白内障手術・化学療法、2024年度から各都道府県で「計画的な外来移行」を推進!抗菌剤の使用適正化も!—社保審・医療保険部会(1)
2022.11.18.(金)
2024年度からの新たな「医療費適正化計画」に向けて、「風邪や急性下痢症への抗菌剤投与の適正化」「白内障手術や化学療法などの外来移行」について指標・目標値を定めて推進する—。
適正化を求めていく「多剤投与」について、現在は「同月内に15種類」以上が対象だが、「同月内に6種類以上」に拡大する—。
11月17日に開催された社会保障審議会・医療保険部会において、こういった議論が行われました。同日には「高齢者と現役世代の世代間負担の公平化、高齢者の世代内負担の公平化」「国民健康保険制度の見直し」も議題にあがっており、これらは別稿で報じます。
目次
切れ目のない医療・介護提供が日常生活復帰を促し、結果「医療費適正化」につながる
全世代型社会保障検討会議の指示を受け、医療保険部会で「医療保険改革」論議が積極的に進められています。
出産育児一時金見直し論議
世代間・世代内の負担公平化論議
簡素なオンライン資格確認等システム論議
医療費適正化論議
キックオフ論議
11月17日の医療保険部会では、改めて「医療費適正化計画」見直し論議を行いました。
医療費適正化計画は、各都道府県において▼6年後(計画満了時)の医療費適正化の見込み(医療費の伸びをどれだけ抑えられるか)▼医療費適正化を実現するための方策(特定健診・保険指導の推進、糖尿病の重症化予防、後発医薬品の使用促進、地域医療構想の実現など)―を計画に落とし込み、実行を求めるものです(2008年度からスタート)。
医療技術の高度化(1億円を超える新薬の保健適用など)、高齢化の進展などにより「医療費は膨張」を続けていきます。その一方で、主な費用負担者である現役世代は減少していくため、「医療費の伸びを抑える」ことが、医療保険制度の安定・維持のために必要不可欠なのです。
厚生労働省保険局医療介護連携政策課の水谷忠由課長は、前回論議を踏まえて次のような見直しの考え方を提示しました。
(1)新たな目標の設定
(2)既存目標に係る効果的な取り組み
(3)保険者・医療関係者との方向性の共有・連携、都道府県の責務・取りうる措置の明確化
まず(1)では、「高齢者への医療・介護の効果的・効率的提供」と「医療資源の効果的・効率的な活用」の2点が打ち出されました。
前者は、医療ニーズ・介護ニーズの複合的なニーズをもつ高齢者に対し「医療・介護サービス」を一体的に提供することで、「早期に在宅復帰し、寝たきりを防止する」などの効果を狙うものと言えます。
例えば、骨密度の低下した高齢者が転倒し骨折した場合に、「急性期治療を終えたが、回復期リハビリ病棟への転院が遅れ、リハビリの効果が十分に得られなかった」「その結果、介護施設に入所したが、やはり思うようなリハビリが行えず、寝たきりになってしまった」などの事態が少なからず生じていると指摘されます(関連記事はこちら)。これは「医療費・介護費の増加」をもたらすとともに、患者のQOLの著しい低下を招いてしまいます。
そこで、水谷医療介護連携政策課長は、高齢者の骨折に対し「急性期から回復期、在宅での介護や通院時の医療・介護の機能連携や適切な受診勧奨等を推進する」考えを提示しました。切れ目のない適切な医療・介護提供により「早期の日常生活への復帰」を促すことが、結果として医療費・介護費の適正化にもつながるとの考えに基づくものと言えるでしょう。思いつくだけでも、▼急性期病院と回復期病院とが密接に連携し、早期の回復期転院・リハビリ実施を目指すことで、「リハビリの効果」を上げる▼回復期病院からの在宅復帰を適切に進めるために、在宅医療機関やケアマネジャーを含む在宅介護サービスと回復期病院とが密接に連携する▼在宅復帰後の「再転倒・再骨折」を防止するために、ケアマネジャーなどが適切な医療機関受診をサポートする▼医療機関が高齢者本人や家族、ケアマネジャーに「骨折予防」に向けた適切な指導を行う—などの具体的な取り組みが浮かんできます。骨折に限らず、「脳卒中や心筋梗塞などの循環器疾患対策」、「口腔・栄養・リハビリの一体的推進による誤嚥性肺炎防止」など、総合的な医療・介護連携を医療費適正化計画の中でも推進していくことに期待が集まります。
医療費適正化に向け白内障手術・化学療法の外来移行などの指標・目標等を設定
また後者の「医療資源の効果的・効率的な活用」は、▼風邪や急性下痢症への抗菌剤投与などの「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」▼白内障手術や化学療法の外来実施、リフィル処方箋の活用など「医療資源の投入量に地域差がある医療」—について「効果的・効率的な医療資源活用」の視点で適正化を進めるものです。
