病院従事者の2025年度賃上げ率は平均「2.41%」どまりで一般産業の半分程度、早急に「十分な賃上げ」を可能とする環境整備を—四病協
2025.6.6.(金)
病院従事者の2025年度賃上げ率を四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)の幹部病院を対象に緊急調査したところ、平均「2.41%」で、一般産業の半分程度にとどまっている—。
また中には「2025年度には賃上げを行えない」「賞与支給率を下げざるを得なかった」病院もある—。
なお、賃上げ促進税制について、「そもそも対象外(自治体立、赤字であるなど)であり活用できない」病院が大多数(81.0%)に上っている—。
6月6日に開催された日本医療法人協会の2025年度定時総会で、太田圭洋副会長がこういった状況報告を行いました(四病院団体協議会の調査報告)。太田副会長は「病院経営は厳しく、十分な賃上げを行えるような支援・環境整備が早急に求められる。骨太方針2025のとりまとめ論議が山場を迎えているが、こうしたデータを踏まえた病院への経営支援方針を骨太方針に盛り込んでほしい」と強く訴えています(医法協サイトはこちら)。

6月6日に開催された日本医療法人協会の2025年度定時総会で、四病院団体協議会の「2025年度 医療機関における賃金引き上げの状況に関する緊急調査」結果速報を報告した太田圭洋副会長
病院スタッフの賃上げを十分に行えるような環境整備・支援が早急に必要
Gem Medで報じているとおり、日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会・日本精神科病院協会・日本慢性期医療協会・全国自治体病院協議会の6病院団体による調査で「病院経営は危機に瀕しており、いつ何時、地域の病院が突然なくなる(倒産する)可能性もある」状況が分かりました。例えば、2024年度診療報酬改定の前(2023年6-11月)・後(2024年6-11月)で比較すると、医業赤字病院は64.8%から69.0%に増加し、各種補助金を含めた経常赤字病院は50.8%から61.2%に増加していることなどが明らかになっています。

赤字病院・黒字病院の状況(6病院団体調査3 250310)
こうした状況から脱却するために、6病院団体と日本医師会は、▼2026年度診療報酬改定の「前」に期中改定を行う▼2026年度改定に向けて、「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安を廃止する▼2026年度改定で「賃金・物価上昇に応じて適切に対応する新たな仕組み」を診療報酬体系の中に盛り込む—ことを求める声明を発しています。
ところで、医療従事者の給与改善に向けて2024年度の診療報酬改定で【ベースアップ評価料】が創設され、▼2024年度に2.5%▼2025年度に2.0%—の賃上げが目指されています。
その調査結果速報が6月6日の医法協・定時総会で緊急報告されました。太田副会長は「骨太方針2025のとりまとめ論議が佳境を迎えており、一刻も早くデータを公表する必要がある」と医法協・総会で緊急報告に至った経緯を説明しています。
調査には163病院が回答し、そこから次のような状況が明らかになりました。
【賃上げ実施状況】
▽実施する(予定含む):57%(93病院)
▽定期昇給のみを実施する(予定含む):39%(63病院)
▽ベースアップのみ実施する(予定含む):2%(4病院)
▽実施しない:2%(3病院、自治体病院1施設と医療法人病院2施設)

賃上げ実施の状況給率の変化状況(四病協緊急調査結果1 250606)
【賃上げ率(平均)】
▽全体:2.41%(163施設)
(開設主体別内訳)
▽国立病院機構:2.09%(3施設)
▽自治体病院:2.12%(5施設)
▽その他公的:2.07%(7施設)
▽医療法人:2.41%(137施設)
▽その他私的:2.44%(11施設)

平均賃上げ率(四病協緊急調査結果2 250606)
【賃上げ促進税制の利用状況】
▽利用あり:19.0%(31病院)
→医療法人28病院(医療法人の20.4%)、その他私的3病院(私的の27.3%)
▽利用なし:81.0%(132病院)
→国立病院機構3病院(すべて)、自治体5(すべて)、その他公的7(すべて)、医療法人109病院(医療法人の79.6%)、その他私的(私的の72.7%)
▽利用できない理由としては、「病院形態として賃上げ促進税制を利用できない(公的病院、社会医療法人など)」36%、「赤字のため利用できない」34%などが多い

賃上げ促進税制の活用状況(四病協緊急調査結果3 250606)
【賞与支給率の変化】
▽上がった:17%(28施設)
▽不変:67%(109施設)
▽下がった:16パーセント(26病院)
▽下がったのは医療法人(21施設)、その他私的(3施設)、その他公的(1施設)、自治体(1施設)

賞与支給率の変化状況(四病協緊急調査結果4 250606)
こうした緊急調査結果を踏まえて四病協では、▼2025年の賃上げ率は、一般産業が4-5%と高水準であるが、病院では平均2.41% と半分程度に抑えられており、厳しい状況が明らかとなった▼早急に「病院現場で働く医療従事者に十分な処遇改善を行える」環境を整備する必要がある—と強く訴えています。
今後の骨太方針2025策定論議、2026年度診療報酬改定論議にさらに注目が集まります。
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