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2025年1月から無床診療上向けの標準型電子カルテのモデル事業を実施、既存電子カルテの標準化改修も支援—社保審・医療部会(1)

2024.7.16.(火)

電子カルテ情報を全国の医療機関・患者間で共有する仕組みの準備が進められている(2025年度中の本格運用を目指す)。このため、各医療機関において「既存電子カルテの標準化対応に向けた改修」や「標準型電子カルテの導入」を進める必要があり、国も改修費の補助などを行う—。

また来年(2025年)1月からは無床診療所向けの「標準型電子カルテα版」モデル事業をスタートする—。

7月12日に開催された社会保障審議会・医療部会で、こうした議論が行われました。なお、同日は「新興感染症対策」の進捗状況(都道府県・医療機関等間の協定など)報告も行われており、別稿で報じます。

7月12日に開催された「第109回 社会保障審議会 医療部会」

電子カルテ情報共有のためには「標準化された情報の授受」が可能な電子カルテ導入が必要

診療情報(レセプト情報や電子カルテ情報、処方箋情報など)を集積し、患者自身はもちろん、全国の医療機関で共有・閲覧可能とする(医療DX)ことで、例えば「この患者にはAという薬が処方されている。今、Bという薬を処方しようと思ったが、併用に注意点があるので、別のB1という薬に変更しよう」、「この患者にXという検査を行おうと思ったが、すでに先週、別の医療機関でXを包含する検査を行っているようだ。その検査結果を活用しよう」、「私は●●の検査結果が改善していない、かかりつけの医師の指示をもとに生活習慣を改善しよう」といった具合に質の高い効果的・効率的な医療提供が可能になると期待されます。また、今般の能登半島地震では、こうした過去の診療情報を活かし「患者にどのような治療が行われ、どのような薬が処方されているのか」を把握し、適切な医療提供が可能となったとの実績もあがっています。

政府は、こうした医療DXの動きを加速化するために、昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。

医療DX工程表の全体像



厚労省もこの工程表に則り、▼電子カルテ情報共有サービスの実現▼標準型電子カルテの普及▼医療・介護情報の2次利用推進—などの取り組みを進めていることが厚生労働省大臣官房の西川宜宏企画官(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室、医政局、健康・生活衛生局感染症対策部併任)から報告されました。

このうち、電子カルテ情報共有サービスは各医療機関・患者が電子カルテ情報(健康診断結果報告書、診療情報提供書、退院時サマリーの3文書、傷病名、薬剤アレルギー等、その他アレルギー等、感染症、検査(救急、生活習慣病)、処方(文書抽出のみ)の6情報)を共有・閲覧可能とする仕組みです。

昨年(2023年)3月9日の健康・医療・介護情報利活用検討会「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」で大枠が固められ、▼2023年度から社会保険診療報酬支払基金でシステム構築を行う▼2025年1月以降に全国9か所程度の地域でモデル事業を開始する▼2025年度中に全国展開・本格運用を目指す—というスケジュールに沿って準備が進められています。

電子カルテ情報共有サービスの概要(医療情報利活用ワーキング(1)1 240610)

電子カルテ情報共有サービス運用までのロードマップ(医療等情報利活用ワーキング12 240124)



ところで、電子カルテ情報を共有するためには「情報の標準化」が必要不可欠です。このため、電子カルテをすでに導入している医療機関では「標準化情報の授受を可能とするよう改修」が、未導入医療機関では「標準型電子カルテの新規導入」を進める必要があります。

後者の標準型電子カルテについては、まず「無床診療所向けの標準型電子カルテα版」の開発がデジタル庁で進められています。来年(2025年)1月から一部のクリニックにおいてモデル事業を開始。そこで得られた知見をもとにα版改修等を行い、より多くのクリニックへの普及が図られます(安価な導入が可能となるように検討される)。ただし後述のように「導入支援策」が十分に整備されておらず、どういった支援を行っていくかが今後の課題の1つとなります。

診療上向けの標準型電子カルテα版のスケジュール(社保審・医療部会(1)1 240712)



