医療等情報を解析し「新たな治療法の開発」等につなげる2次利用、患者保護と利便性のバランスをどう図って進めるか—医療等情報2次利用WG
2023.11.15.(水)
医療・介護情報について「過去の診療情報を、現在の診療に活かす」といった1次利用をもちろんのこと、集積・解析を行い「新たな治療法の開発」や「医療政策研究への応用」などの2次利用への期待も高まっている—。
この2次利用を、「患者情報の保護」と「研究者等の利活用のしやすさ」とのバランスをどう図りながら推進していくべきか—。
こうした議論が11月13日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報の二次利用に関するワーキンググループ」(以下、2次利用ワーキング)で始まりました。当面、期限を切らずに議論を継続していきます。
研究者のためには「仮名加工情報」が重要だが、現在の公的DBは「匿名加工情報」
こうした情報の利活用は、例えば「医療機関間での情報共有し、過去の診療情報を現在の診療に活かす」といった1次利用のほか、「データを集積・解析し、新たな治療法の開発や医療政策に活かす」といった2次利用も念頭に置いています。
ただし、2次利用にあたっては「患者保護と利活用推進とのバランスをどう考えるか」といった大きな課題があることから、今般、医療DX工程表の指示も踏まえて2次利用ワーキングが設置され、次のような点を検討していくことになりました。
(1)医療分野の貴重な社会資源である公的データベース(NDB、介護DBなど)についての「仮名化情報の保護と利活用を図るための法制度」のあり方をどう考えるか
▼医療現場の理解と協力の促進、本人・国民の理解促進に向けた取り組み
▼各データベース間の患者の特定(紐づけ)
▼本人の適切な関与
▼安全管理措置
▼医療等情報の提供に係る審査体制
(2)情報連携基盤の整備の方向性
▼取り扱う情報の範囲
▼必要となる要件の骨格(visiting環境の整備、一元的な利用申請の受付・審査体制のあり方、求められる情報セキュリティなど)
当面、期限を設けずにこうした諸課題について議論していきます。キックオフとなった11月13日には、厚生労働省大臣官房の西川宜宏企画官(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室、医政局、健康・生活衛生局感染症対策部併任)から「議論のターゲットは、公的データベースに絞らず、民間のデータベース(例えば学会保有のデータベースやレジストリなど)も対象になる」ことが明らかにされました。例えば公的データベースと民間データベースを連結・解析することが可能となれば、「より質の高い研究成果」が生まれてくる可能性もあります。
ただし、山本隆一構成員(医療情報システム開発センター理事長)は「学会によってデータベース・レジストリの管理体制はまちまちである。どういった要件を満たす民間データベースを検討対象にするのかも考えていく必要がある」と提案しています。
ところで、次世代医療基盤法では「健診結果やカルテなどの個人の医療情報を匿名加工し、医療分野の研究開発での活用を促進する」ために制定されました。「一定の要件を満たした認定事業者が契約医療機関等から入手した医療情報(カルテなど)を匿名加工し、大学や製薬企業などに提供して、研究に役立ててもらう」というイメージです。このデータは上述の「民間のデータベース」に該当します。
この次世代医療基盤法については、本年(2023年)に改正が行われ▼従前の「匿名加工医療情報の作成・提供」に加え、新たに「仮名加工医療情報」を作成し利用に供する仕組みを創設する▼仮名加工医療情報の利活用者についても国が認定する(認定者以外は利用できない)—などの見直しが行われました(来年(2024年)5月までに施行)。
匿名加工情報ではレコード削除、データ値の変更、疑似データ追加などが行われ、当該情報を利活用した研究が行いにくい(例えば、実際には「効果がない」ものが「効果あり」との結果を示す(逆もしかり)可能性などが指摘される)ことから、より研究に利活用しやすい「加盟加工情報」が設けられました。しかし、「患者の特定がしやすくなる」危険性もあるため、情報提供者だけでなく、情報利用者も「国が認定する」ことになったものと言えます。
一方、NDBなど公的データベースは「匿名加工」されています。このため、上記と同様に「研究に利活用しにくい」との指摘があます。今後、公的データベースの利活用推進にあたり、「仮名加工情報による第三者提供を可能とするか、その際の要件をどう考えるか」などの議論も行われる見込みです。
