2024年度の自治体病院決算は85%が経常赤字、95%が医業赤字の異常事態、診療報酬の大幅引き上げが必要—全自病・望月会長
2025.7.18.(金)
全国の自治体病院を対象に2024年度の経営状況調査を行っており、途中経過では「85%が経常赤字、95%が医業赤字」という異常な事態が明らかになっている。このままでは病院経営が立ち行かなくなるため、2026年度の大幅な診療報酬プラス改定、さらに本年度(2025年度)中の期中改定等による経営支援を強く求めて行く—。
また、骨太方針2025では「OTC類似薬の保険給付からの除外」や「新たな地域医療構想に向けた病床削減」といった医療費適正化方針が示されています。方針そのものは否定しないが、丁寧な議論・検討が必要であり、「2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現が可能なものについて2026年度から実行する」とのスケジュールは拙速である—。
全国自治体病院協議会が7月17日に定例記者会見を開き、望月泉会長(八幡平市病院事業管理者兼八幡平市立病院統括院長)らからこうした見解が示されました。

7月17日の定例記者会見に臨んだ、全国自治体病院協議会の望月泉会長(岩手県立中央病院名誉院長・岩手県八幡平市 病院事業管理者)
必要病床数を超える一般・療養5万6000床、精神5万3000床を削減する方針
全自病では、会員病院(自治体病院)の経営状況を定期的に調査しています。現在、2024年度の状況を調べており、集計中ではあるものの、望月会長は「回答率が8割を超える見込みである」こと、さらに「経常収支では85%の病院が、医業収支に至っては95%の病院が『赤字』となる見込みである」ことを明らかにしています。
コロナ感染症関連補助金のない2019年度には、経常赤字となる自治体病院の割合は62.5%(さらにコロナ禍で国からの補助金を受け、自治体病院経営は2020年度から一時的に好転した)であったことを踏まえれば、「経常赤字病院が85%を占める」ことがどれだけの異常事態かが分かります。
望月会長は「このままでは自治体病院経営が立ち行かなくなり、自治体(都道府県、市町村)も自治体病院の面倒を見ることができなくなる事態に陥りかねない」とし、2026年度診療報酬改定での「大幅プラス改定」が必要と強く指摘。あわせて「2026年度診療報酬改定が施行される2026年6月を待てない病院も少なくない」とし、本年度(2025年度)中の期中改定等による病院経営支援の必要性も指摘しています。
今後、2024年度経営状況調査結果を確定し、全国自治体病院開設者協議会(都道府県知事、市町村長で構成される協議会)と意見擦り合わせを行ったうえで、お盆明け頃を目途に厚生労働省と総務省に行う予定です(。
関連して望月会長・や小阪真二副会長(島根県立中央病院長)は、▼一般企業並みの賃上げを医療機関でも行うためには、これまでの診療報酬改定(2020・22・24年度)では6%超の「対応不足」になっている▼物価上昇を踏まえれば10%超の大幅プラス改定が必要となる—との見解も示しています(関連記事はこちらとこちら)。6月13日に石破茂内閣が決定した骨太方針2025(経済財政運営と改革の基本方針2025—『今日より明日はよくなる』)では、医療・介護をはじめとする社会保障予算について、これまでの「高齢化の伸び」に加えて、「人件費・物価高騰」や「病院経営安定」などを勘案した増額・加算を行う方針が明示されていますが、望月会長は「ほんの少しのプラス改定で済ませられては困る」と強調しています。

7月17日の定例記者会見に臨んだ、全国自治体病院協議会の小阪真二副会長(島根県立中央病院長)
併せて望月会長・小阪副会長・松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)はGem Medに対し「物価の高騰により消費税負担が非常に大きくなっている(物価上昇分の10%・8%が消費税増加分になる)。にもかかわらず2024年度診療報酬改定では消費税増額分対応が行われていない。2026年度には消費税にも着目した診療報酬改定を行わなければならない」と指摘しました。小阪副会長が院長を務める島根県立中央病院では、2023年度から24年度にかけて消費税負担が「4500万円」も増加しているようです。
ほか、望月会長・小阪副会長は骨太方針2025について、次のような見解も示し、「拙速は避け、丁寧に議論・検討しなければならない」と強調しています。
【OTC類似薬の保険給付の在り方見直し】について
▽方向そのものに異論はないが、OTC類似薬を保険給付から外した場合には、医療機関・薬局で「当該医薬品の把握・管理」などができなくなり、例えば「併用禁忌・併用注意」等の確認が難しくなる
▽厳密に考えると、保険医療機関で「OTC類似薬」を処方箋に記載することなどは「混合診療」につながる可能性がある
▽こうした問題点を解消するために丁寧な議論が必要である(拙速はいけない)
【新たな地域医療構想に向けた病床削減】について
▽「どの程度の病床が地域で必要なのか」を十分に試算・精査する必要があり、拙速な病床削減はいけない(関連記事はこちら)

7月17日の定例記者会見に臨んだ全自病幹部。前列左から野村幸博副会長(国保旭中央病院長)、松本昌美副会長(奈良県・南和広域医療企業団副企業長)、望月会長、小阪副会長、吉嶺文俊副会長(新潟県立十日町病院長)後列、田中一成参与(静岡県立病院機構理事長)
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