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現役世代「内」で医療費負担の公平性を担保する仕組みを一部導入!現役世代の負担軽減・給与増を図る!—社保審・医療保険部会

2022.12.1.(木)

75歳未満の現役世代の医療費負担(とりわけ70-74歳の前期高齢者の医療費を支える部分)について、「現役世代内の公平性」確保を図ってはどうか―。

また医療保険制度の中で、「会社員などの給与水準増、負担減」を目指す仕組みを導入してはどうか―。

40歳以上の特定健診・保健指導を充実するとともに、40歳未満の健診結果を自分自身で経時的に確認できる仕組みを整備してはどうか―。

12月1日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こうした議論が行われました。

12月1日に開催された「第159回 社会保障審議会 医療保険部会」

70-74歳の加入者の多寡に着目した被用者保険の財政調整、より負担能力に応じた仕組みに

Gem Medで報じているとおり、医療保険部会で「医療保険改革」論議が積極的に進められています。
後期高齢者の負担見直し論議
医療費適正化計画見直し論議(2)
出産育児一時金見直し論議
世代間・世代内の負担公平化論議
簡素なオンライン資格確認等システム論議
医療費適正化論議
キックオフ論議



12月1日の医療保険部会では、▼現役世代の負担軽減▼現役世代内の負担の公平性確保—を主な議題としました。

我が国の公的医療保険制度は複雑ですが、▼75歳以上の後期高齢者は、地域に設けられた「後期高齢者医療制度」に加入する(関連記事はこちら▼74歳未満は、自営業者や無職者などは地域に設けられた「国民健康保険」に、会社員等であれば「被用者保険」(健康保険組合、協会けんぽ、共済組など)に加入する—という区分けができます。

後期高齢者は、一般に「所得が少ない一方で、医療費が高い(傷病にかかりやすい)」ことから、74歳未満の現役世代が財政支援を行っていることはGem Medで報じているとおりです(関連記事はこちら)。

他方、74歳未満の現役世代でも、「70-74歳の前期高齢者」は医療費が高い(若い世代に比べて傷病にかかりやすい)ため、「前期高齢者の加入者が多い医療保険は財政が厳しくなる」「前期高齢者の加入者が少ない医療保険は財政が良好である」傾向があります。そこで現役世代の医療保険では、「前期高齢者の加入者が少ない医療保険」(=財政が良好)から「前期高齢者の加入者が多い医療保険」(=財政が厳しい)へ財政調整を行う仕組みが設けられています。

この財政調整は、現在、前期高齢者の加入者「数」に応じて行われていますが、今般、厚労省から「被用者保険間の財政調整について、加入者『数』に応じた調整に加え、加入者の『負担能力』(=給与と賞与を合わせた総報酬の多寡)に応じた調整も組み合わせてはどうか」との提案が行われました。

前期高齢者納付金に「負担能力に応じた負担」の仕組みを一部導入(医療保険部会1 221201)



被用者保険には、▼主に大企業の会社員とその家族が加入する「健康保険組合」▼主に中小企業の会社員とその家族が加入する「協会けんぽ」▼公務員とその家族が加入する「共催組合」—などがあります。基本的には、それぞれの被用者保険の中で財政を賄いますが、例えば「協会けんぽ加入者は、健保組合加入者に比べて給与水準が低い(=財政が比較的厳しい)点を踏まえ、国庫補助(16.4%)を行う」、「前期高齢者の加入割合が異なる点に着目した財政調整を行う」ような、各医療保険制度に内在する格差を是正する仕組みも設けられています。

今般の厚労省提案は、「前期高齢者の加入割合が異なる点に着目した財政調整」について「負担能力に応じた仕組み」を導入する「合理的」なものです。

すでに、「後期高齢者支援金」においては「加入者数と給与水準を踏まえた財政調整」が全面導入されています(関連記事はこちら)が、厚労省は、前期高齢者の財政調整では「加入者『数』に応じた調整に、加入者の『負担能力』(=給与と賞与を合わせた総報酬の多寡)に応じた調整を部分的に組み合わせる」考えを示しています。後述するように、この仕組みの導入により健保組合(中でも給与水準の高い企業が加入する健保組合)の負担が増加することになり、全面導入した場合には「負担増の度合いが大きくなりすぎる」ためと見られます。