また、公的データベースからの第3者データ提供(研究者などへのデータ提供)に当たり、「審査基準や審査方法、体制等を一元化すべきではないか」との指摘もなされました。例えばNDB(医療保険のレセ情報等を格納)、介護DB(介護保険のレセ情報や要介護認定、ケアの内容等の情報を格納)、難病DB(指定難病患者の臨床調査個人票等の情報を格納)、小児慢性特定疾患DB(小児慢性特定疾患時の診療情報を格納)などがあり、それぞれに審査体制が異なれば非効率です。この点について実際に審査にも携わる山本構成員は「審査体制の統一化などは重要だが、超希少症例の取り扱いなどについて各データベースに特殊のリスクがあり、専門家の判断も必要である」との点を指摘しています。
一方、長島公之委員(日本医師会常任理事)は「医療情報の2次利用には、患者はもちろん、医療現場の理解も必要である。医療機関が2次利用に心配・懸念を持てばデータ提出そのものがストップしてしまいかねない。目的外利用や情報漏洩への対策などを丁寧に説明し、現場の理解を得ることが極めて重要である」と指摘しています。
この点については、清水央子構成員(東京大学情報基盤センター客員研究員)から「例えば個人情報漏洩の議論では、『悪意を持った人間による情報持ちだし』などに引きずられた議論がなされがちであるが、情報を利活用する研究者にはそうした思いはない点を十分に理解する必要がある」との、山本構成員から「研究者がコントロールできないところに情報が行ってしまわないような配慮が重要である」との、プレゼンテーションを行った日本製薬工業協会から「研究者は、個々の患者の情報には興味がない。患者の氏名・住所・連絡先の情報を入手するメリットがない」との考えが強調されています。
「セキュリティの確保」と「情報利活用のしやすさ」とのバランスを十分の考える必要があるでしょう(匿名加工情報では「セキュリティ確保」に重きを置きすぎ、利活用しにくいと指摘され、新たに仮名加工情報が創設された)。
このほか、▼患者を時系列で追う際やデータベースの連携を行う際など、紐づけが完全でなければ意味がない。マイナンバーを活用した「医療ID」を創設し、完全な紐づけができる環境を整えていくべき(中島直樹構成員:九州大学病院メディカル・インフォメーションセンター教授)▼あるデータベースと別のデータベースを連結する際、同じ医薬品について「別のもの」と扱われるケースも少なくない。そうした不都合を解消できる標準マスタの整備なども検討していくべき(清水構成員)▼情報を利活用する研究者サイドの負担軽減(セキュリティ確保の柔軟性を認めるなど)や利便性確保(個人の解析ソフト使用をどこまで認めるかなど)を進める必要がある(山口光峰構成員:医薬品医療機器総合機構医療情報科学部長、山本委員)▼情報のもととなる一般国民への丁寧で分かりやすい説明と理解促進を進めるべき(山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)—などの声が出ています。
こうした意見も踏まえながら、論点をブラッシュアップし、今後、議論を進めていくことになるでしょう。
なお、11月13日の2次利用ワーキングでは、日本製薬公表協会からプレゼンテーションが行われ、例えば▼米国FDAが、リアルワールドデータを評価して、治験を伴わない「希少がん治療薬」を承認するなど、医療データの利活用が極めて重要になってきている▼匿名加工情報では研究に利用しにくく、少なくとも加盟加工情報でのデータ提供に期待が集まっている(ただし改正次世代医療基盤法にもまだ課題がある)▼日本版EHDS(European Health Data Space)の創設が期待される—などといった点が提案されました。
EHDSは、EU域内で「より良い医療提供、より良い研究、イノベーション、政策立案のためにヘルスデータを同意不要で利活用できる」仕組みと言えます。我が国の個人情報保護法では、医療情報の利活用は「同意の取得」が原則必須(救急場面などでは例外的に不要、関連記事はこちら)としています。非常に厳格に「患者の情報を守る」ように見えますが、多くの患者は「どのように利活用されるのか知らない」のが実際であり、また「同意があればどのように利活用してもよい」わけでなく、同意は「万能」ではありません(関連記事はこちらとこちら)。「患者保護のために同意をどう考えるか、同意よりも好ましい仕組みはないのか」なども2次利用ワーキングで議論されていく可能性があります。
こうした製薬協提案には「概ね賛同できる」との意見が構成員から多数だされましたが、た問えば日本版EDHSについては、「EDHSは欧州の風土にマッチした仕組みであるが、そのまま日本に移植してうまく稼働するものではない」(長島構成員)、「日本での導入に当たりどうした点の見直しが必要なのか慎重に見極める必要がある」(山本構成員)等の指摘がなされました。
今後の2次利用ワーキングでも「有識者からのプレゼンテーション」が適宜行われる見込みです。
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