出産育児一時金の引き上げなどした場合、所得の高い後期高齢者で年間、数千円から十数万円の保険料負担増—社保審・医療保険部会(1)
2022.12.9.(金)
出産育児一時金について、▼現在の42万円から47万円に引き上げる▼財源を75歳以上の後期高齢者も一部(全体の7%)負担する—という見直しを行った場合、医療保険全体で400億円の負担増が必要となり、協会けんぽ・健保組合では加入者1人当たり200円(年間、以下同)、国民健康保険では同じく50円、75歳以上の後期高齢者では同じく1300円の保険料負担増が必要となる—。
ただし低所得高齢者では負担増にならないような工夫なども同時に行うことで、後期高齢者については、年収153万円未満では保険料負担は増えないが、年収200万円の人では年間3900円、年収400万円のひとで年間1万4200円、年収1100万円の人では年間13万円の保険料負担増となる—。
12月9日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こういった試算結果が示されました。同日には、▼出産費用の見える化(産科医療現場からの意見聴取)▼意見書とりまとめに向けた論議—も行われており、これらは別稿で報じます。
出産育児一時金、金額を引き上げ、財源を後期高齢者にも負担してもらってはどうか
Gem Medで報じているとおり、医療保険部会で「医療保険改革」論議が積極的に進められています。
現役世代内の負担公平化論議
後期高齢者の負担見直し論議
医療費適正化計画見直し論議(2)
出産育児一時金見直し論議
世代間・世代内の負担公平化論議
簡素なオンライン資格確認等システム論議
医療費適正化論議
キックオフ論議
12月9日の医療保険部会では、▼出産育児一時金の見直し▼現役世代の負担軽減に向けた、高所得の75歳以上後期高齢者の保険料負担見直し▼現役世代内の負担の公平性確保(前期高齢者納付金への一部総報酬割導入)—に関する財政試算結果が示されました。
それぞれの制度見直し方向は、概ね次のように整理できます。
(1)出産育児一時金の見直し(関連記事はこちら)
▽一時金額を、実際の出産費用を踏まえて大幅に引き上げる
→例えば、現行「42万円」(本人支給分40万8000万円+産科医療補償制度の掛金分1万2000円)であるところ、公的病院の平均費用(45万5000円)を踏まえて「47万円」(45万5000円+産科医療補償制度1万2000円のイメージ)に引き上げることなどが考えられる
▽75歳以上の後期高齢者にも、財源の一部(全体の7%)を負担してもらう
(2)現役世代の負担軽減に向けた、高所得の75歳以上後期高齢者の保険料負担見直し(関連記事はこちら)
▽「75歳以上の後期高齢者」と「74歳未満の現役世代」とで、医療費負担の伸びが同程度になるような仕組みとする
▽低所得者の保険料負担が増加しないよう、「均等割り」(全員が負担する部分)と「所得割り」(所得が高いほど多く負担する部分)との比率を見直す(現在「1対1」を「48対52」程度とする)
▽一定所得以上の人は、それ以上に所得が高くなっても保険料(税)額は同額とする」という【賦課限度額】(上限額)について「現在は66万円」としているところ、「80万円」に引き上げる
(3)現役世代内の保険料負担の公平性確保(前期高齢者納付金への一部総報酬割導入)(こちら)
▽75歳未満の現役世代の医療費負担(とりわけ70-74歳の前期高齢者の医療費を支える部分)について、「現役世代内の公平性」確保を図るため、「加入者数に応じた負担」に加え、一部「給与・賞与の水準に応じた負担」を導入する
このうち(2)(3)については、既に大まかな財政影響(誰の負担がどの程度増え、誰の負担がどの程度減るのか)が示されていましたが(関連記事はこちらとこちら)、今般、(1)の財政影響および、(1)から(3)全体を実施した場合の後期高齢者の負担変化に関する試算結果が示されました。
まず(1)の財政影響を眺めてみましょう。
一時金を42万円から47万円に引き上げると仮定した場合、「400億円」の財源が必要となります。これを含め、75歳以上の後期高齢者にも財源の一部(一時金財源全体の7%)を負担してもらうとすると、▼後期高齢者医療制度で260億円▼協会けんぽで60億円(後期高齢者が負担しない場合には170億円負担しなければならないが、後期高齢者が110億円負担し60億円増に収まる)▼健保組合で40億円(同120億円→(80億円を後期負担)→40億円)▼共済組合で20億円(同60億円→(40億円を後期負担)→20億円)▼国保で10億円(同40億円→(30億円を後期負担)→10億円)—と分担して負担しあうことになります。
