2023年度に市町村国保で1.37倍、後期高齢者で1.50倍の「1人当たり医療費格差」あり、ベッド数・在院日数の適正化が格差是正の鍵—厚労省
2025.3.5.(水)
2023年度の1人当たり医療費(電算処理分)を見ると、市町村国保では最高の佐賀県と最低の茨城県との間に1.37倍の、後期高齢者医療では同じく最高の福岡県と最低の岩手県との間に1.50倍の格差がある—。
厚生労働省は2月28日に2023年度の「医療費の地域差分析」(電算処理分)を公表し、こういった状況を明らかにしました(厚労省のサイトはこちら)。
地域差の原因を探ると、医療費の高い地域では「高い頻度で、長期間入院している」ことが再確認できました。「ベッド数が過剰なために、不要な入院延伸がなされていないか」などを確認し、各地域で、医療費の地域差是正に努めることが重要です。
目次
市町村国保、1人当たり医療費トップは佐賀県、最も低い茨城県の1.37倍
2022年度から、人口の大きなボリュームゾーンを占めるいわゆる団塊世代が75歳以上の後期高齢者となりはじめ、来年度(2025年度)には全員が75歳以上となります。このため、今後、急速に医療費が増加していくと考えられます。
さらに、その後、2040年度にかけて高齢者「数」は大きく変わらないものの、▼85歳以上高齢者の比率が大きくなる(重度の要介護高齢者、医療・介護の複合ニーズを持つ高齢者、認知症高齢者などの比率が高まっていく)▼支え手となる生産年齢人口が急激に減少していく(医療・介護人材の確保が極めて困難になる)—ことが分かっています。
また、こうした人口構造の変化は地域によって大きく異なります。中山間地域などでは「高齢者も、若者も減少していく」、大都市では「高齢者も、若者もますます増加していく」、さらに一般市では「高齢者が今後増加するが、そう遠くない将来に減少していく」など区々です。
「少なくなる一方の支え手」で「増加し続ける高齢者」を支えなければならないことから、公的医療保険制度の基盤は極めて脆くなっていき、「医療費の伸びを我々国民の負担できる水準に抑える」(医療費適正化)ことが必要不可欠です。
医療費は「人口」×「1人当たり医療費」に分解することができます。「人口」をコントロールすることは極めて困難(しかも減少傾向にある)なため、医療費適正化のためには「1人当たり医療費」を適正な水準に抑えることが重要です。ところで、「1人当たり医療費」には大きな地域差があることが分かっており、まずこれを是正していくことが重要方策の1つとなっています(関連記事はこちら(骨太方針2021))。
このためには、まず「医療費の地域差がどの程度あり、その要因はどこにあるのか」を明らかにする必要があります。
この点、医療費は「地域の人口構成に大きな影響を受け」ます。高齢者が多い地域では必然的に医療費が高くなり、人口数で除した1人当たり医療費も高くなりますが、これを「遺憾である」と考えることはできません。述べるまでもなく、「高齢化=悪」ではないからです。
そこで「1人当たり医療費の地域差」を分析するにあたっては、「地域ごとの年齢構成(高齢者割合など)の差」を補正・調整することが重要となります(年齢構成を揃える形で補正する)。本稿では主に、補正・調整を行った「1人当たり年齢調整後医療費」を、市町村国保(74歳まで)と後期高齢者医療制度(75歳以上)に分けて見ていきます。なお、今回は「電算処理分」のみを集計対象としています。
まず市町村国保の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2023年度は全国平均で40万2157円。都道府県別に見ると、最高は佐賀県の48万2059円(全国平均の1.199倍)。次いで鹿児島県の47万7564円(同1.188倍)、島根県の47万1744円(同1.173倍)と続きます。
逆に最も低いのは茨城県の35万2987円で、全国平均の0.878倍。次いで埼玉県の37万297円(全国平均の0.921倍)、千葉県の37万1411円(同0.924)となっています。
最高の佐賀県と最低の茨城県の間には12万9072円・1.37倍の開きがあります。

2023年度都道府県別の市町村国保1人当たり医療費(年齢調整後)1

2023年度都道府県別の市町村国保1人当たり医療費(年齢調整後)2
医療費の地域差を、日本地図を色分けした医療費マップで見てみると、依然として「西日本で高く、東日本で低い」(西高東低)傾向が継続していることが確認できます。

