電子カルテ情報共有サービス、地域医療支援病院・特定機能病院・2次救急病院等で導入努力義務を課してはどうか—社保審・医療保険部会(1)
2024.10.2.(水)
医療DXをさらに推進していくために「電子カルテ情報共有サービスの運用費用を誰がどのように負担するのか」、「重要な個人情報であり、情報の利活用について患者同意をどのように考えるのか」などを法令に規定していく—。
また、電子カルテ情報共有サービスは、すべての医療機関等が参加し、すべての患者の情報が登録されることで真価が発揮される。ただし、医療機関等の負担も考慮し、例えば地域医療支援病院や特定機能病院などについて「電子カルテ情報共有サービス導入の努力義務」を課してはどうか―。
9月30日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こうした議論が行われました。年内(2024年内)の意見とりまとめ→年明け(2025年)の通常国会への医療DX推進関連法案提出が目指されます。
なお、同日の医療保険部会では「新たな後発医薬品使用目標を踏まえた医療費適正化計画の見直し」「マイナ保険証利用促進」なども議論されており、別稿で報じます。
電子カルテ情報共有サービスの運用費用、メリットの享受度合いとセットで考えよ
Gem Medで繰り返し報じているとおり「医療DX」推進に向けた動きが加速化しています。診療情報(レセプト情報や電子カルテ情報、処方箋情報など)を集積し、患者自身はもちろん、全国の医療機関で共有・閲覧可能とする(医療DX)ことで、例えば「この患者にはAという薬が処方されている。今、Bという薬を処方しようと思ったが、併用に注意点があるので、別のB1という薬に変更しよう」、「この患者にXという検査を行おうと思ったが、すでに先週、別の医療機関でXを包含する検査を行っているようだ。その検査結果を活用しよう」、「私は●●の検査結果が改善していない、かかりつけの医師の指示をもとに生活習慣を改善しよう」といった具合に質の高い効果的・効率的な医療提供が可能になると期待されます。また、先の能登半島地震では、こうした過去の診療情報を活かし「患者にどのような治療が行われ、どのような薬が処方されているのか」を把握し、適切な医療提供が可能となったとの実績もあがっています。
厚労省もこの工程表に則り、▼電子カルテ情報共有サービスの実現▼標準型電子カルテの普及▼医療・介護情報の2次利用推進—などの取り組みを進めています(さらに「近未来健康活躍社会戦略」でも推進方針を明確化)。
電子カルテ情報共有サービス等については、すでに「どのような情報を、どのような仕組みで共有するのか」などは固まっていますが、例えば▼電子カルテ情報共有サービスを運用等するためのコスト(費用)を誰が、どのような形で負担するのか▼カルテ等は重要な個人情報であり、利活用するためには患者の「同意」が必要となるが、都度都度の同意を求めるべきか▼公的データベースの『仮名化』情報を第三者に提供するための法的根拠をどう考えるのか—などの、制度的な裏付けを行っておく必要があります。そこで医療保険部会では「医療DXを上記の方針に沿って進めるための制度的な裏付け」論議を行っているのです(関連記事はこちら)。
9月30日の医療保険部会では、厚生労働省大臣官房の西川宜宏企画官(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室、医政局、健康・生活衛生局感染症対策部併任)から、年明け(2025年)の通常国会に提出する医療DX推進関連法案(医療法、健康保険法などに医療DXを総合的に推進する規定を盛り込む)の中に、次のような項目を盛り込んではどうかとの方針案が提示されました。
(1)医療機関から支払基金等への3文書6情報の提供
電子カルテ情報の共有にあたっては、当初は、3文書(診療情報提供書、退院時サマリー、健康診断結果報告書)・6情報(傷病名、アレルギー情報、感染症情報、薬剤禁忌情報、検査情報(救急及び生活習慣病)、処方情報)について標準化を行ったうえで、医療機関等から支払基金等の「電子カルテ情報共有サービス」に【登録】等し、必要に応じて全国の医療機関等や患者自身が【閲覧】を可能とする仕組みが構築されます。この仕組みを法制度上に位置付けるために、関係法律等に次の規定を設けます。
▽医師、歯科医師等は、3文書6情報について支払基金等に対して電子的に提供することができる旨を法律に位置づける
▽質が高く効率的な医療提供・医療機関における負担軽減を目指す観点から、「法令に根拠を設ける」ことにより、個人情報保護法の第三者提供に係る本人同意取得の例外として、3文書6情報を支払基金等へ提供する際の、「都度の患者の同意取得」を不要とする
→個人情報保護のために原則として「患者の同意」が必要となるところ、1つ1つ同意を得て登録することとなれば、「情報の歯抜けが生じる」「医師等の負担が非常に重くなる」点を考慮して、法令に根拠を設けることで、【登録】(支払基金等への情報提供)については同意を不要とする
▽ただし、登録された33文書6情報を、他の医療機関等が【閲覧】する際には「患者の同意」が必要となる(電子カルテ情報共有サービスの中に情報は共有されるが、患者が同意しなければ、その情報を見ることは原則としてできない)
(2)3文書6情報の目的外利用の禁止
電子カルテ情報には、非常に機微性の高い個人情報が含まれるため、「効率的・効果的な医療提供」「医療の質向上に向けた研究等への活用」などにのみ利活用される必要がある。そこで関係法令に次のような規定が設けられます。