単純に加入者数で除した「1人当たりの平均負担額」(保険料の負担増分)は、年間で▼後期高齢者医療制度:1300円▼協会けんぽ:200円▼健保組合:200円▼共済組合:200円▼国保:50円—となります(収入によって負担増となる額が変わってくる)。
また、47万円を超えて一時金を引き上げる場合の、各保険者の負担増は、1万円引き上げにつき▼後期高齢者医療制度:10億円、1人あたり年間30円▼協会けんぽ:30億円、同100円▼健保組合:20億円、同100円▼共済組合:10億円、同100円▼国保:10億円、同30円—と試算されました。例えば、一時金を50万円に引き上げる場合には、47万円から3万円アップとなり、上記の3倍、つまり▼後期高齢者医療制度:30円×3+47万円までの1300円(計1390円)▼協会けんぽ:100円×3+同200円(計500円)▼健保組合:100円×3+同200円(計500円)▼共済組合:100円×3+同200円(計500円)▼国保:30円×3+同50円(計140円)—の保険料負担増(年間)と大まかに計算できます。
今後、「一時金を実際にいくらに引き上げるのか」を調整していくことになり、その結果、「保険料の負担増がいくらになるのか」も変わっていきます。
なお、新たに負担を求めることとなる後期高齢者は「所得の上位から4割程度の高所得者」(年収でおよそ153万円超)に限られ、残り6割程度の低所得者(153万円以下)では、出産育児一時金が引き上げられても新たな保険料負担増は生じない工夫がなされています(低所得者は上記(2)の均等割りのみ負担するが、出産育児一時金の財源は高所得者のみが負担する「所得割り」を財源とすることで、低所得者の負担は増加しないことになる)。
医療保険改革の負担増、低所得高齢者では生じないが、高所得高齢者では十数万円の負担増も
また、(1)から(3)をすべて実施した場合には、75歳以上の後期高齢者の保険料負担は次のように変化します。低所得者では負担は増えず、経済能力の高い高所得者により多く負担してもらう格好です。
▽単純に「必要財源÷加入者数」で計算した1人当たり年間保険料額
【現行】:8万2000円
↓
((1)の見直しで上述のとおり1300円増、(2)の見直しで4000円増)
↓
【見直し後】:8万7300円
▽年収80万円の人
【現行】:1万5100円
↓
((2)の見直しにより負担増とならない)
↓
【見直し後】:1万5100円
▽年収200万円の人
【現行】:8万6800円
↓
((1)(2)の見直しで3900円増)
↓
【見直し後】:9万700円
▽年収400万円の人
【現行】:21万7300円
↓
((1)(2)の見直しで1万4200円増)
↓
【見直し後】:23万1500円
▽年収1100万円の人
【現行】:67万円
↓
((1)(2)の見直しで13万円増)
↓
【見直し後】:80万円
この見直し内容を見ると、高所得者で大きな負担増になる一方で、低所得者では保険料負担が変わらず、制度設計を検討する厚労省の工夫の跡が伺えます。ただし、高所得者では相当な負担増が見込まれること、別に介護保険制度でも負担増が検討されていること(関連記事はこちら)などの点に鑑みて、「段階的な引き上げを行うなどの配慮が必要である」(横尾俊彦委員:全国後期高齢者医療広域連合協議会会長、多久市長)、「医療・介護全体の制度改革内容、負担増の試算結果などを見て、立て続けの負担増に高齢者が耐えうるか見極めるべき」(池端幸彦委員:日本慢性期医療協会副会長)など、「配慮」を求める声も少なくありません。
他方、現役世代の負担がどのように変化するのかについては、前回会合でも議論になった「現役世代の負担をできるかぎり抑制し、企業の賃上げ努力を促進する形で既存の支援を見直すとともに更なる支援を行う」との内容が明確になっておらず、試算結果は示されていません。この点について佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「現役世代の負担が減少するような仕組みで最終調整すべき」(一時金の引き上げは合理的な範囲に抑え、(3)の見直しは最小限とし、同時に「浮く国費」は全額現役世代の負担減に充当するなど)と指摘。また安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も同様に、「(3)の見直しは現役世代負担増とならないようにできる限り限定的にし、浮いた国費は全額、現役世代の負担減の充てるべき」などの提案をしています。
こうした提案・意見も踏まえて、最終的には12月中旬から下旬にかけての来年度(2023年度)予算案編成過程の中で大枠が固められます。
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