看護師確保が困難となる中、ICT利活用や看護補助者へのタスク・シフト等による業務負担軽減が必要不可欠―入院・外来医療分科会(2)
2025.6.27.(金)
生産年齢人口が減少する中で看護師確保が困難さを増している。こうした中では、「ICT利活用」や「看護補助者へのタスク・シフト」などによって看護師の業務負担軽減を図る必要があり、診療報酬でどのような対応が考えられるか—。
特定行為研修を修了した看護師に、さらに活躍してもらうために、診療報酬での評価充実などを検討すべきではないか—。
6月26日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)では、こうした議論も行われています(入退院支援に関する記事はこちら)。同日には「病棟における多職種でのケア」「リハビリテーション」「食事療養」の議論も行われており、別稿で報じます。

6月26日に開催された「令和7年度 第2回 入院・外来医療等の調査・評価分科会」
看護師確保が難しくなってきている
Gem Medで報じているとおり、2026年度の次期診療報酬に向け、入院・外来医療分科会において入院医療・外来医療に関する「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」が進められています。
(これまでの議論に関する記事)
・急性期入院医療
・DPC
・高度急性期入院医療
・地域包括医療病棟
・回復期リハビリ病棟
・療養病棟
・いわゆる包括期入院医療全体
・その他、入院・外来全般
・データ提出を評価する加算
・生活習慣病管理料など
・機能強化加算・地域包括診療料など
・オンライン診療
・入退院支援
6月26日の会合では、▼看護師確保・負担軽減▼病棟における多職種でのケア▼入退院支援▼リハビリテーション▼食事療養—が議題となりました。本稿では、このうち「看護師確保・負担軽減」に焦点を合わせます。
「看護」がなければ医療提供が行えないことは述べるまでもありませんが、現在▼看護師の確保が難しくなっている▼看護師の業務負担が過重になっている—という極めて大きな課題があります。
看護師の確保が難しくなっている点について、厚生労働省は「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」を30年ぶりに見直し▼新規養成▼復職支援▼定着促進—を強力に図ることとしていますが、次のように厳しい状況にあることが示されました。
▽一般産業平均に比べて有効求人倍率が高い(人手不足である)

看護師の有効求人倍率など(入院・外来医療分科会(2)1 250626)
▽看護師学校養成所の卒業者数は減少傾向にある

看護師養成校卒業者は減少傾向にある(入院・外来医療分科会(2)2 250626)
▽看護師学校養成所(3年課程)の定員充足率は低下傾向にあり、大学でも定員割れをしている

看護師養成校の入学者等も厳守している(入院・外来医療分科会(2)3 250626)
▽看護師の年齢構成を見ると「若手」比率が減少している

看護師の年齢構成割合は上昇している(入院・外来医療分科会(2)4 250626)
▽年齢が高くなるほど「病院に勤務する看護師」割合が低くなる

年齢が上がるにつれ、病院に勤務する看護師の割合は低下していく(入院・外来医療分科会(2)5 250626)
看護師の業務負担軽減のために、ICT利活用や看護補助者等へのタスク・シフト等が重要
この背景には様々な要因がありますが、例えば「一般産業の賃上げに、看護師の賃上げが追い付かず、看護師免許取得者が一般産業に流出してしまう」ことや、上述したように「看護師の業務負担が過重である」ことなどがあります。
前者については「処遇改善に向けたベースアップ評価料の創設」などが行われていますが、「さらなる処遇改善が必要である」と骨太方針2025でも確認されています。
後者については看護師の負担軽減に向けて、▼ICTなどを活用した業務の効率化、生産性の向上▼看護補助者へのタスク・シフト—などが進められ、現場での活用も相当に進んでいる状況が報告されています。
▽看護管理者の7割がICT導入等を「効果あり」と見ている

看護師の負担軽減には「看護補助者へのタスク・シフト」などが有効と看護管理者は考えている(入院・外来医療分科会(2)8 250626)
▽看護職員の負担軽減等に向けて「他業種との業務分担」や「看護補助者の配置・増員」が進められている

「看護補助者の確保」などは徐々に進んできている(入院・外来医療分科会(2)7 250626)
ただし、次のように難しい状況にあることも明らかにされました。
▽ICT導入等に取り組む病棟が増えてきているが、まだ2-3割にとどまっている

ICT導入による看護師の負担軽減は徐々に進んではいるものの、2-3割にとどまっている(入院・外来医療分科会(2)9 250626)
▽人材不足で、病棟の業務負担軽減に取り組むことが難しい

看護人材不足で「看護師の負担軽減」に取り組めない病棟も少なくない(入院・外来医療分科会(2)10 250626)
▽【看護補助体制充実加算】の要件である「看護職員の負担軽減・処遇改善に係る計画」について、約7割の病院が達成可能であるものの、約2割の病院は「達成困難」である

看護補助体制充実加算で求められる「看護師の負担軽減」計画が達成困難な病院も少なくない(入院・外来医療分科会(2)11 250626)
▽看護補助業務の従事者は急減している

看護補助者は急減している(入院・外来医療分科会(2)12 250626)
このため、現場の看護管理者に聞くと、「残業時間が短くなった」との声がある一方で、「かえって残業時間が長くなった」との声も出ています。

