患者に「傷病名、検査、処方」等情報と「医師からの療養上の指導・計画」情報をセット提供する新サービス―医療等情報利活用ワーキング(1)
2023.9.12.(火)
電子カルテ情報共有サービスの構築・稼働に向けた動きが加速化しているが、「患者・国民へのメリット」として、患者へ「傷病名、検査、処方」等情報と「医師からの療養上の指導・計画」情報をセット提供し、患者自身が「医師から『1日●分、●●程度の運動をせよ』と指導されたな」と常に確認できるする新サービスを付加する—。
9月11日に開催された健康・医療・介護情報利活用検討会の「医療等情報利活用ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で、こうした方針が了承されました。今後、細部を詰め、2024年度中の「電子カルテ情報共有サービス」(仮称)稼働を目指します。なお、同日には「救急患者について過去の診療情報を確認する仕組み」の議論も行われており、別稿で報じます。
電子カルテ情報共有等の医療DX、患者・国民のメリットも重視
Gem Medで繰り返し報じているとおり、より質の高い医療をより効率的・効果的に提供するために、医療DXの一環として「全国の医療機関や患者自身が診療情報(レセプト情報・電子カルテ情報など)を共有する仕組み」の構築・運用が進められています。この仕組みには、(A)「レセプト」情報を共有・閲覧可能とする仕組み(B)各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み—の2つがあり、いずれも「オンライン資格確認等システム」のインフラを活用します(関連記事はこちらとこちら)。
(B)の各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み(電子カルテ情報共有サービス:仮称)は、3月9日の健康・医療・介護情報利活用検討会「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」で大枠が固められ、本年度(2023年度)から社会保険診療報酬支払基金でシステム構築し、2024年度から稼働するというスケジュールが示されています(関連記事はこちら(医療DXの推進に関する工程表))。
電子カルテ情報共有サービス(仮称、以下同)は、大きく次の3つのパーツで構成されます。
(1)診療情報提供書や退院時サマリを電子的に紹介先病院の共有・送付する仕組み
(2)全国の医療機関等で患者の電子カルテ情報(6情報)を閲覧できる仕組み
(3)患者本人等が、自身の電子カルテ情報(6情報)を閲覧・活用できる仕組み
厚生労働省は、大枠決定後も「より良いサービス提供」に向けた検討を進めており、9月11日のワーキングに次のような改善提案を行いました。
(a)(3)の患者向けサービスにおいて「療養上の計画・アドバイス」を新情報として付加し、患者自身の利便性をさらに高めてはどうか(患者サマリ)
(b)(1)の共有・送付対象情報に「健康診断結果報告書」も加えてはどうか
(c)処方情報については、基本的に「電子処方箋管理サービス」の中で取り扱うこととしてはどうか
(d)マイナポータルの患者同意画面について、より利便性を高めてはどうか
(e)医療機関システムベンダー向けに技術解説書を作成してはどうか
まず(a)の患者サマリは、6情報(傷病名、アレルギー、感染症、薬剤禁忌、検査、処方)に加えて、例えば「外来診療で、医師からなされる療養上の計画・アドバイス」などを患者が把握・確認できるようにする新サービス案です。
厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)は「医療DXに関して『国民のメリットが見えにくい』と指摘される。単に6情報を羅列するよりも、医師が外来診療などで行う『1日○分、○○程度の運動を行いましょう』『○か月ごとに血液検査を予定しています』『○○の疾患について、診療所Aを受診してください』といった指導・診療計画説明の内容を患者が常に把握・確認できるようにすることで、患者が『そういえば、こんなことを言われたな』と思い出し、健康増進・健康管理により効果的に役立てることが可能になる」と提案理由を説明しています。
自分自身を振り返っても、家族や友人を見回してみても、医療機関受診直後は医師の指導内容を覚えていても、すぐに忘れてしまい、次回受診後に医師から「●●をした方が良いと伝えましたが、実践していますか」と問われ、恥ずかしい思いをすることが少なくありません。この患者サマリをスマートフォンで日々確認し、「先生に●●と指導されていたな、気を付けなければ」と思い起こせることで、患者自身の疾病・健康管理を適切に行うことができるでしょう。自分自身で医師の指導等を実践することはもちろん、要介護者などでは当該情報をケアマネジャーや介護スタッフと共有することで、より効果的な医療・介護サービスを受けることが可能になります。患者にとって非常に有益なサービスの1つと言えるでしょう。
このため、新サービス「患者サマリ」機能を電子カルテ情報共有サービスに追加することに反対意見は出ていません。今後、「追加する情報『療養上の指導・計画』の範囲を具体的にどう考えるのか」「電子カルテのどの部分から情報収集するのか」「どういった形で患者等に情報提供するのか」などの詳細を厚労省で詰め、必要に応じてワーキング等での議論に供することになります。
この点について長島公之構成員(日本医師会常任理事)は「6情報以外の『療養上の指導・計画』をどのように電子カルテから収集するのか、丁寧かつ慎重な検討が必要になる」とコメントしています。
