救急患者の「高次救急→一般病院」転院搬送、受け入れ側の一般病院に対する経済的評価も検討してはどうか―入院・外来医療分科会(4)
2025.7.8.(火)
高次救急病院と地域の一般病院が日頃から「連携関係」を構築しておき、高次救急病院に搬送された患者について「連携する一般病院でも十分対応可能」と判断された場合に「転院搬送」することを評価する【救急患者連携搬送料】について、利活用状況が十分ではない。例えば「転院搬送を受ける側病院の評価」や「民間救急自動車の活用」などを検討してはどうか—。
主に高齢の救急等、急性期患者を受け入れ、急性期状態からの速やかな離脱に向けた十分な医療提供・早期の退院に向けたリハビリ、栄養管理などの提供・退院に向けた支援・適切な意思決定支援・在宅復帰支援・退院後の在宅医療を行う医療機関や介護事業所等との連携などを包括的・総合的に行う【地域包括医療病棟】について、看護必要度の「A2点以上かつB3点以上、A3点以上、C1点以上」患者割合が15%以上(看護必要度II)という基準があるが、誤嚥性肺炎や尿路感染症が中心の場合に基準クリアが難しい。地域包括医療病棟の評価指標として看護必要度が適切か、検討すべきではないか—。
7月3日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)で、こうした議論も行われています(急性期入院医療評価(その2)に関する記事はこちら、看護必要度に関する記事はこちら、DPC(その2)に関する記事はこちら)。

7月3日に開催された「令和7年度 第6回 入院・外来医療等の調査・評価分科会」
高次救急から一般病院への下り搬送、受け入れ側病院へのインセンティブを検討へ
Gem Medで報じているとおり、2026年度の次期診療報酬に向け、入院・外来医療分科会において入院医療・外来医療に関する「専門的な調査・分析」と「技術的な課題に関する検討」が精力的に進められています。こうした検討結果をベースに、今後、中央社会保険医療協議会総会で具体的な点数・施設基準・要件等の見直し論議が進められます。
(これまでの議論に関する記事)
・急性期入院医療
・DPC
・高度急性期入院医療
・地域包括医療病棟
・回復期リハビリ病棟
・療養病棟
・いわゆる包括期入院医療全体
・その他、入院・外来全般
・データ提出を評価する加算
・生活習慣病管理料など
・機能強化加算・地域包括診療料など
・オンライン診療
・入退院支援
・看護師確保・負担軽減
・多職種連携
・急性期入院医療(その2)
・重症度、医療・看護必要度
・DPC(その2)
7月3日の会合では、▼急性期入院医療(医療機関機能)▼重症度、医療・看護必要度(看護必要度)▼DPC▼救急医療▼高齢者の入院医療—といったテーマを議論しています。本稿では「救急医療」と「高齢者の入院医療」に焦点を合わせます。
救急医療については、「増加する高齢の救急患者にどう適切に対応するか」が重要な検討テーマの1つとなっています。
高齢者が急性期病棟に長期入院した場合、ADL低下・筋力低下が生じ、要介護度の悪化、寝たきりにつながりやすいことが分かっており、2024年度の前回診療報酬改定では▼主に高齢の救急等、急性期患者を受け入れ、急性期状態からの速やかな離脱に向けた十分な医療提供・早期の退院に向けたリハビリ、栄養管理などの提供・退院に向けた支援・適切な意思決定支援・在宅復帰支援・退院後の在宅医療を行う医療機関や介護事業所等との連携などを包括的・総合的に行う【地域包括医療病棟】の新設▼高次救急病院と地域の一般病院が日頃から「連携関係」を構築しておき、高次救急病院に搬送された患者について「連携する一般病院でも十分対応可能」と判断された場合に「転院搬送」することを評価する【救急患者連携搬送料】の新設▼地域包括ケア病棟での「救急搬送患者の緊急入院を受け入れ負担」などを考慮した【在宅患者支援病床初期加算】の点数引き上げ—などの対応が図られました。
このうち【救急患者連携搬送料】については、次のような届け出状況・算定状況が厚生労働省から報告されています。
▽2024年度診療報酬改定直後(2024年7月)から本年(2025年)5月にかけて、届け出医療機関数が大幅に増加している(ただし届出医療機関数は387)
▽「入院中の患者以外の場合」(入院前)の算定が最も多い(ただし月当たり算定回数は700件に届かず)

救急患者連携搬送料の状況1(入院・外来医療分科会(4)1 250703)
▽高度救命救急センター、救命救急センター、2次救急医療機関における届け出は17%にとどまり(2024年10月)、届け出をしない理由として「救急用の自動車、救急医療用ヘリコプターによる救急搬送件数が年間2000件以上ではない」「搬送に同乗するスタッフが確保できない」「自院・連携先医療機関が緊急自動車を保有していない」「地域のメディカルコントロール協議会等と協議したうえでの連携候補医療機関のリストを作成が困難」などが多い