看護師の負担が「減った」との声もあるが、「かえって増えた」との声もある(入院・外来医療分科会(2)13 250626)
こうした状況について入院・外来医療分科会では、▼「看護提供体制が崩壊」してしまう。看護師の確保・定着に向けた取り組みを、早急に協力に推進する必要がある。「ICT等を導入したい、看護補助者を確保したいが、病院経営が厳しさを増す中で費用を捻出できない」病院も多く、「入院基本料等の大幅」引き上げ(これによって病院が柔軟に費用を捻出できる)が是非とも必要である(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)▼「看護補助者配置」や「他業種へのタスク・シフト」による看護業務負担軽減効果について、より精緻に分析する必要がある(牧野憲一委員:旭川赤十字病院特別顧問・名誉院長、日本病院会副会長、中野惠委員:健康保険組合連合会参与)▼病院における介護福祉士活躍の場をさらに拡大していくべきではないか(小池創一委員:自治医科大学地域医療学センター医療政策・管理学部門教授)▼生産年齢人口が減少し、医療人材確保がますます困難になる中では「ICT等の活用」を大胆に進める必要がある(眞野成康委員:東北大学病院教授・薬剤部長)—といった意見が出されました。
また、秋山智弥委員(名古屋大学医学部附属病院 卒後臨床研修・キャリア形成支援センター教授、に本看護協会会長)は「看護師の業務負担軽減効果が大きな取り組みは『看護補助者へのタスク・シフト』である。看護補助者確保は難しいが、【看護補助体制充実加算】を皮切りに、補助者の職場定着も徐々に進んでいる。処遇改善とセットで『看護補助者へのタスク・シフト』を進めていくべき」と訴えています。あわせて秋山委員は「看護師の夜勤負担軽減」や「看護に係るマネジメント力の強化」なども重要検討テーマになると付言しています。

看護補助者の定着が徐々に進んでいる(入院・外来医療分科会(2)14 250626)

看護補助者への研修なども徐々に進められている(入院・外来医療分科会(2)15 250626)
なお、6月25日に開催された中央社会保険医療協議会総会では「看護師から他職種へのタスク・シフト」を求める声も出ています。今後、「各職種が実施可能な業務範囲」も確認しながら、「どういった行為を看護師から多職種へ移管できるのか」を慎重に探っていくことが必要となるでしょう(関連記事はこちら)。
上記のとおり「看護」がなければ医療提供体制は行えません。看護師の確保・定着に向けて診療報酬でどういった対応が行えるのか、さらに検討が続きます。
他方、このように厳しい状況の中でも看護師確保をしなければ病院経営が立ち行かなくなるため、多くの病院では「紹介事業者」を利用せざるをえません。この点について津留委員は「高額な紹介料を事業者に支払うが、半年ほどで退職し、紹介料が返還されない」という事例が繰り返されていることを紹介し、より「適切な対応」を図ってほしいと厚労省に要望しています(関連記事はこちら)。
特定行為研修を修了した看護師のさらなる養成、活躍に期待集まる
6月26日の入院・外来医療分科会では「特定行為研修を修了した看護師」の活躍に注目した議論も行われました。
一定の研修(特定行為研修)を受けた看護師は、医師・歯科医師の包括的指示の下で、手順書(プロトコル)に基づいて38行為(21分野)の診療の補助(特定行為)を実施することが可能になります(関連記事はこちらとこちら)。
特定行為研修修了者には「医師働き方改革の中で、医師からの重要なタスク・シフティング先—としての役割(急性期病院等での活躍)が期待されていますが、何より「看護師が専門性を高め、より質の高い看護・医療を提供可能になる」ことに期待が集まっています。

特定行為に係る看護師の研修制度の概要(入院・外来医療分科会(2)16 250626)
厚労省からは、▼特定行為研修修了者数がついに「1万人」を突破した▼病床規模の大きな病院で配置が進んでいる多い▼医師から看護師へのタスクシフト・シェアとして「注射、採血、静脈路の確保」、「事前に取り決めたプロトコルに基づく薬剤の投与、採血・検査の実施」、「カテーテルの留置、抜去等の各種行為、「特定行為の実施」が多い—などの状況が報告されています(関連記事はこちら)。

特定行為研修修了はついに1万人を突破した(入院・外来医療分科会(2)17 250626)

大病院を中心に特定行為研修修了者の配置が進んでいる(入院・外来医療分科会(2)18 250626)

医師から特定行為研修修了者へのタスク・シフトの状況(入院・外来医療分科会(2)19 250626)
入院・外来医療分科会でも特定行為研修修了者の活躍を期待する声が多く、▼当院(神戸大学国際がん医療・研究センター)でもICUや手術室などで活躍する特定行為研修修了者が増え、大きなメリットを感じている。さらなる活躍に向けて「研修受講、修了後の業務のそれぞれへのインセンティブ付与」を検討すべき。あわせて「病棟看護師確保」に向けた、さらなる看護師の増員、一定の手術を行える「フィジシャンアシスタント」(PA)育成も見据えた「特定行為研修修了者の業務範囲拡大」を検討すべき(眞庭委員)▼特定行為研修修了者が「どういった場面で活躍しているのか」を詳しく把握するとともに、特定行為研修修了者の評価充実(配置した場合の診療報酬評価の拡大・増点)を検討すべき(牧野委員)▼特定行為研修修了者の配置による効果が上がるためには「数」が重要である。特定行為研修修了者が配置されている日、いない日が混在などしていれば、十分に効果は上がらない。養成をさらに推進すべき(小池委員)▼日慢協でも特定行為研修を実施している。今後、どういった場面での活躍が望まれるのかなどをさらに議論していくべき(井川誠一郎委員:日本慢性期医療協会副会長)—などの意見が出ています。
医道審議会・保健師助産師看護師分科会「看護師特定行為・研修部会」の議論も見ながら、「特定行為研修修了者配置に対する診療報酬評価」の在り方をさらに検討していきます。
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