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0830CQI研究会GemMed塾

社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続、診療所の良好経営踏まえた診療報酬改定を—財政審建議

2025.5.28.(水)

現役世代の負担増を抑制するために、社会保障関係費の伸びを「高齢化の範囲内に抑える」方針を継続し、メリハリのある予算編成等を行う必要がある—。

2026年度の診療報酬改定は、新たな地域医療構想・医師偏在対策・かかりつけ医機能報告などを後押しする必要がある。その際、「診療所のみを経営する医療法人の経営が良好」な点を踏まえること、かかりつけ医機能を評価する報酬について、例えば「地域包括診療料や認知症地域包括診療料の統合」、「機能強化加算の廃止」、「外来管理加算の再診料への包括化」などを検討する必要がある—。

介護保険の仕組みを参考に「入院にかかる室料負担」を患者自己負担に切り替えていくべき—。

介護保険については「介護人材の確保、そのための処遇改善」をしっかり行ったうえで、「要介護1・2の訪問・通所介護の地域支援事業への移行」「利用者2割負担の導入」などの介護費適正化を進めるべき—。

財政制度等審議会が5月27日に、こうした内容を盛り込んだ建議「激動の世界を見据えたあるべき財政運営」をとりまとめ、加藤勝信財務大臣に提出しました(財務省サイトはこちら)。

6月の「骨太方針2025」や、その後の社会保障審議会(医療部会、医療保険部会、介護保険部会)や中央社会保険医療協議会などでの議論にも影響を及ぼします。

医療・介護費の25%は国費であり、国家財政健全化のために医療・介護費の抑制が必要

医療費・介護費財源の25%は国費です(関連記事はこちら)。したがって、医療費・介護費が増加すれば、その25%に相当する国費支出も増加し、これが国家財政の圧迫につながっていると指摘されます。

医療費増加の背景の1つとして「医療技術の高度化」があげられます。医療技術の高度化は、述べるまでもなく我々患者・国民に大きな恩恵をもたらしますが、一方で医療費の高騰を招きます。脊髄性筋萎縮症の治療薬「ゾルゲンスマ点滴静注」(1億6707万円)白血病等治療薬「キムリア」(3264万円)などの超高額薬剤の保険適用が相次ぎ、さらにキムリアに類似したやはり超高額な血液がん治療薬も次々に登場してきています。また、近く数億円の薬価設定も予想される、小児の筋ジストロフィー治療薬「エレビジス点滴静注」の保険適用が行われます。

また、2023年12月には認知症治療薬「レケンビ」が保険適用され、昨年(2024年)11月には新たな認知症治療薬「ケサンラ」も保険適用されました。

同時に、高齢化の進展も医療費高騰に大きく関係します。2022年度から人口の大きなボリュームゾーンを占める団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、今年度(2025年度)には全員が後期高齢者となります。後期高齢者は若い世代に比べて、傷病の罹患率が高く、かつ1治療当たりの日数が非常に長いため、高齢者の増加は「医療費の増加」を招いてしまいます(関連記事はこちら)。

そこで財政審では、「国家財政を健全化させる(端的に「入り」を増やし「出」を抑える)ために、医療費や介護費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」方策の検討を進め、提言を行っています(2025年度予算編成に向けた2024年冬の建議に関する記事はこちら)。

今般の建議でも社会保障改革に関して、例えば次のような意見・提言を行っています。

【社会保障全体】
▽世界に冠たる我が国の社会保障制度を次世代に確実に引き継ぐためには、これまで以上に切迫感をもって「持続可能性の確保」に向けて不断に取り組むことが不可欠であり、「社会保障関係費について、その実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びにおさめることを目指す」との政府方針(骨太方針2024では2025-27年度も維持するとしている)を踏まえて、今後も「メリハリ」をつけることが重要

▽現役世代の保険料負担の増加が強く意識されるようになってきている中、若者・子育て世帯の可処分所得の増加、ひいては消費の増加につなげていく観点からも、給付の適正化や抑制等を通じ、マクロの観点から「医療・介護の 保険料率の上昇を最大限抑制」する必要がある

▽高齢化の進行を踏まえた医療・介護提供体制を確保していくため、例えば公定価格(診療報酬・介護報酬)の適正化・包括化を通じて、より効率的に医療・介護サービスを提供していく視点が重要

▽「大きなリスクは共助中心、小さなリスクは自助中心で対応する」視点に立ち、公的医療・介護保険でカバーすべきは「個人で対応できないような大きなリスク」中心とし、「日常負担できるような低額医療」は自助で対応すべき

▽能力に応じた公平な負担としていく視点に立ち、「年齢別」ではなく、資産の保有状況等も含めた「負担能力」に応じた負担としていくべき

【医療】
●全体感

▽医療費増の大きな要因である「新規医薬品の保険収載など」について、適正化努力を強化することで、保険料負担を含む国民負担の増加を抑制していく必要がある

▽日本では医学的な必要性以上に過剰な医療提供を招きやすい構造となっており、質の高い医療を提供しつつ国民皆保険の持続性を確保していくための医療制度改革を確実に実施していかなければならない

