唾液腺がんへの新たな「抗アンドロゲン療法」の有効性を検証、奏効例と治療抵抗性例との鑑別に期待—国がん他
2024.8.20.(火)
希少がんである唾液腺がんにも、新たな「抗アンドロゲン療法」の有効性が期待されている。今般、その有効性を検証し、奏効例と治療抵抗性例の特徴を踏まえた鑑別に向けた研究成果が得られた—。
国立がん研究センターが先頃、こうした研究結果を公表しました(国がんのサイトはこちら)。
唾液腺がんへの新たな「抗アンドロゲン療法」の有効性を検証
「唾液腺がん」は、唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下腺と呼ばれる「大唾液腺」と、口腔粘膜内に広く分布する「小唾液腺」の総称)を発生母地とする悪性腫瘍で、頭頸部領域に生じる悪性腫瘍の約6%を占める希少がんです(年間発症数は10万人当たり1人程度)。
唾液腺がんの種類(組織型)は20種類以上に及び(このため唾液腺がんは超希少がんの集合体である)、日本人では悪性度の高い「唾液腺導管がん」が多くなっています。
この「唾液腺導管がん」を主とする一部の組織型では、男性ホルモンの一種であるアンドロゲン受容体(AR)が強く発現することが知られています。アンドロゲンは精巣と副腎から産生され、視床下部から分泌される性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)と、GnRHの刺激で下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(Gn)によってコントロールされています。
アンドロゲンが作用するARは様々な細胞の細胞質内に存在し、前立腺がんをはじめ色々ながんで発現が認められ、現在では効果的にARからの腫瘍増殖シグナルを阻害する次世代AR阻害薬とGnRHを併用する「新規の抗アンドロゲン療法」が前立腺がんの標準治療となっています。
今般、ARが発現している「唾液腺がん」に対しても、前立腺がんと同様に「次世代のAR阻害薬を用いたCAB(複数薬剤を併用する治療法)が有効ではないか」と考え、国がん、国際医療福祉大学三田病院、東京医科大学、ヤンセンファーマ社などが共同で「次世代のAR阻害薬である『アパルタミド』(販売名:アーリーダ錠)と、GnRHアナログである『ゴセレリン』(販売名:ゾラデックス)を併用する新規の抗アンドロゲン療法」の唾液腺がんに対する有用性を調べる臨床試験を実施。そこから次のような結果が得られました。
▽切除不能または再発のAR陽性唾液腺がん患者24名に「アパルタミド」と「ゴセレリン」を併用投与
→6名(25%)で奏効が認められた
→12名(50%)で、臨床的に有用な効果(半年以上の治療効果の持続、または奏効あり)が認められた
▽長期フォローアップデータ(観察期間中央値:33.1か月)を見ると、次のような結果が得られた
▼無増悪生存期間中央値(治療を受けた患者のうち、がんが大きくならずに生存している患者の割合が50%となっている時点):7.5か月
▼全生存期間中央値(治療を受けた患者のうち、生存している患者の割合が50%となっている時点):未到達
→つまり、データ解析時点で半数以上の患者が生存している
▼2年生存割合:70.8%
▽「腫瘍組織におけるAR発現割合70%以上」かつ「全身治療が行われていない」患者(11名)
→6名(54.5%)で奏効が認められた
→無増悪生存期間中央値:9か月
→全生存期間中央値:未到達(データ解析時点で半数以上の患者が生存)
→2年生存割合:81.8%
さらに、▼通常ARが強く発現する。悪性度の高い「唾液腺導管がん」に着目して行ったバイオマーカー研究の結果、「遺伝子パネル検査で、MYCやRAD21という遺伝子の増幅が検出された患者におおいて、抗アンドロゲン療法の効果が乏しい」という結果が示された▼一部患者さんの治療終了時の血液検体では上記の遺伝子増幅が検出されていた—ことから、これらの遺伝子異常が抗アンドロゲン療法の治療抵抗性に関わっていることも分かりました。
これらの研究から「AR陽性唾液腺がんに対し新規抗アンドロゲン療法を投与する際に、腫瘍検体の検討により、高い効果が予測される患者を同定できる」可能性が伺えます。
さらに研究グループでは、▼本年(2024年)2月から日本で使用可能となった抗アンドロゲン療法(ビカルタミド(カソデックス錠、ほか後発品多数)+リュープロレリン(リュープリン注射用、ほか後発品あり))を実施する際の治療適応の検討▼今後の「AR陽性唾液腺がんを対象とした抗アンドロゲン療法」開発—に役立つと期待しています。
「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す」ことを全体目標に掲げた第4期がん対策推進基本計画では、「希少がん及び難治性がん対策」を医療分野の1目標に掲げており、上記研究も、この計画実現に向けた重要な要素となることでしょう。
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