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GemMed塾 看護モニタリング

公的データベースの仮名化情報利活用に向け議論を整理、今後「仮名化情報提供に向けた法制度」などの詳細を詰めていく—医療等情報2次利用WG

2024.4.18.(木)

医療・介護等の公的データベース(NDBや介護DBなど)の情報を、より生データに近い形で「本人特定を不可能」とし(仮名化)、それらを連結解析することで、「新たな治療法の開発」や「効果的な疾病対策」につなげられると期待される—。

4月17日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」(以下、2次利用ワーキング)で、こうした「公的データベースからの仮名化情報提供」などに関する「議論の整理」が行われました。構成員からは、追加・修正を求める声も一部出ており、森田朗主査(東京大学名誉教授)を中心に最終調整を行います。

今後、来年(2025年)の通常国会への関連法案提出を目指し、2次利用ワーキングの下部組織である技術作業班や、各データベースの根拠法を所掌する審議会(例えばNDBについては社会保障審議会・医療保険部会、介護DBについては社会保障審議会・介護保険部会など)などで「制度改革」論議を進められます。

「仮名加工情報」を提供するための法制度整備、情報連携・共有の基盤を構築

政府の医療DX推進本部が昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。

その際、「医療機関間で患者情報を共有し、過去の診療情報を現在の患者の診療に活かす」という1次利用に加え、「データを集積・解析し、新たな治療法の開発や医療政策などに活かす」という2次利用も念頭に置かれています。

2次利用ワーキングでは、▼NDBや介護DBなどの「公的データベース」のデータを第三者(研究者等)に提供するにあたり、より利活用しやすい「仮名化情報」での提供を可能とするための制度整備・法整備を行ってはどうか▼公的データベースの2次利用等を行うにあたっての共通した「情報連携基盤」を構築してはどうか—といった議論を続けてきました(関連記事はこちらこちらこちらこちら)。



4月17日の会合では、これまでの検討結果を踏まえた、次のような「議論の整理案」が厚生労働省大臣官房の西川宜宏企画官(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室、医政局、健康・生活衛生局感染症対策部併任)から提示されました。

●議論の整理案はこちら(今後、構成員の声を踏まえて修正される可能性大)

【仮名化情報利活用のメリット例】
▽同一対象群に関する追加データの取得・解析が可能となる
▽特異な値や記述の削除・改変が不要となる(匿名化情報と比較してデータの正確性・信頼性が高まるため、必要なデータを効率的に収集し、解析結果の質やシミュレーション精度が向上すると期待される。特に、特異性の解析を不可欠とする希少疾患等の少数固有の状態に関する解析をより正確に行えるようになる)
▽他の仮名化情報との連結解析が可能となる

【仮名化情報利活用のユースケース例】
▽医薬品・医療機器等の有効性・安全性評価の充実(レセプトやDPCデータの処方情報と、患者毎の退院・転院後の長期臨床情報等を組み合わせ、薬剤が処方された患者の長期フォローアップが可能となる)
▽臨床像の解明や創薬開発の推進
▽感染症危機等への対応
▽医療、介護・障害福祉サービスの質の評価

【医療等情報の2次利用に向けた基本的な考え方】
▽医療等情報は貴重な社会資源であり、研究者や企業等が質の高い医療等情報を効率的・効果的に利活用できるよう「法制面の整備」「公的データベース(以下、公的DB)等のデータを一元的かつ簡便に利用可能とする情報連携基盤の構築などの利用環境の整備」を行うことが重要である
▽公的DBで仮名化情報の利用・提供を行う場合にも、個人情報保護法等の考え方を踏まえつつ、本人のプライバシーを含む権利利益の適切な保護が図られるようにする必要がある
▽情報利活用に関する医療現場や国民・患者の不安・不信が払拭されるよう、「本人の権利利益の適切な保護を図るための措置」を設けて、丁寧に説明する必要がある
▽国がガバナンス体制を構築した上で、研究者や企業等が公正・適切に医療等情報を利活用するため、行政と業界相互の努力・取り組みを進めることが重要である

