マイナ保険証のさらなる利用促進に向けた医療機関支援、後期高齢者には「資格確認書」を特別発行して混乱を避ける—社保審・医療保険部会(2)
2024.10.3.(木)
マイナ保険証のさらなる利用促進に向けて、例えば「救急搬送患者など、医療機関窓口で通常の受付・オンライン資格確認を行わない患者」にもオンライン資格確認が行えるよう、訪問診療などで使われる「居宅同意取得型」の仕組みを活用することとし、この仕組み導入費を補助する—。
安全な高速インターネット回線が整備されていないなどの理由で「オンライン資格確認等の導入が期限付きで猶予されている」医療機関においても、患者がマイナ保険証のみで受診できるよう、「資格確認のみを行う簡素なオンライン資格確認」の仕組みを導入する費用を補助する—。
後期高齢者が、本人の知らないうちに「紙保険証が失効し、マイナ保険証のみとなってしまい混乱が生じる」事態に対応するため、来夏(2025年)までの「資格確認書」を本人申請を待たずに発行する—。
9月30日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、厚生労働省からこういった方針報告も行われました。同日の医療保険部会では「新たな後発医薬品使用目標を踏まえた医療費適正化計画の見直し」なども議論されており、別稿で報じます(同日の「医療DX推進関連法案」論議に関する記事はこちら)。
オンライン資格確認における「同意」画面を簡素化し、患者の利便性を上げる
医療DXの推進を目指し、「現行の健康保険証の新規発行を本年(2024年)12月2日に終了し、マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)を基本とする仕組みに移行する方針が固められ、「マイナンバーカードの保険証利用促進に向けた総合的な対策が順次進められています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
マイナ保険証の利用状況を見ると、本年(2024年)に入ってから、1月:4.60%、2月:4.99%、3月:5.47%、4月:6.56%、5月:7.73%、6月:9.90%、7月:11.13%、8月:12.43%と上昇モードに入っています。ただし、「依然としてマイナ保険証の利用率が低調である」状況そのものは変わっていません。
厚労省保険局医療介護連携政策課の山田章平課長は、9月30日の医療保険部会で、さらなるマイナ保険証利用促進に向けて次のような取り組みを行う考えを報告しました。
(1)医療機関等の通常の受付窓口とは異なる動線で資格確認を行う場合の居宅同意取得型の活用
→▼発熱や風邪症状のある患者に対し、通常とは異なる動線で受け付けや診療を行う場合▼緊急入院により受付窓口で資格確認を行わずに入院した場合▼長期入院時に毎月の資格確認を病室において実施する場合▼車内に患者がいる状態で診療や服薬指導等を実施するドライブスルー方式の運用を行っている場合—などには、「医療機関窓口で、マイナ保険証を活用した資格確認」が行えない
→この場合、訪問診療などで使われている医療機関等の端末(タブレット等)や患者本人の端末(スマートフォン等)を用いた居宅同意取得型のオンライン資格確認を活用することが可能である
→11月(2024年11月)から全国医療機関でこの取り組みが行えるよう、医療機関等におけるマイナンバーカードの読み取りや資格確認等のためのモバイル端末等の導入、レセプトコンピュータの改修費用を補助する(訪問診療等における補助と同様の補助)
(2)経過措置対象医療機関におけるオンライン資格確認(資格確認限定型:簡素な資格確認の仕組み)の導入
→「ネットワーク環境が整っていない」「改築中である」「オンライン資格確認導入が困難であると特に認められる」などの事情がある医療機関では、例外的に「オンライン資格確認等システムの導入」が期限付きで免除されている(経過措置)が、こうした医療機関でもマイナ保険証による保険診療が可能となるように「簡素な資格確認の仕組みであるオンライン資格確認(資格確認限定型)」(資格確認のみに対応するアプリケーションソフトを配布し、汎用のカードリーダーを用いて資格確認のみを行うことで、新規の医事システム導入などが必要ない簡素なオンライン資格確認等システム)の導入を任意で可能とする
→12月から経過措置対象医療機関でマイナ保険証利用を可能とすべく、オンライン資格確認(資格確認限定型:簡素な資格確認の仕組み)に必要な機器(PC等に接続する汎用カードリーダー、タブレット・スマホ等のモバイル端末の機器)の導入を補助する
(3)顔認証付きカードリーダーの同意画面の改善
→「マイナ保険証を使うと何度も同意を求められ、紙保険証より手間がかかる」といった患者の声なども踏まえ、この10月7日(2024年10月7日)から「限度額適用認定証情報の提供同意画面の省略」「医療情報等の包括同意」についてリリースを行う
(4)外来診療等におけるスマホ搭載対応
→「マイナ保険証のスマートフォン搭載」を求める声なども踏まえ、来春(2025年春)にAndroid・iPhoneで同時に実証事業を行い、その後、医療機関等での普及を目指す(本格展開時期は未定)
(5)マイナ保険証を基本とする仕組みへの円滑な移行に向けた対応
→後期高齢者では▼ITに不慣れでマイナ保険証移行に一定の期間を要する▼75歳到達や転居に伴う後期高齢者医療への加入に際し「資格取得届出」提出が省略されているため、12月2日以降にこれらの事情が生じた場合には、本人が十分認識しないまま、現行の保険証が失効し「マイナ保険証のみ」になるケースがある—。この場合、後期高齢者がマイナ保険証による医療機関受診が難しくなる形で混乱が生じることも考えられる。この混乱を避けるために、来年夏の一斉更新までの間、現行の保険証が失効する後期高齢者に「資格確認書」の職権交付(本人申請を待たずに資格確認書を発行・送付)を行う
こうした取り組みに対する反論は出ていませんが、▼次々と医療機関窓口の受付方法が代わり、患者、とりわけ高齢患者は困惑している。正しい情報を丁寧に提供することが重要である。資格確認書の交付については、「これが何か分からない」「マイナ保険証での受診をやめよう」という人が多く出ることが予想される。この点についても正しい情報を丁寧に提供すべき(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼マイナ保険証に対する誤解、理解不足がまだまだ国民、とりわけ高齢者の間には多い。より積極的に正しい情報をわかりやすく提供すべき(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)▼マイナ保険証を使用できる人にも一律に「資格確認書」を交付することは、マイナ保険証利用に逆行しないか。真に必要な人にのみ職権交付できるように工夫すべき(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼過去の診療情報へのアクセスについて、同じ医療機関では原則1回の同意のみでよいとし、2回目移行の都度同意は不要とすべき(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)—などの注文が出ています。
10月から【医療DX推進体制整備加算】の最低利用率が適用されており、マイナ保険証利用率が「5%未満」の医療機関では同加算が算定できなくなるため、今後、マイナ保険証利用率は高まっていくと予想されます。ただし、医療現場には「マイナ保険証利用率は患者に頼る要素が極めて高く、医療機関では如何ともしがたい部分が大きい。結果、マイナ保険証利用率があがらず、一番低い加算3取得がやっとという医療機関も少ないない」との悲鳴が出ています。こうした点、「取り残される人」が出ないような丁寧な対応の両面を考えた取り組みが重要です。
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