厚労省は、この新たな財政調整により各医療保険者の前項高齢者納付金がどのように変化するかを次のように試算しています。給与水準の低い「協会けんぽ」の負担金(納付金)が減少し、給与水準の高い健保組合や共済組合の負担金(納付金)が増加する格好です。

【加入者『数』に応じた調整を4分の3、『負担能力』に応じた調整を4分の1の割合で組み合わせた場合】
▽協会けんぽ:2024年度の前期高齢者納付金額が730億円減少する
▽健保組合:同450億円増加する
▽共済組合等:同260億円増加する
▽国民健康保険:同20億円増加する

【加入者『数』に応じた調整を3分の2、『負担能力』に応じた調整を3分の1の割合で組み合わせた場合】
▽協会けんぽ:同970億円減少する
▽健保組合:同600億円増加する
▽共済組合等:同350億円増加する
▽国民健康保険:同20億円増加する

【加入者『数』に応じた調整を2分の1、『負担能力』に応じた調整を2分の1の割合で組み合わせた場合】
▽協会けんぽ:同1450億円減少する
▽健保組合:同890億円増加する
▽共済組合等:同520億円増加する
▽国民健康保険:同20億円増加する

前期高齢者納付金に係る財政影響(医療保険部会2 221201)

財政調整の見直し国の負担が軽減するが、国費減は現役世代の負担減に充てよとの指摘

「経済力の高い人が、より多く負担する」方向は合理的であり、この仕組みそのものに反対する意見は出ていません。

ただし、委員からは、いくつかの問題点があるため「制度設計を慎重に検討せよ」と要望する声も多数でています。その1つが「事実上、協会けんぽの国庫負担を健保組合等に肩代わりさせるものである」との指摘です。

上述のように協会けんぽと健保組合では、加入者の所得差がある一方で、支出となる医療費には大きな差がないため、協会けんぽのほうが財政が厳しくなります。自前で財政運営を行うためには「協会けんぽで保険料率を高く設定する」必要がありますが、もともと所得水準が低いために、この手法は取りにくく、協会けんぽには「国から財政支援」(国庫補助、16.4%)が行われています。

今般の見直しを行うと、「協会けんぽの納付金負担が減る」→「納付金に係る国庫負担(16.4%分)も減る」ことになります。厚労省の試算では、「4分の1を給与負担に応じた調整とする」場合に970億円、「3分の1」の場合に1290億円、「2分の1」の場合に1940億円の国庫補助が減少します。

一方、上述のように健保組合等の前期高齢者納付金負担は増加する」ため、両者をつなげて考えれば、「これまで国が負担していた前期高齢者納付金の一部を、健保組合等が肩代わりする」ことになると言えるのです。

この点を捉えて、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)らは「今回の医療保険制度改革の最大の目的は『現役世代の負担軽減』にあるが、健保組合等では負担増になる。前期高齢者納付金見直しで削減される国費は、全額、健保組合等の負担軽減に充てるべき」と強く訴えています。

ただし、上記試算は「協会けんぽ全体、健保組合全体」で見たものです。健保組合の中にも、給与水準の高い組合と低い組合とがあり、「前期高齢者納付金が増加する」組合(=給与水準が高い大企業が自前で設けている健保組合など)もあれば、「前期高齢者納付金が減少する」組合(=給与水準が低い中小企業が集まって設けている健保組合など)もあります。また、後述するように「現役世代の負担を可能な限り抑制する」仕組みも検討されており、「健保組合の負担増」がどの程度になるのかなどは現時点で見通すことはできません。



なお、協会けんぽでも、「前期高齢者納付金の負担が減少する」(=支出が減少する)と同時に、「国庫補助が減少する」(=収入が減少する)ことになり、両者を差し引きすると▼4分の1を給与負担に応じた調整する場合に240億円▼3分の1の場合に320億円▼2分の1の場合に480億円—の負担増となります。これが「協会けんぽ加入者の保険料負担増」にダイレクトにつながるかは明らかではありませんが、協会けんぽの運営者である安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も、佐野委員と同様に「国賓の負担減分を、現役世代の負担軽減にすべて充てるべき」と訴えています。