今後、有識者による検討組織を立ち上げ「エビデンスを継続的に収集・分析し、都道府県が取り組める目標・施策の具体的なメニューを提示する」ことになります。新たな医療計画(第4期医療計画)は2024年度からスタートさせなければならず、来年度(2023年度に各都道府県で医療費適正化計画を作成するため、有識者による検討は「今年度(2022年度)中に行われる」見込みです。どのようなメニュー(上記の化学療法外来実施などは現時点の例示)について、どのような目標が掲げられるのかは今後の検討を待つ必要がありますが、「抗菌剤使用を適正化していく」「白内障手術や化学療法の外来実施を進めていく」方向は決まっており、医療機関等においてもこの方向に沿った取り組みが求められます。
この点、井深陽子委員(慶應義塾大学経済学部教授)は「有識者の検討会では、医療費適正化、医療資源の効率的・効果的活用が進むよう、できるだけ多くのメニューを提示してほしい。その際、白内障手術や化学療法の外来実施に関しては『地域固有の事情』にも配慮することが必要である」とコメントしています。
多剤投与を「同月内に15種類以上」から「同月内に6種類以上」へ拡大し、適正化推進
また(2)の「既存目標」については、次のような見直し・改善が進められます。
(a)後発医薬品の使用促進に向けた新目標の設定(「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」の議論、バイオシミラーの目標設定などを踏まえて設定する)
(b)重複投薬・多剤投与の適正化推進(適正化を求めていく多剤投薬の定義について、現在「同月内に15種類以上」とされているところを、診療報酬の規定を踏まえて「同月内に6種類以上」に拡大する)
(c)特定健診・保健指導の推進
(d)入院医療費の適正化に向け、当面、引き続き「地域医療構想」を反映させるが、2025年度以降の「ポスト地域医療構想」の検討状況を踏まえて推計方法を見直す
このうち(a)の後発医薬品使用促進に関し、「現在、後発品を中心に医薬品の深刻な供給不安が生じている。使用促進が現実的なものとなるように留意するべき」旨のコメントが多くの委員から出ています。厚労省医薬・生活衛生局での検討結果を踏まえて「新たな後発品の目標」を設定することになります。
また(b)については、「多剤投与の定義・対象を6種類以上に拡大する」点については、「高齢者は複数疾病を抱え、必然的に多くの薬剤処方が必要となる。6種類基準は低すぎるのではないか」との声が猪口雄二委員(日本医師会副会長)から出されたほか、「高齢者の医薬品適正使用に係るガイドラインが作成されている。医療費適正化計画を進めるに当たっては、ガイドラインを十分に活用することなども考えていくべき」旨の前向きな提案が池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)からなされています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
多剤投与は医療費の高騰だけでなく、患者の健康に悪影響を及ぼすことも少なくありません。「傷病の治療に必要な医薬品」投与を確保したうえで、上述のガイドラインを参考に「薬剤使用の適正化ができないか」を定期的に検討することが必要です。
なお、この多剤投与・重複投薬の適正化に向けて佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「来年(2023年)1月から全国展開される電子処方箋が重要である(リアルタイムで重複投薬がなされていないかを確認できる、関連記事はこちら)。システムの医療機関・薬局への導入を促進し、国民・患者への十分なPRを行ってほしい」と要望しています。
他方、(d)の「ポスト地域医療構想」について、村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)や本多孝一委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)は「新型コロナウイルス感染症の中で、我が国の医療提供体制の脆弱性があらわになった点を踏まえ、2025年に向けた地域医療構想の実現、2025年から先のポスト地域医療構想の策定と実現を進めよ」と訴えています。
このほか(3)では▼各都道府県に保険者協議会を必置することを求め、そこに「医療関係者の参画」を促進する▼医療費見込みに基づく計画最終年度の国保・後期の保険料率の試算を行う▼ 医療費が見込みを著しく上回る場合等の要因分析と、要因解消に向けた対応の努力義務化—などの方向を打ち出しています。
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