▽支払基金等に提供された3文書6情報について、支払基金等は「電子カルテ情報共有サービスによる医療機関等への共有」以外の目的には使用してはならない旨を規定する
(3)運用費用の負担について
電子カルテ情報共有サービスのシステム構築は国が行いますが、その運用・保守等にも「費用」が生じます。この費用を誰がどの程度負担するかを明確化するために、関係法令に次のような規定が設けられます。
▽電子カルテ情報共有サービスの運用費用の負担者や負担方法等について規定する(誰がどの程度のメリットを受けるのかなどを踏まえて、さらに具体案を検討していく)
(4)電子カルテ情報共有サービス導入の努力義務
電子カルテ情報共有サービスは、すべての医療機関等が参加し、すべての患者のデータが登録されてこそ真価を発揮します。一部の医療機関で、一部の患者のみのデータしか格納されていないのでは、上述した目的を達成できません。もっとも、電子カルテ情報共有サービスの参加(システム導入等)には医療機関等の負担も生じるため「すべての医療機関等に参加義務」を直ちに課すことは現実的ではありません。そこで、「まず電子カルテ情報の共有が非常に重要である」と考えられる医療機関等がより多く参加することを促すために、関係法令に次のような規定が設けられます。
▽▼地域医療支援病院▼特定機能病院▼その他救急・災害時における医療提供を担う病院—など、役割・機能に鑑み「カルテ情報の電磁的共有が特に求められる病院」の管理者(院長等)に対し、3文書6情報の共有に関する体制整備に努める規定(努力義務規定)を設ける
(5)次の感染症危機に備えた対応等
新型コロナウイルス感染症対策の中では「リアルタイムの医療情報共有」が非常に重要であることが痛感されました。今後も新たな感染症が生じると考えられ、そこに備えた次のような規定を設けることになります。
▽次なる感染症危機に備えた「電子カルテ情報と感染症発生届の連携」など、電子カルテ情報共有サービスの利用等を可能とする旨を規定する
詳細は今後詰めていくことになりますが、医療保険部会委員からは様々な見解が示されています。
例えば(2)の運用費用負担については、「電子カルテ情報共有サービスの全国展開に向けて、標準型電子カルテについて、2030年に概ねすべて医療機関での導入を目指すなどのスケジュールが描かれており、それまでは『基盤整備期間』と言える(逆に、一部医療機関しか参加してらず、国民・患者が十分なメリットを享受できるとは言い難い)。運用費用の負担は、メリット(つまり普及状況)にマッチしたものとすべきであり、2030年度までは国が運用費用を負担すべきである」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)、「当初は3文書6情報の共有から始まるが、これだけでは十分ではない。今後も共有情報の拡充をすべきであり、当然、システムの改修などが必要となる。そうした費用は国が負担すべきである」(島弘志委員:日本病院会副会長)、「多くの医療機関等が参加することが電子カルテ情報共有サービスの真価発揮のために重要であるが、中小病院やクリニックでは電子カルテそのものの導入が遅れている。こうした医療機関への導入支援策を充実すべき」(城守国斗委員:日本医師会常任理事)、「電子カルテ情報共有サービスによるメリットが想定されている(下表)が、あくまで想定であり、当面はそのメリット・効果は不明確である。そうした中で運用費用を国民・患者に求めても納得を得られない」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)などの意見が出されています。また自治体サイドからは「費用負担の詳細・目安(誰が、どの程度となるのかなど)を国が早急に明示するとともに、自治体負担が過重にならないように配慮してほしい。自治体への財政支援も重要である」旨の指摘がなされています。
他方、(4)の導入努力義務病院について、城守委員は「地域医療支援病院や特定機能病院での導入努力義務は理解できる。しかし『その他救急・災害時における医療提供を担う病院』とは、主に地域の救急医療を守る、中小の2次救急病院が想起される。中小病院に『努力義務』とはいえ、導入義務を求めることは現実的ではない。例えば、中小の2次救急病院は『情報の受け手』となるケースが多いであろうから、『閲覧に努める』(努力義務)とすることなどを検討すべき」と進言しています。
城守委員の発言には頷ける部分もありますが、電子カルテ情報共有サービスの「起点」は「より多くの医療機関が、より多くの患者のカルテ情報を登録する」ところにあります。この起点を考慮すると、「より多くの医療機関で、電子カルテ情報共有サービス導入が進み、より多くの患者のカルテ情報登録を促していく」ことが重要となり、「閲覧の努力義務」では不十分ではないと指摘する識者も少なくありません。「十分な導入支援策」と「導入の努力義務」とをセットで考えていくことが重要かもしれません。
また、(1)では「情報の登録には患者同意を不要とするが、情報の閲覧には患者同意を必要とする」仕組みが提案されていますが、村上委員は「情報登録そのものを厭う患者もいるのではないか」と指摘。この点について西川企画官は「来年(2025年)1月から全国10か所程度でモデル事業をスタートする。その中で『情報登録そのものを厭う患者』がどの程度おられるのかなどを把握し、必要な検討を進めていく」考えも示しています。
今後、医療保険部会や社会保障審議会・医療部会などでさらに議論を進め、「医療DX推進関連法案」のベースについて、年内(2024年内)の意見とりまとめを目指します。
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