また、既に電子カルテを導入している医療機関では、自院の電子カルテについて上記6情報を標準規格(HL7FHIR)で授受できるように改修する必要があります。一般的に電子カルテシステムは5-7年ごとにシステム改修が行われることから、そのタイミングに合わせてひ標準化対応の改修も行えるよう、厚労省は改修費補助のための予算も準備しています(すでに本年(2024年)3月から申請受付がスタート、関連記事はこちら)。
【健診実施医療機関の場合(健診部門システム導入済医療機関)】
▼200床以上病院→657万9000円を上限に補助(事業額1315万8000円を上限に、その2分の1を補助する)
▼200床未満病院→545万7000円を上限に補助(事業額1091万3000円を上限に、その2分の1を補助する)

【健診未実施医療機関の場合(健診部門システム未導入医療機関)】
▼200床以上病院→508万1000円を上限に補助(事業額1016万2000円を上限に、その2分の1を補助する)
▼200床未満病院→408万5000円を上限に補助(事業額817万円を上限に、その2分の1を補助する)

病院に対する電子カルテ改修補助(医療情報等利活用ワーキング(1)3 240610)



ただし、地域医療の基幹的な役割を果たす400床以上の大病院における電カルテシステムの改修スケジュールを眺めると「250病院程度は2028年度以降に改修時期が来る」ようです。このため、こうした病院に対し「標準化対応をどう促していくか」が大きな課題となります。

大規模病院の電子カルテ改修スケジュール(社保審・医療部会(1)3 240712)



また、電子カルテ未導入である病院やクリニックには「標準型電子カルテを導入してもらう」こととなりますが、その導入費補助は現行制度にはしっかりと組み込まれていません(下表の空欄)。この支援策をどう考えるかを、今後、厚労省や関係審議会等で詰めていくこともも大きな課題となります。

標準型電子カルテ導入支援策について(社保審・医療部会(1)4 240712)

電子カルテ標準化スケジュール(社保審・医療部会(1)2 240712)



こうした点について医療部会では、▼電子カルテ情報共有サービスの改修費補助が不十分ではないか(泉並木委員:日本病院会副会長)▼電子カルテ情報共有サービスが十分に効果を発揮するためには、できるだけ多くの医療機関が参加することが重要である。しかし同じ医療DXを目指す電子処方箋に見ても進捗は芳しくない。医療DX工程表では標準的電子カルテが全国の医療機関に導入されるのは2030年頃とされており、それまでは基盤整備期間であり、コスト負担論議などを行える段階にはない。国が責任をもって医療DXを着実に進めるべき(河本滋史委員:健康保険組合連合会専務理事)▼2018年7月の医療部会で「電子カルテ標準化」が議論されてから既に6年が経過している。今後も同じことが繰り返され、標準化が十分に進まないのではないかと危惧しており、国がきちんと予算確保などを行い、着実に標準化を進める必要がある(島崎謙治委員:国際医療福祉大学大学院教授)▼電子カルテ導入・改修費用は数年前に比べても大きく値上がりしている。莫大な金額をかけて、どの程度のメリットが出るのかなども明確化してほしい(加納繁照委員:日本医療法人協会会長)—などの意見・要望が出されました。

また、関連して▼各種コードの標準化、病院独自コード→国の標準化コードへの対応なども早急に進めなければならない(楠岡英雄委員:国立病院機構名誉理事長)▼医療DXは「効率的・効果的な医療提供体制の実現」を目指すもので、決して「医療費適正化」のためにあるものでないことを明確化すべき(角田徹委員:日本医師会副会長)▼用語が一般国民には難しい、電子カルテ情報共有サービスで患者自身も情報閲覧をするのであるから、分かりやすい用語への変換や解説などの工夫を行ってほしい(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)—などの声も出ています。

こうした声も参考にしながら、国を挙げて医療DX推進が進められます。



なお、同日は「新興感染症対策」の進捗状況(都道府県・医療機関等間の協定など)報告も行われており、別稿で報じます。



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