●医療提供体制
▽医療機関経営情報の更なる「見える化」を進めていくことが求められ、医療機関の「経営情報データベース」において職種別の給与・人数の提出を義務化すべき

▽日本では、地域差こそあるものの、諸外国と比べて総病床数が多く、平均在院日数も長いため、「人口1000人当たり医師数は少なくない」にもかかわらず、「病床100床当たり医師数が少ない」という状況が生じている

新たな地域医療構想に関して、「急性期拠点機能を持つ病院」の集約化にあたっては、手術件数など客観要件により絞り込むほか、地域医療提供体制の責任を持つ都道府県の権限のあり方について、更なる規制的対応を含め、不断の見直しをすべき

▽「病院機能の集約」と「診療所数の適正化」に向けて、病院勤務医から開業医への更なるシフトを起こすことのないよう、診療報酬体系の見直しを図るべき

▽保険料と税金で賄われている医療機関の経営原資が必要以上に「人材紹介手数料」に流れることにより、更なる保険料の上昇を招くことがないよう、紹介業者が選別・淘汰される仕組みを推進し、必要に応じて更なる規制強化を検討すべき

●診療報酬
2026年度診療報酬改定は、新たな地域医療構想医師偏在対策の強化かかりつけ医機能報告制度の後押しともなるようなメリハリのあるものとすべき

▽2023年度には、無床診療所のみを経営する医療法人の利益率は8.6%で、中小企業の全産業平均(3.6%)よりも高い(病院のみを経営する医療法人の利益率は2.1%)点などを踏まえ、医療保険制度を通じて医療機関にもたらされる利益が、国民・患者の視点から見て妥当なものかどうかも検討しつつ、国民負担の軽減と必要な医療保障のバランスを図りながら、メリハリある対応を検討する必要がある

▽「かかりつけ医機能の報酬上での評価」について改めて精査・整理をし、抜本的な見直し、具体的には▼地域包括診療料・加算、認知症地域包括診療料・加算の統合▼外来医療管理加算の再診料への包括化▼機能強化加算の廃止—などを検討すべき

▽生活習慣病について、一般的な診療ガイドラインに沿う形で報酬の算定要件を厳格化するべきであり、例えば、血圧がコントロールされている場合の生活習慣病管理料の算定について「1か月に1回よりも長くする」などの対応を検討すべき

医師偏在の是正に向けて、次のような対応を検討すべき
▼外来医師過多区域(人口当たり外来医師数などに基づく外来医師偏在指標が標準偏差の数倍超の地域)で「必要な医療提供」(在宅医療・夜間対応など)の要請・勧告に従わない場合の診療報酬減算
▼診療所不足地域と診療所過剰地域で異なる1点当たり単価を設定し、当面、診療所過剰地域の単価引下げを先行させ、それによる公費節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化する
▼ある地域の特定の診療科に係る医療サービスが過剰であると判断される場合には、医療需要の掘り起こしが発生しているとみなし、当該医療サービスを「特定過剰サービス」として、一定のアウトカムを出せていない場合には減算の対象とする

▽医薬分業の進捗状況を踏まえ、処方料(院内処方)の水準も踏まえた「処方箋料(院外処方)の適正な水準」(引き下げ)を検討すべき

▽薬剤師との連携によりリフィル処方が活用されるよう、診療報酬上の加減算も含めた措置を検討すべき

▽調剤技術料・薬学管理料に係る報酬体系の見直し、例えばかかりつけ薬剤師指導料や服用薬剤調整支援料といった、薬学管理料の中でも真に対人業務を評価する項目への評価の重点化を進めるべき

▽経営の実態を踏まえながら、処方箋集中率が高い薬局等における調剤基本料1(高い点数の基本料)の適用範囲を縮小すべき

●薬価等、医薬品関連
▽費用対効果評価について、「対象とする薬剤の範囲」「価格調整の対象範囲」の拡大とともに、「評価結果を保険償還の可否の判断に用いる」ことも検討すべき

▽費用対効果評価の結果について、学会の診療ガイドラインや厚生労働省の最適使用推進ガイドラインなどに反映させ、経済性の観点を診療の現場にも徹底させるべき

▽新規性の乏しい新薬の薬価設定(類似薬効比較方式(II))について、費用対効果評価の活用方策も含め、抜本的かつ具体的な検討を早急に進めるべき

地域フォーミュラリ(言わば地域単位での「疾患別の推奨医薬品リスト」)を強力に推進すべく、薬務行政における対応にとどまらず、各医療保険制度における保険者インセンティブ制度の活用や医療介護総合確保基金による支援など、国がリーダーシップを発揮して必要な施策を早急に実施すべき