【医療等情報の2次利用推進の方向性】
▽公的DBの仮名化情報の利用・提供は、「相当の公益性がある場合」に可能とし、医療分野の研究開発などについては幅広く公益性を認めるべき

▽個人情報保護法の規定との関係性を整理した上で「本人同意を改めて取ることを前提とせずに仮名化情報の提供を行う」方向で検討を進める(多くの公的DBで本人同意取得を行っていないこと、公的DBの悉皆性を考慮)
→実効的に本人の権利利益を保護する観点から、「目的や内容、安全管理措置等について適切に審査を行う」「データそのものの提供は行わないVisiting 解析環境(クラウド)の活用」「利用者(研究者)への監視・監督」などにより対応すべきとの意見があった

▽個人の権利利益を保護するための適切な保護措置(照合等の禁止、必要がなくなった場合のデータ消去義務や、データの漏えい等を防ぐための安全管理措置、目的外の不正利用に対する罰則など)を設ける

▽現在の安全管理措置等に加え、国民の視点を含めた様々な専門家で構成され、質の担保された「審査」を行う体制を整備し、Visiting解析環境での利用を基本とする
→監視・監督を担う機関について、個人情報保護委員会との関係性等を整理する

▽医療現場や患者・国民の理解を促進するため、医療等情報利活用の目的・メリット、成果等について、様々な情報発信等を行う

▽「仮名化情報の連結」により、精緻かつ幅広い情報解析が可能となるなどのメリットが期待されるが、個人特定のリスクも懸念され、提供するデータの内容や提供方法を適切に審査する

▽業界での公正かつ適切な利用を進めるためにガイドライン作成や関係者間での議論の場を構築するとともに、国のガバナンス体制もしっかり構築する

【医療等情報の2次利用のための情報連携基盤構築の方向性】
▽利活用者(研究者等)が円滑に医療等情報を利用できるよう、「公的DB等にリモートアクセスし、一元的かつ安全に利用・解析できるVisiting環境(クラウド)の情報連携基盤」を構築する

▽公的DB「以外」を情報連携基盤上で取り扱えるようにするかどうかについては、「保有主体」「データの量・質」「適切な組織的、物理的、技術的、人的安全管理措置」「連結に用いる識別子」などの観点に関して、ユーザーニーズを踏まえて検討する

▽「仮名化情報についてはVisiting解析環境での利用」を基本とし、利活用者の利便性も考慮して解析環境等の整備を行う
→仮名化情報自体を受け渡し可能とするかどうかについて、必要性や要件を引き続き検討する

▽医療等情報の2次利用に関する審査は、「利用目的の公益性や安全管理措置等を客観的に判断し、適切かつ円滑に行われる」必要があり、次のような仕組みとする
・公的DBの利用申請の受付窓口・審査体制を一元化し、審査手順・内容の統一化が望ましい
・審査体制については、審査の質や中立性が十分に担保されるものとし、各公的DBの特性を十分に理解している専門家の意見も取り入れられる仕組みとする
・審査体制は「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」で規定されている倫理審査委員会の要件を満たすものとし、同指針に基づき倫理的・科学的観点から、研究機関・研究者等の利益相反に関する情報も含めて審査する(各研究機関等における倫理審査委員会の審査は必ずしも求めない)
・利活用者が情報連携基盤上に持ち込む解析ソフトウェアや利活用者が公表する分析の成果物についても、そのリスクや必要性に応じて審査を行う
・今後、各公的DBの仮名化情報の利活用に関する審査基準を含むガイドラインを策定する

▽情報セキュリティについては、情報連携基盤の「管理者側」において厳格な安全管理措置を設け、利活用者に対しては、利便性も考慮して、必要十分な安全管理措置を設けることとし、利活用者が遵守すべき要件等を分かりやすく周知する
→具体的な安全管理措置については「利活用者の認証」「ログの保存・監視・活用」「情報の暗号化」などを念頭に引き続き検討する

▽利用できるデータを一覧的に可視化するなど分かりやすく情報発信を行う
→オープンソースデータを簡易に集計・分析するためのダッシュボード機能を設ける

【電子カルテ情報とも組み合わせた医療等情報2次利用の方向性】
▽電子カルテ情報共有サービスで共有される臨床情報について「2利用を可能とする」方向で検討する
→利用目的に応じて、他のデータベースとの「連結解析を可能とする」方向で検討する

