公的データベースの仮名化情報の連結・解析で、新たな治療法開発や、より効果的な疾病対策につなげられると期待—医療等情報2次利用WG
2024.2.16.(金)
医療・介護等の公的データベース(NDBや介護DBなど)の情報を、より生データに近い形で「本人特定を不可能」とし(仮名化)、それらを連結解析することで、「新たな治療法の開発」や「効果的な疾病対策」につなげられると期待される—。
今後、法制度整備などに向けて検討を深めていくが、最も重要になるのは「患者・国民の理解」である—。
2月15日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」(以下、2次利用ワーキング)で、こうした「基本的な考え方」や「論点」が固められました。今後、個別論点ごとに具体的な方向を探る議論を深めていきます。
「仮名加工情報」を提供するための法制度整備、情報連携・共有の基盤をワーキングで議論
その際、「医療機関間で患者情報を共有し、過去の診療情報を現在の患者の診療に活かす」といった1次利用に加え、「データを集積・解析し、新たな治療法の開発や医療政策などに活かす」といった2次利用も念頭に置かれており、2次利用ワーキングが設置されました(関連記事はこちら)。
具体的には、▼NDBや介護DBなどの「公的データベース」のデータを第三者(研究者等)に提供するにあたり、より研究に資する形である「仮名化情報」での提供を可能としてはどうか▼公的データベースの2次利用等を行うにあたっての共通した「情報連携基盤」を構築してはどうか—といった議論が2次利用ワーキングで進められています(関連記事はこちらとこちら)。
1月11日の前回会合で「医療等情報の2次利用に向けた基本的考え方」や「今後の法整備や個人情報保護などに関する論点」の案が厚生労働省から提示され、今般、その方向が概ね固められました。
まず、「医療等情報の2次利用に向けた基本的考え方」については、次のような整理が行われています。
(1)2次利活用促進のための法制面・利用環境の整備
▽医療等情報の活用により治療法開発や創薬・医療機器開発等といった医学発展に寄与することが可能であり、医療等情報は貴重な社会資源である
▽そのため、研究者や企業等が質の高い医療等情報を効率的・効果的に利活用できるよう「法制面の整備」、公的データベースなどのデータを「一元的かつ簡便に利用可能とする情報連携基盤の構築」などを行うことが重要である
(2)本人の適切な保護
▽医療等情報は機微性の高い情報であり、公的データベースで「仮名化情報の利用・提供を行う」場合にも、個人情報保護法等の考え方を踏まえつつ本人のプライバシーを含む権利利益の適切な保護の必要がある
▽その際、「本人の適切な関与の機会」の確保とともに、「公的データベースがもつ医療等情報の悉皆性」などの公益性の観点も踏まえ、各制度の趣旨やユースケースに沿った保護措置を考える必要がある
(3)医療現場や国民・患者の理解促進、2次利活用の成果・メリットの情報発信
▽医療現場や国民・患者の不安・不信が払拭されるよう、本人の権利利益の適切な保護を図るための措置を設け、丁寧に説明する必要がある
▽その上で、2次利活用による研究成果・メリット等について国民・患者に対し分かりやすく情報発信・説明していくことが重要である
(4)公正かつ適正な利活用に関する努力
▽国がガバナンス体制を構築した上で、研究者や企業等が公正かつ適切に医療等情報を利活用するため、行政と業界相互の努力や取り組みを進めることが重要である
端的に「公的データベースからの仮名化情報提供を進める」「公的データベースの2次利用に向けた情報連携基盤の構築を進める」という考え方が整理されていると言えます。
こうした基本的な考えに基づいて、「医療情報等の2次利用を行うための法令整備」を進めていきますが、検討に当たっての論点として次のような項目が固められました。
▽公的データベースの仮名化情報提供等を行う場合に、「利用できる場面」「利用目的」などをどう考えるか
→現在の匿名化情報提供等では「相当の公益性がある場合」に利用を認めており、仮名化情報でも同じように考えるべきではないか
▽公的データベースの第三者提供にあたって、個人情報保護法との関係を整理した上で、「本人の同意取得を前提とせず、仮名化情報を第三者に提供する」ことをどう考えるか