▽症状が安定した慢性疾患への治療薬(降圧剤等)のスイッチOTC化(医療用医薬品から一般医薬品へのシフト)を推進するべき

▽最適使用推進ガイドラインについて、▼より幅広い医薬品を対象とする(現在は極めて高額など医療保険財政に及ぼす影響が大きなものが対象)▼費用対効果評価の結果に基づく経済性を反映させる▼減薬・休薬を含めた投与量の調整方法など治療の最適化に関する事項を盛り込む—などの改善を図るべき

●医療保険制度改革
▽OTC薬(市販薬)の対象拡大(スイッチOTC 化の推進等)、OTC類似薬の保険給付範囲のあり方の見直し、医薬品の有用性に応じた保険給付率の設定、薬剤費の一定額までの全額患者自己負担、保険外併用療養費制度の活用などを総合的に検討すべき
▼低リスクであり患者の判断での購入が許容される医療用医薬品について、OTC薬(市販薬)への切り替えを進める。例えば、「既に医師の処方を受け、症状が長期に安定しているような生活習慣病に係る医薬品(降圧剤等)」や「検査薬」のスイッチOTC化をまず検討すべき
▼高額薬剤について、費用対効果評価制度等の一層の活用を含めた薬価制度上の最大限の対応はもとより、「保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大」「民間保険の活用」を検討すべき
▼医療機関の入院患者に係る光熱水費・室料について、介護保険制度での取扱いも参考に、患者の負担能力に応じた形で「保険給付から除外し、自己負担とする」べき

▽75歳以上の後期高齢者における医療保険料負担や患者自己負担割合のあり方について、不断の見直しに向けた検討を深めるべき

▽後期高齢者医療制度について、国民健康保険と同じく財政運営主体を都道府県とする(現在、都道府県単位の後期高齢者医療広域連合が主体となっているが、都道府県とは別となっている)ことにより、ガバナンスをより一層強化すべき

▽各都道府県内での被保険者(住民)間の受益と負担の公平性を確保する観点から、一刻も早く「全ての都道府県で納付金ベースでの保険料水準の統一」が実現するよう必要な対応を強力に進めるべき

▽所得水準の高い国民健康保険組合(例えば医師国保組合など)に対する定率補助の廃止も含め、その抜本的な見直しを検討すべき

【介護】
▽介護報酬の加算について、「自立度や要介護度の維持・改善」など、アウトカム指標を重視した真に有効なものへ重点化すべき

▽介護人材確保に向け「賃上げ」とともに、職員の資質の向上やキャリアアップに向けた支援等を進めるべき

▽介護職員の賃上げ状況の継続的な調査・分析を行えるよう、経営情報データベースによる職種別の給与総額、人数の提出を義務化するなどの取り組みを検討すべき

「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」の中間整理を踏まえ、職場環境整備、業務負担軽減、保険者によるケアプラン点検の適切な実施等を通じた「囲い込み」是正などの対応を適切に行うべき(関連記事はこちら

▽訪問介護について、地域の実情を踏まえた人材確保、サービス確保を図るべき(関連記事はこちらこちら

▽省力化投資とも言えるICT機器を活用した人員配置の効率化や経営の協働化・大規模化を強力に進めていくべき

▽市町村等の成果志向型の取り組みに対するインセンティブ付けを強化し、地域の状況に応じた効果的な取組を促進することで、介護費の抑制・地域差縮減等を図るべき(関連記事はこちら

▽要介護認定事務のデジタル化や認定事務に要する平均期間の「見える化」により、事務の迅速化・業務負担軽減を図るとともに、認定プロセスの縮減や合理化、蓄積されたデータを用いたAI等の活用も検討すべき(関連記事はこちら

▽サービス付高齢者向け住宅などにおける居宅療養管理指導の適正化を進めるべき(いわゆる「囲い込み」が生じている部分がある、関連記事はこちら

▽介護人材紹介会社の規制強化などを図るべき

▽訪問看護の適正化・入居者紹介手数料等への対応を強化すべき(関連記事はこちら

▽要介護1・2の生活援助サービス等について市町村事業(地域支援事業)への移行や利用者負担の見直しを行うなど、保険給付範囲の在り方を見直すべき(重度者に重点化する)

▽介護保険サー ビスの利用者負担等について「所得・資産に応じた負担」となるよう見直しを着実に進めるべき(利用者負担の原則2割化、3割負担となる現役並み所得の基準見直しなど)

▽ケアマネジメントに係る利用者負担の導入を図るべき

▽どの介護保険施設でも「多床室の室料負担」を介護報酬から除外し、利用者負担とすべき(関連記事はこちら



これまでにも提言がなされ、すでに相当程度議論されている事項も含まれていますが、今後、社会保障審議会(医療部会、医療保険部会、介護保険部会)や中央社会保険医療協議会などで議論が活発化していくことが予想されます。

もっとも、病院経営の窮状などを踏まえ、医療団体は「診療報酬の大幅引き上げ」を強く求めており、上述の財務省提案とは真っ向から対立することになるでしょう(関連記事はこちらこちら)。今後の議論の行方に注目する必要があります。



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