2023年度医療費マップ(市町村国保)
病床過剰ゆえに「不適切な入院延伸」→「1人当たり入院医療費高騰」の可能性
こうした1人当たり医療費の「地域差」はなぜ生じるのでしょう。この原因を探るには、医療費を次の3要素に分解して見てみることが有用です。
(要素1)1日当たり医療費
いわば「1日当たりの単価」
→単価の高低の評価は容易ではありませんが、例えば「不必要な検査をしていないか」「後発医薬品の使用は進んでいるか」などを考えるヒントになります
(要素2)1件当たり日数
一連の治療について、入院ではどれだけの日数がかかり、外来では何回(=日数)医療機関にかかるのか
→例えば、同じ疾病、同じ重症度の患者間で入院日数が大きく異なれば、「退院支援がうまく機能しているのか」などを考えるヒントになります
(要素3)受診率
どれだけの頻度で医療機関にかかるのか
→例えば「頻回受診、重複受診がないか」などを考えるヒントになります
市町村国保医療費の地域差に、3要素のどれが大きく関与しているのかを見ると、入院医療費の高い地域(佐賀県、鹿児島県、島根県など)では、▼「受診率」と「1件当たり日数」が医療費を高める▼「1日当たり医療費」は医療費を低くする―傾向があることが分かります(従前と同じ傾向)。一方、入院医療費の小さな地域(茨城県、愛知県、埼玉県など)では、「受診率」や「1件当たり日数」が医療費を低くする方向に寄与していることが分かります(やはり従前と同じ傾向)。

2023年度入院医療費に対する3要素の寄与度(市町村国保)
これらを総合すると、▼1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けている▼1人当たり医療費の低い地域では、入院の頻度が低く、かつ高濃度の医療を短期間受けている―ことが推定されます。
したがって、医療費の地域差解消に向けては、▼不適切な入院(例えば「入院の必要性がない、低い患者」を入院させる社会的入院など)が生じていないか▼不適切な在院日数の延伸(例えば「病床稼働率を維持するために、退院可能な患者を退院させない」など)が生じていないか—を十分に確認する必要があることが伺えます。とくに「1人当たり医療費の高い地域」では、この点の確認・是正が極めて重要と言えます。
ところで、こうした「頻度の高い、期間の長い入院」の背景には「病床数」が大きく関係している点にも留意が必要です(関連記事はこちら、医療費の地域差と病床数との間には、極めて大きな相関がある)。端的に「空き病床を埋めるために、不適切に入院期間を延伸し、結果、医療費が増加してしまう」可能性が考えられるのです。不適切な入院期間の延伸は「院内感染リスクの上昇」「ADL低下リスクの上昇(つまり寝たきりの誘発)」「患者のQOL低下」などの悪影響も招きます。まず「地域の医療ニーズにマッチする病床数になっているか、過剰な病床数整備がなされていないか」を地域ごとに確認し、適正な数に是正していくことが求められるでしょう。
2027年度から稼働する「新たな地域医療構想」策定論議でもこうした点が確認されており、各都道府県・各地域医療構想調整会議で「地域、各医療機関のベッド数が適正か」などを確認し、ダウンサイジングや機能転換などを検討していくことが重要です。
後期高齢者、1人当たり医療費トップ福岡県、最も低い岩手県の1.50倍
次に後期高齢者医療の「1人当たり年齢調整後医療費」を見てみると、2023年度は全国平均で93万1637円でした。都道府県別に見ると、最高は福岡県の111万9054円(全国平均の1.201倍)。次いで高知県の110万3099円(同1.184倍)、鹿児島県の108万9410円(同1.169倍)と続きます。
逆に最も低いのは岩手県の74万7619円(全国平均の0.802倍)で、新潟県の75万3320円(同0.809倍)、青森県の77万7058円(同0.834倍)と続きます。
最高の福岡県と最低の岩手県の間には37万1405円・1.50倍の開きがあります。

2023年度都道府県別の後期高齢者医療1人当たり医療費(年齢調整後)1

2023年度都道府県別の後期高齢者医療1人当たり医療費(年齢調整後)2
医療費マップでも、上記の市町村国保医療費と同様に「西高東低」の状況が確認できます。

2023年度医療費マップ(後期高齢者医療)
また後期高齢者の入院医療費について、市町村国保医療費と同様に▼1日当たり医療費▼1件当たり日数▼受診率—の3要素に分解した寄与度を見てみると、入院医療と同様に▼「1日当たり医療費」と「1件当たり日数」は、医療費の高い地域では「医療費を低くする」方向に、医療費の低い地域では「医療費を高める」方向に寄与している▼「受診率」は、医療費の高い地域では「医療費を高める」方向に、医療費の低い地域では「医療費を低くする」方向に寄与している―ことが分かります。

2023年度入院医療費に対する3要素の寄与度(後期高齢者医療)
やはり、1人当たり医療費の高い地域では、高い頻度で入院し、かつ濃度の薄い医療を長期間受けていると推定され、「不適切な社会的入院」や「不適切な在院日数の延伸」がないかを見ていく必要があります。
冒頭に述べたように、高齢化がますます進行する中では、後期高齢者医療費の適正化(ここでは1人当たり医療費の地域差縮小)に努める必要性が極めて大きく、「病院の病床が介護施設代わりに使用されていないか」などを厳しい目で確認し、必要な是正を行っていくことが極めて重要です。もっとも、この場合「介護費が他地域よりも抑制されている」可能性があり、医療・介護費トータルで適正化を考えていくことも重要です(関連記事はこちら)。
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