▽「より機微性が高まる仮名化情報を扱うこと」、「公的データベースのデータには悉皆性が重要であること」、「利用者(研究者等)の迅速かつ簡便な利用を促すこと」などを踏まえて、個人情報の保護措置をどのように設けることが適切か
→例えば、仮名化情報についてはデータそのものを提供せず、Visiting環境での利用を原則とする、適正な利用を担保するために審査体制を一元化することなどをどう考えるか
▽医療現場・患者・国民の理解や利活用の促進のために同様な対応が考えられるか
▽仮名化情報の連結(一定のメリットが見込まれるが、本人特定のリスクも高まる)をどう考えるか
▽研究者や企業等が公正かつ適切に利活用できる環境をどう整備するか
さらに、新たに構築する「情報連携基盤」に関しては、次のような論点を今後詰めていく方向が固められました。
▽取り扱う情報の範囲をどう考えるか
→公的データベースのみならず、一定の要件を満たす民間データベースも情報連携基盤上で解析可能とすることをどう考えるか
▽情報連携基盤において必要となる要件をどう考えるか
▼Visiting環境の整備
▼一元的な利用申請の受付・審査体制
▼情報セキュリティ
▽その他
→「どのような情報が利用可能なのか」を分かりやすくするため、公的データベースで利用可能な情報の一覧を公表することをどう考えるか
→公的データベースの格納情報について、利用者(研究者等)における簡易なデータ集計や分析に資するよう、オープンソースデータを可視化できる機能を備え、公開することをどう考えるか
今後、各論点・項目について深掘りの議論を進めていきますが、例えば現在の公的データベース分析について次のようなメリットと現状の限界が紹介され、今後「より有益な分析を行うために、データベースの連結解析を進めることが重要ではないか」といった意見が森田朗主査(東京大学名誉教授)らから示されました。例えば「レセプト情報」(NDBから抽出)や「臨床情報」(検査情報)、「患者の背景情報」(家族歴や収入、生活状況など)とを紐づけることで、「より効果的な疾病対策」につなげられるのではないか、と期待されます。
また、その際、「公的データベース同士の連結解析」と「公的データベースと民間データベースとの連結解析」とで分けて考える必要があると松田晋哉構成員(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)や清水央子構成員(東京大学情報基盤センター客員研究員)らは指摘。松田構成員は(1)まず「公的データベース同士の連結解析」を進めて、「何ができるのか」を明確化する(2)第2段階として「公的データベースと民間データベースとの連結解析」を検討していく—というステップを踏むべきと進言しています。また清水構成員は「後者(公的DB×民間DB)にはマスタ整備などの技術的な課題もある」ことを指摘しており、やはり「順を追って、段階的に進める」ことが現実的と考えられそうです。
ところで、こうした2次利用においては「国民、患者の理解」が極めて重要となります。上述のように公的データベースでは「悉皆性」が極めて重要であるため、1人1人の患者・国民が「私のデータは使わないでほしい」と申し立てられる仕組みを導入することは非現実的です(技術的にも難しい)。このため、患者・国民に「公的データベースとはどういったもので、このデータを活用すると、患者・国民にどういったメリットがあるのか(例えば優れた新薬の開発につながるなど)。また情報の利活用にあたって個人の特定はなされないようにしてある、情報漏洩が生じないような対策をとっている」などの点を分かりやすく丁寧に説明し、「そうであるなら安心だ。私たちのデータを使って医療の質向上に努めてください」と納得してもらうことが重要になります。「納得」なしに、「君たちのデータは使わせてもらう。異議申し立てはできない」と言い放てば、患者・国民の理解・協力は得られないからです。
山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)は、こうした点を改めて強調。また長島公之構成員(日本医師会常任理事)も、「どのデータベースとどのデータベースを連結すれば、どういった成果が得られるのかなどを、事例を示して説明することが重要である」と、同旨の関係を示しています。こうした点に十分に配慮せず、技術的な議論ばかりを先行させることは非常に危険であることをしっかり認識する必要があります。
将来を考えれば
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