子供医療費の助成を拡大する市町村が増えると予想されるが、「不適切な医療機関受診の増加」などを懸念—社保審・医療保険部会(2)
2023.9.11.(月)
子供医療費の助成を行う自治体について、医療費が増加した部分の公費負担は減額する措置が行われているが、これを廃止する—。
これにより「子供医療費助成」が拡大すると予想されるが、「不適切な医療機関受診が増加し、医療費が不当に増加してしまう」ことも懸念されるため、適正な医療機関受診の周知、抗菌薬使用の適正化、医療費適正化などに同時に努める必要がある—。
またオンライン資格確認等システムで閲覧可能な情報の保存期限を「5年間」に延長する。来年(2024年)4月以降、レセプトの紙請求可能な医療機関等は、必要な届け出を行ったところに限定する—。
9月7日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こういった方針も固められています(出産費用の見える化webサイト創設に関する記事はこちら)。
子供医療費助成に伴う国庫負担減額措置を廃止するが、不適切な医療機関受診を招く恐れも
多くの自治体では「子供の医療費」に対する助成を行っています。厚生労働省が2022年度の状況を調査したところ、▼小学生まではほぼ100%の自治体で(外来:98.8%、入院100%)▼中学生までで見ると96%以上の自治体で(外来:96.2%、入院:99.0%)▼高校生までで見ると人口比で90.1%(自治体ベースでは外来:55.5%、入院:60.1%)—何らかの医療費助成(全額助成、一部助成)が行われていることが分かっています。
ところで医療費助成がなされると、助成なしの場合に比べて医療費が増加します(いわゆる長瀬効果)。医療費は公費(国・自治体)、保険料(国民、企業等)、患者負担で構成されるために、医療費の増加は各者の負担増に直結します。そこで、国民健康保険財政に与える影響や限られた財源の公平な配分という観点に立って、現在、「医療費助成(負担軽減)に伴って増加した医療費分の公費負担」を減額する措置が行われています(国民健康保険の減額調整措置)。
しかし「この減額調整措置は、少子化対策に逆行する」との指摘があり、岸田文雄内閣が本年(2023年)6月13日に決定した「こども未来戦略方針」では「こども医療費助成について、国民健康保険の国庫負担の減額調整措置を廃止する」ことを決定。9月7日の医療保険部会でも、この決定に沿って「市町村の助成内容(自己負担や所得制限の有無等)を問わず、18歳未満までの子供の医療費助成に係る減額調整措置を廃止する」ことを決定しました。廃止時期は、予算編成とも関係する(公費負担が増加する)ために「今後検討、調整する」ことになります。この決定について、自治体サイド委員からは「歓迎」の声があがっています。
ところで、上述のように「医療費助成(=患者負担減)が行われると、医療費が増加する」ことが分かっています。かつて「老人医療費が無料化」されたために、医療保険財政を大きく圧迫し、「75歳以上にも所得に応じた医療費負担(患者負担)を求める後期高齢者医療制度」が創設されています。
今般、「18歳未満までの子供の医療費助成に係る減額調整措置を廃止する」こととなり、今後、多くの自治体で「助成対象を拡大する(助成対象年齢を引き上げる)」「助成内容を拡大する(最大で無料化する)」動きが出てくると思われ、「不要な医療機関受診が増加し、医療費が不適切に膨張してしまう」ことなども懸念されます。
このため厚労省は、次のような「子供にとってより良い医療を実現するための方策」を検討・実施する考えも併せて明らかにしました。
(1)「子供の医療の適正化等に資する取り組み」や「子供の外来医療費」について、保険者インセンティブ制度において、必要な指標等の設定を検討する(考えられる指標例:保護者に対して適切な受診を促す周知・啓発の取り組み、子供の抗菌薬処方の適正化につながる取り組み、子供の医療費助成制度の仕組み、子供の1人当たり医療費(外来)・受診頻度(外来)、子供への抗菌薬処方量(外来)など)
(2)2024年度からの次期医療費適正化計画で「効果が乏しいとのエビデンスありと指摘されている医療」の適正化を位置づけており、都道府県が地域の医療保険者、医療関係者等と協力して取り組む。また、小児抗菌薬の適正な使用等について診療報酬での必要な対応を検討する(関連記事はこちら)