救急患者連携搬送料の状況2(入院・外来医療分科会(4)2 250703)
▽算定患者の搬送理由としては、「処置・手術等を必要としないが、急性疾患に対する治療を必要とする状態であった」が最も多い

救急患者連携搬送料の状況3(入院・外来医療分科会(4)3 250703)
こうしたデータを見ると、「まだまだ【救急患者連携搬送料】が十分に活用されていない」ことが伺えます。
入院・外来医療分科会では、▼「転院搬送を受け入れる側の医療機関」に対するインセンティブを設けてはどうか(津留英智委員:全日本病院協会常任理事、牧野憲一委員:旭川赤十字病院特別顧問・名誉院長、田宮菜奈子委員:筑波大学医学医療系教授)▼連携先のリスト作成において「地域のメディカルコントロール協議会(MC協議会)との協議が義務付けられているが、この協議要件を削除してはどうか(牧野委員、日本病院会副会長、井川誠一郎委員:日本慢性期医療協会副会長)▼「高次の救急医療機関」(搬送元)と「地域の医療機関」(搬送先)とを仲介する組織・コーディネーターなどを設けてはどうか。連携先の確保に医療現場は苦労している(鳥海弥寿雄委員:東京慈恵会医科大学前医療保険指導室室長)—などの提案がなされました。
また、「自院・連携先医療機関の保有する緊急自動車での転院搬送」がハードルの1つとなっている点を踏まえれば、「民間の患者搬送事業者の活用」も重要な選択肢の1つとなりそうです。ただし、津留委員は「高次救急に搬送され、そこで『比較的軽症なので、当院ではなく、別の病院に転院搬送します』と説明され、民間の救急自動車で転院搬送されたとして、患者本人・家族に『民間の救急自動者の利用料を支払ってください』と請求した場合、理解を得られるだろうか」と述べ、慎重な検討の必要性を指摘しています。

民間救急事業者の活用1(入院・外来医療分科会(4)4 250703)

民間救急事業者の活用2(入院・外来医療分科会(4)5 250703)
関連して津留委員は「転院搬送の救急車に医師や看護師が同乗した際、多くの帰路では、白衣等のままで公共交通機関を利用することははばかられ、『自費でタクシーを利用』している(逆ルートの転院搬送があれば救急車に同乗できるが、そうしたケースは稀)。その分の費用補填も検討してほしい」と要望しています。
このほか、救急医療に関連して次のようなデータも厚労省から示されました。
▽【院内トリアージ実施料】の算定医療機関数はやや増加傾向(算定回数は、コロナ禍で大幅に増加したが、2024年には従前の水準まで戻っている)

院内トリアージ実施料の状況(入院・外来医療分科会(4)6 250703)
▽【夜間休日救急搬送医学管理料】の算定回数は、2020年以降、増加傾向
▽【救急搬送看護体制加算】の届出医療機関数は、2020年以降横這いだが、算定回数は増加傾向

夜間休日救急搬送医学管理料等の状況(入院・外来医療分科会(4)7 250703)
▽救急車等の受け入れ患者数が少ない医療機関でも、相当数の「ウォークイン救急患者」を受け入れているところが多数存在する

2次救急の患者受け入れ状況(入院・外来医療分科会(4)8 250703)
▽救急車等の受入患者数が500件以下である医療機関は約27.7%、ウォークイン救急患者数が500件以下である医療機関は約33.8%

救急医療管理加算を算定するいりょうきかんの救急搬送件数(入院・外来医療分科会(4)9 250703)
▽入院した救急患者(ウォークイン救急受診患者を含む)のうち、平均54.4%の患者に【救急医療管理加算】が算定されていた

救急医慮鵜管理加算の算定状況(入院・外来医療分科会(4)10 250703)
救急医療をめぐっては「救急医療管理加算をどう考えるか」という論点も従前から継続しており、今後、さらなるデータ分析を経て、議論を深めていきます。
地域包括医療病棟の評価指標、現在の看護必要度でよいのか?
「高齢者の入院医療」に関しては、入院・外来医療分科会の下部組織である診療情報・指標等作業グループ(以下、指標グループ)で、「評価指標をどう考えるか」という議論が進められています。
この点について指標グループでは、▼誤嚥性肺炎や尿路感染症が中心となっていると看護必要度IIの15%を達成することは困難である。高齢者救急を担う地域包括医療病棟の基準を検討しなおすべきではないか▼現在の看護必要度はC項目の比重が高く、地域包括医療病棟にそのまま使うことが適切かどうか検討する必要がある▼B項目については、高齢者の入院を評価する指標としての更なる有用性について、測定負担等も含めてさらに検討する必要がある—などの意見が出ていることが報告されました。
こちらも、さらにデータ分析を行い「地域包括医療病棟の評価指標」の在り方の検討を深めていきます。
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