【今後の検討】
▽公的DBで仮名化情報を利用・提供するための法整備について「関連する各審議会等の場」で検討するとともに、データの標準化・信頼性確保、情報連携基盤に係るクラウド活用やAPI連携の整備方法等技術的論点について技術作業班で検討を進めていく

▽これらの検討結果を踏まえ、法整備や情報連携基盤の構築、データの標準化・信頼性確保の取組等をスピード感を持ちつつ、計画的に進めていく



また西川企画官は「上記検討を進める」ことと並行して、「医療情報等の利活用推進に向けた必要な予算を2025年度予算案編成過程の中で確保する」「来年(2025年)の通常国会に必要な法案提出を行う」考えも提示しました。



こうした議論の整理案・スケジュールに異論・反論は出ていません。ただし、▼現在の個人情報保護法における「同意至上主義」を脱却するため、医療等情報については同意不要で利活用できる特別法などを検討すべき(中島直樹構成員:九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター教授、日置巴美構成員:三浦法律事務所パートナーほか)▼医療現場や患者・国民が混乱しないような法制度等を進めるべき(長島公之構成員:日本医師会常任理事)▼電子カルテ情報共有サービスについて「2次利用」を念頭においた「1次利用システム」を構築していくべき。また人材育成の仕組み構築も考える必要がある(山口光峰構成員:医薬品医療機器総合機構(PMDA)医療情報科学部長)▼患者が「自身の診療データが医療の発展に貢献している」と感じられる環境整備が重要であり、それが信頼につながる、結果、公的データベースの充実にもつながる(井元清哉構成員:東京大学医科学研究所副所長)▼公的DBの利活用戦略について、だれが司令塔となるのかなどを明確化していく必要がある(葛西重雄参考人:厚労省参与、落合孝文構成員:渥美坂井法律事務所・外国法共同事業プロトタイプ政策研究所所長・シニアパートナー弁護士ほか)などの意見・提案がだされました。今後、森田主査を中心に修文・最終調整が行われます。

また、森田主査自身も、今後の法整備・情報連携基盤構築に向けて、▼「将来の医療等情報利活用」に照らし、今回の議論の整理はどの部分に位置付けられるのかを明確にすべき▼EUでは、医療情報等の1次利用・2次利用のそれぞれについてプラットフォームが体系的に整備されているが、わが国ではそうなっていない。そのため「1次利用」のために入力したデータを、「2次利用」のために再入力しなければならないことも懸念されている。そうした点も今後の検討において踏まえるべき—などの見解を示しています。

なお、葛西参考人からは「AI(人工知能)と医療等情報の利活用との関係について整理するべき」との指摘がなされました。今後を考えるうえで極めて重要な論点ですが、厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)は「2次利用だけでなく、医療分野全体の中で『AIの利活用をどう考えていくのか、どうコントロールしていくのか』などを幅広く議論する必要がある。その議論の場については、まだ決まっていない」との考えを示しています。AI技術の進展はめまぐるしく、現時点で「一般的な規制」などを考えることは困難であり、今後、様々な角度から「医療分野におけるAI利活用」を検討していくことになります。



今後は、この「議論の整理」(今後、森田主査を中心に最終調整して確定される)をベースに、法制度面や情報連携基盤構築に向けた詳細を詰めていく必要があります。こうした詰めの議論は、▼各公的DBの根拠法を所掌する関係審議会((例えばNDBについては社会保障審議会・医療保険部会、介護DBについては社会保障審議会・介護保険部会など)▼2次利用ワーキングの下部組織である技術作業班—で行われます。来年(2025年)の通常国会を目指して、詰めの議論が進められます(適宜、2次利用ワーキングに情報連携が行われる見込み)。

あわせて情報連携基盤構築などにはコスト(開発コスト、運用コスト)もかかるため、西川企画官は「2025年度に向けて必要な予算の確保」にも努めていく考えを強調しています。



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