました。うち治療による腫瘍縮小効果が得られた患者が1名、6か月以上の病勢安定患者が2名で、治療開始からの無増悪生存期間(病態が悪化するまでの期間)は最長11.1か月、最短0.4か月でした。

抗EGFR抗体薬を含む治療が行われた患者の臨床転帰



こうした研究から、これまで「抗EGFR抗体薬を含む治療法の効果が期待できない」とされていたRAS遺伝子変異型転移性大腸がんでも、およそ1割の患者では「抗EGFR抗体薬を含む治療法」の恩恵を受けられる可能性があることが明らかになったと研究チームはコメント。さらに、現在、「RAS遺伝子変異型からRAS野生型に変化する転移性大腸がん患者に対し、抗EGFR抗体薬を含む治療の有効性・安全性を検討するための臨床試験」が進んでおり、この成果にも期待が集まります。



病院ダッシュボードχ 病床機能報告MW_GHC_logo

【関連記事】

個々の患者のバイオマーカーに適合する標的治療(がん個別化治療)により、患者の生存期間延長などの効果が得られる―国がん
切除可能な食道がん、現在の「術前CF療法」よりも、生存期間延長が期待できる「術前DCF療法」が新たな標準治療へ―国がん・JCOG
テロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)が「がん細胞に有害なゲノム異常を排除」してがん細胞が増殖、この機能を阻害すると「がん細胞が死滅」―国がん
「トラスツズマブ デルクステカン」(エンハーツ点滴静注用)の奏功が期待できる胃がん患者を特定できる可能性―国がん
腎臓がんの多くを占める「淡明細胞型腎細胞がん」で日本人症例に特有の遺伝子変異を発見、治療法・予防法開発につながると期待―国がん
「予後不良なタイプの白血病」発症メカニズムの一端が明らかに、今後の分子標的薬開発につながると期待―国がん
肺がんにおいて、PD-L1タンパク質の「腫瘍内不均一性」が高い場合、術後の再発やがんによる死亡が多い―国がん
受動喫煙は「能動喫煙と異なる変異」を誘発、「受動喫煙の回避の重要性」を再認識―国がん
シングルポートのダビンチSPの活用で、「より侵襲が少なく整容性を向上させたロボット手術」実施を推進―国がん
「感染」「能動喫煙」によるがんの医療費・経済的損失が大きく、HPVワクチン接種勧奨、ピロリ除菌、たばこ対策強化など進めよ―国がん

ステージIで早期発見・治療すれば、乳・前立腺がんで9割、胃・大腸がんで8割、膵臓がんでも4人1人が10年以上生存―国がん
2021年、がん新規登録数はコロナ禍前水準に戻りつつある!ただし胃がんは回復せず背景分析が待たれる―国がん
胆道がんの手術後標準治療は「S―1補助化学療法」とすべき、有害事象少なく、3年生存率も高い―国がん・JCOG
血液検体を用いた遺伝子検査(リキッドバイオプシー)、大腸がんの「再発リスク」「抗がん剤治療の要否」評価に有用―国がん・九大
千葉県の国がん東病院が、山形県鶴岡市の荘内病院における腹腔鏡下S状結腸切除術をオンラインでリアルタイム支援―国がん
抗がん剤治療における薬剤耐性の克服には「原因となる融合遺伝子を検出し、効果的な薬剤使用を保険適用する」ことが必要—国がん
2cm以上でも転移リスクの少ない早期大腸がんでは、「内視鏡的粘膜下層剥離術」(ESD)を治療の第1選択に—国がん
開発中の「血液がん用の遺伝子パネル検査」、診断や予後の予測でとくに有用性が高い—国がん
BRCA1/2遺伝子変異、乳・卵巣・膵・前立腺がん以外に、胆道・食道・胃がん発症リスク上昇に関連―国がん等
乳がんの生存率、ステージゼロは5年・10年とも100%だがステージIVは38.7%・19.4%に低下、早期発見が重要―国がん
全がんで見ると、10生存率は59.4%、5年生存率は67.3%、3年生存率は73.6%―国がん
2020年のコロナ受診控えで「がん発見」が大幅減、胃がんでは男性11.3%、女性12.5%も減少―国がん
「オンライン手術支援」の医学的有用性確認、外科医偏在問題の解消に新たな糸口―国がん