また、前期高齢者納付金は「各医療保険者における前期高齢者1人当たり給付費」をベースに計算します。「加入者が大病を患うなどし、多額の医療費が発生した場合には、前期高齢者1人当たり給付費も変動(=増加)する」ことになりますが、小規模な健保組合ではこの変動が非常に大きなことから、厚労省は「各医療保険者における前期高齢者1人当たり給付費」を、今後「3年間の平均値」とする考えを提示し、了承されています。

前期高齢者納付金の計算ベースを「3年間の高齢者1人当たり給付費」に見直す(医療保険部会3 221201)



さらに、厚労省は上述のとおり「現役世代の負担をできるかぎり抑制する」仕組みを導入する考えも示しています。詳細は明らかにされていませんが、▼現在の調整の仕組み(拠出金負担(後期支援金、前期納付金)が過大となる保険者の負担を、全保険者と国費で軽減する仕組み、健保組合間の保険給付・拠出金不均衡を調整する仕組み、前期高齢者納付金負担が過大となる保険者に対する補助の仕組み)に「企業の賃上げ」を要件として組み込む▼新たな「企業の賃上げ」を要件とする医療保険者支援の仕組みを創設する—ことが今後、検討されていきます。

現役世代の負担減・給与増を医療保険を介して行う(医療保険部会4 221201)



この点について佐野委員は「賃上げ促進は好ましいが、医療保険を介して行うことが好ましいのか」と疑問を呈しています。今後厚労省からしめされる具体案に注目が集まります。

被用者保険が「現役世代の負担減」求めるが、高齢者・現役の対立煽るなとの指摘も

ところで、▼健康保険組合連合会▼全国健康保険協会▼日本経済団体連合会▼日本商工会議所▼日本労働組合総連合会—の被用者保険5団体は、今回の医療保険改革の最大の目的は「現役世代の負担軽減」にあると指摘します。

医療技術の高度化により、医療費の高騰が続いています。例えば、脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3350万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似した、やはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。

同時に、高齢化の進展による医療費高騰も続いています。ついに今年度(2022年度)から団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめており、2025年度には全員が後期高齢者となるためです。

このように医療費が高騰していく一方で、支え手となる現役世代人口は減少する(2025年度から2040年度にかけて急速に減少する)ため、主な支え手となる「現役世代」の負担は今後ますます増加していく可能性があることから、「現役世代の負担は限界に来ている。負担軽減が必須である」と5団体は強調。田辺国昭部会長(国立社会保障・人口問題研究所所)に宛てて、▼後期高齢者の保険料賦課限度額の引き上げ、高齢者支援金の負担割合見直し、出産育児一時金の後期高齢者負担導入を確実に実施する(関連記事はこちらこちら)▼被用者保険者間の格差是正(上述の厚労省提案内容)—を強く要望しています(厚労省サイトはこちら)。

この要望や、全世代型社会保障構築会議の議論に対し、池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)や袖井孝子委員(高齢社会をよくする女性の会副理事長)は「高齢者vs現役世代の対立を煽りすぎていないか?現役世代も時間が経てば高齢者となる。今、現役世代の負担軽減・高齢者の負担増を行えば、将来の高齢者(=今の現役世代)の負担を重くすることになる」と指摘。高齢者負担増案が相次ぐ中で「拙速な議論を避けるべき」と訴えています。



このほか12月1日の医療保険部会では、次のような方針も固められています。

▽2024-29年度における「特定健康診査・特定保健指導の目標値」について、全体(特定健診70%以上、保健指導45%以上、メタボ予備群減少25%以上)を維持するが、保険者別には一部見直しを行う(特定健診では協会けんぽについて65%以上から70%以上に引き上げ、保健指導では単一健保組について55%以上から60%以上に、共済組合について45%以上から60%以上に引き上げ)

第4期における特定健診・保健指導目標値(医療保険部会5 221201)

保険者別の特定健診・保健指導目標値(医療保険部会6 221201)



▽40歳未満の事業主健診結果について、40歳以上の特定健診結果と同じ項目をマイナポータルを用いて「自分自身で確認可能」な仕組みの整備などを行う(自身の健康意識を高め、健康水準の向上を狙う)

40歳未満の健診情報利活用を進める(医療保険部会7 221201)



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