(3)2024年度に「子供の医療費助成による受診行動の変容や医療費の増減、抗菌薬処方への影響、診療報酬制度が受診行動や医療費等に与える影響」などに関する研究を行う
「子供医療費助成の拡大」による悪影響(医療費の不適切な増加など)が生じないような対策ですが、委員からは「老人医療費無料化の轍(不適切な医療機関受診、医療費の増加)を踏まないように最大限留意すべき」(安藤伸樹委員:全国健康保険協会理事長)、「医療費を『無料化』するとおかしなことになる。過去の学術論文でも『自己負担ゼロは好ましくない』と警鐘している点を十分に踏まえるべき」(中村さやか委員:上智大学経済学部教授)、「安易な医療機関受診が増加しないように、上手な医療のかかり方を国民に啓発していく必要がある」(猪口雄二委員:日本医師会副会長)などの声が出たほか、経済団体からは「受療行動が変化(軽微症例での医療機関受診など)し、医療保険財政に悪影響が出る可能性がある。子育て施策と、医療保険制度とは分けて考えるべきではないか」との意見も出ています。
なお、自治体サイドからは「子供医療費助成について全国統一の仕組みを設け、国で実施してほしい」との声が出ています
こうした状況に対し、「自治体が後先を考えずに医療費助成をはじめ、医療費が増加してしまった。その尻ぬぐいを国に求めるのはおかしいのではないか」と指摘する識者も少なくありません。上述のように医療費助成(=患者負担減)は医療費増を招き、さらに医療費無料化は「不適切な医療機関受診を招き、医療費が不当に増加してしまう」ことは歴史を見れば明らかです。
医療保険制度に自己負担(患者負担)が設けられている理由の1つに「『医療費は国民全体で負担している。天から医療費分のお金が降ってくるわけではない』ことを患者自身に理解してもらう」という面があります。医療費が無料であれば、こうした点を考えずに「湯水のように医療費を使う」人が少なからず出てきてしまいます。
一方、自治体の中には、こうした点を十分に踏まえずに、例えば「選挙対策」の一環として子供医療費無料化を打ち出す向きもあります。当然、医療費が増加しますが、その責任を自ら取らずに、国に「肩代わりしてほしい」と要請しているとも見える点を厳しく批判する識者も少なくありません。「子供の医療費助成に係る減額調整措置廃止」の影響(医療機関の不適切な受診増、医療費増)を自治体サイドも十分に注視することが求められます。
また、9月7日の医療保険部会では「オンライン資格確認等システムで管理する情報(資格情報以外)の保存期間について、利用ニーズ、コスト、各種文書の法令上の保存期間等を考慮して5年間に延長する」方針も固められました。
オンライン資格確認等システムのインフラを活用し、患者自身・全国の医療機関等が「過去の診療情報を閲覧・共有可能とする」仕組みが構築されてきています。しかし、例えば薬剤情報については、これまで「3年間」の保存期間とされており、2021年10月からデータ格納が始まっている部分については、来年(2024年)10月以降に、順次保存期間(3年)が終了してしまいます(終了後は閲覧できなくなってしまう)。そこで、保存期間を「5年間」に延長するものです。
もちろん、延長によっても「5年間」の期間が過ぎれば情報閲覧ができなくなってしまいます。そこで厚労省は「事前に本人がマイナポータル経由で診療情報を取得し、自ら保存・管理が可能である。保存期間を超える情報も閲覧したい場合には、事前に情報を取得・管理してほしい」と要望しています。
また、レセプトオンライン請求の推進に向け、「2024年4月以降も『紙レセプト』請求を継続する医療機関等では『改めての届け出』が必要となる。2024年4月以降は届け出を行った保険医療機関等のみが『紙レセプト』請求を行うことが可能となる」旨を厚労省が強調しています。この点、池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)や猪口委員は「高齢医師等に配慮した柔軟かつ慎重な対応をお願いしたい」と要望しました。
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