例えば、電子カルテに「療養上の指導・計画」などを十分に記載していない医療機関・医師では、当該情報を新たに入力する必要が出てきそうです。また、医療機関・医師により電子カルテのどの場所に、どのような形で「療養上の指導・計画」などを記載するかは、大きなバラつきがありそうです。このため、「医療サイドはもちろん、電子カルテを作成するシステムベンダーサイドの意見も十分に踏まえて検討する」(例えば、今後構築される標準型電子カルテでは『療養上の指導・計画』などを記載する欄を明確に設けるなど)とともに、医師による電子カルテ入力の標準化に向けた教育なども将来の重要検討テーマとなりそうです。
なお、大規模病院であれば「医師が口頭で説明し、それを医療クラークが電子カルテ等に入力する」という運用も進んでおり、新サービス追加による医師の負担増は大きくなさそうです。しかし、上述の「患者サマリ」イメージを見ると、日常的な外来診療(比較的状態の安定した慢性疾患患者など)における指導・計画の情報を患者に提供することが主眼と思われ、もっぱらの対象は中小病院やクリニックとなりそうです。そうした小規模医療機関ではクラークの活用などは十分に進んでおらず、新サービス追加で医師の負担が増えることも予想されます。
今後、患者サマリ運用等の具体像がどのような形に仕上がっていくのか、その議論や内容に大きな注目が集まります。
処方情報は電子処方箋管理サービスの中で基本的に管理していくことに
また(b)は、医療機関間での文書共有・交換サービスについて、すでに決まっている「診療情報提供書」「退院時サマリ」に加えて、「健康診断結果報告書」も対象に加えるものです。健診結果報告は「健診機関→患者→医療機関」という形での情報共有も可能ですが、より簡便・迅速に、電子的に情報共有を可能とするために、電子カルテ情報共有サービスを活用することが妥当ではないかと厚労省が判断したものです。
対象となる健康診断は「特定健診」「後期高齢者健診」「事業者健診」「人間ドック」など、対象となる実施機関は「医療機関」「医療機関に併設の健診機関」として、今後、具体的な仕組みを検討していきます。
ワーキングでは、「より広範な健診機関を対象としてはどうか。がん検診の結果も対象に加えてはどうか」(田河慶太オブザーバー:健康保険組合連合会理事)、「同じ情報を複数のツールで重複共有することなどは避けるべき」(渡邊大記構成員:日本薬剤師会副会長)、「将来はすべての健診結果に対象を拡大すべき」(内山晃治オブザーバー:全国健康保険協会本部企画部長)、「2024年度中の電子カルテ情報共有サービス稼働に向け、10月にもベンダー入札等を行い、仕様を固めていく必要がある。早期に内容を決定してほしい」(三好圭オブザーバー:社会保険診療報酬支払基金理事長特任補佐(データヘルス担当))などの意見・要望が出ています。
全ての要望を取り入れることはできませんが(電子カルテ情報共有サービスはオンライン資格確認等システムのインフラを活用するため、医療機関等に併設しない健診機関の参加は現時点では困難)、意見・要望を踏まえて具体的な内容を固めていくことになります。田中参事官は「段階的な運用も考えられるのではないか」との考えを示しています。
また(c)は、すでに議論された「処方情報を電子カルテ情報交換サービスと電子処方箋管理サービスのいずれで管理すべきか」という論点です。「電子処方箋で管理すればリアルタイムで情報確認・共有ができるが、電子カルテ情報管理サービスでは一定のタイムラグが生じてしまう」点などが重視され、厚労省は「基本的に電子処方箋管理サービスの中で対応する」考えを示し、了承されました。
もっとも、「電子カルテ情報共有サービスで処方情報を取り扱う目的を整理し、必要であれば電子処方箋管理サービス等から変換して、電子カルテ情報共有サービスの中でも取り扱う」との考えも示しています。
この点について山本隆一構成員(医療情報システム開発センター理事長)は「処方情報は治療・診断と切り離せない部分もあり、本来的には電子カルテ情報共有サービスで管理するのが筋であるが、タイムラグの関係から電子処方箋管理サービスでの管理とすることは理解できる。必要に応じて電子カルテ情報共有サービスの中で処方情報を取り扱うことも今後、十分に検討する必要がある」とコメントしています(「電子処方箋管理サービスでの管理で十分」となれば電子処方箋管理サービスでのみ管理、「電子カルテ情報共有サービスの中での管理も必要」となされば、必要な部分を両サービスで管理するイメージ)。
ところで、医療機関等が電子カルテ情報等を閲覧・共有する際の大前提として、現在は「患者の同意」が必要となります。その際、「個々の情報について1つ1つ患者が同意を行う」のか、あるいは「患者が包括的に同意する仕組み」とするのか、という点が重要論点となります。電子カルテ情報共有サービスでは、多様な情報が取り扱われるためです。
「1つ1つ同意を行う」仕組みとすれば、患者の「この情報は共有してほしいが、この情報は知られたくない」という複雑なニーズに対応できますが、非常に煩雑となり、「すべての情報を共有し、より最適な医療を提供してほしい」という別の患者ニーズへの対応が難しくなります。そこで厚労省は(d)として「各医療機関単位でマイナポータルでの同意権限の入力」や「前回同意情報をもとにした設定」を可能とする考えを提示。今後、より具体的に内容を詰めていくことが了承されました。例えば、患者自身が「A医療機関ではこの情報を共有してもらう、B医療機関ではこの情報は共有されては困るので不可」などという設定を自らが事前に行えるようにするイメージです。
さらに(e)は、こうした電子カルテ情報共有サービスの技術的事項をベンダー向けに解説するものです。電子カルテ情報共有サービスに対応できる「標準的な電子カルテ」の開発がベンダーで進んでいきますが、その際の基本指南書となります(厚労省サイトはこちら)。
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