日病協でも「過去のコスト上昇補填不足分など含め、2026年度診療報酬改定では、病院について『10%以上』のプラス改定が必要」と確認
2025.7.14.(月)
中央社会保険医療協議会に示された公的データに基づけば、2018年度から2024年度にかけて、病院のコスト上昇に対し、診療報酬では「5.23%」あるいは「6.31%」の補填不足(引き上げ不足)となっている—。
さらに「今なお、物価・人件費などの急騰が続いている」ことを勘案すれば、病院における良質な医療提供のために2026年度には「10%以上の診療報酬引き上げ」が必要である—。
全国自治体病院協議会、全日本病院協会、日本病院会など15の病院団体で構成される日本病院団体協議会(日病協)の代表者会議(会長、副会長クラスの意見交換会)が7月11日に開かれ、こうした点を確認したことが望月泉議長(全自病会長)と神野正博副議長(全日病会長)から報告されました。

7月11日の日本病院団体協議会・代表者会議後に記者会見に臨んだ望月泉議長(全国自治体病院協議会会長、向かって左)と神野正博副議長(全日本病院協会会長、向かって右)
病院において「医療従事者の確保」が極めて難しくなっている点も再確認
Gem Medでも報じているとおり2026年度の次期診療報酬改定に向けた議論が各所で進められています。
例えば6月13日に石破茂内閣が決定した骨太方針2025では、医療・介護をはじめとする社会保障予算について、これまでの「高齢化の伸び」に加えて、「人件費・物価高騰」や「病院経営安定」などを勘案した増額を行う方針が明示されており、「相当程度のプラス改定になるのではないか」と医療関係者の多くは期待に胸を膨らせています。
ところで、日病協の構成組織である日本医療法人協会は2026年度診療報酬改定の改定率に関して次のような試算結果をすでに発表しています。
▽中央社会保険医療協議会で示されたコストデータ(医師・歯科医師を除く医療従事者の人件費が2018年度から24年度にかけて6.88%増加、物価が2020年から25年にかけて11.1%増加しているなど)をもとにすれば、病院のコスト増を賄うために、2020から24年度にかけて【7.10%】の診療報酬引き上げが本来は必要であった
(内訳)
・人件費:コストが6.88%増加しており、病院支出に占める割合は57.2%
→診療報酬では3.94%増が必要
・医薬品費:コスト増分は薬価改定で補填対応済であり、病院支出に占める割合は9.5%
→同0.00%
・その他の医療材料費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は8.2%(うち58%は特定保険医療材料価格改定で補填対応済)
→同0.38%増が必要
・給食材料費・委託費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は2.3%
→同0.26%増が必要
・その他の委託費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は4.2%
→同0.47%増が必要
・水道光熱費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は1.9%
→同0.21%増が必要
・減価償却費:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は5.0%
→同0.56%増が必要
・その他の費用:コストが11.1%増加しており、病院支出に占める割合は11.7%
→同1.30%増が必要

病院の収益構造の変化(中医協総会(1)7 250423)

病院の人件費(単価)1(中医協総会(1)9 250423)

物価の状況(中医協総会(1)13 250423)
▽これに対し、診療報酬「本体」の改定率は、2020年度:プラス0.55%、2022年度:プラス0.43%、2024年度:プラス0.88%で、2020から24年度の実質引き上げ幅は【プラス1.87%】にとどまっている
▽両者を差し引きすれば、診療報酬での対応が【5.23%不足】している
▽「医療従事者も全産業平均並みの賃上げ(2018年度から24年度にかけて8.77%の賃上げ)を行うべきである」との考えに立てば、「2020年度から24年度にかけて、コスト増を賄うために診療報酬では【8.18%】の引き上げが必要であった」と計算され、この場合には、診療報酬での対応が【6.31%不足】していることになる
▽人件費・物価の急騰は今なお継続しており、2026年度改定では「2026年度・27年度分の病院経営を賄う」ことも必要となり、過去の不足分(上記)とあわせて【10%超の本体プラス改定】が必要となる
7月11日の日病協代表者会議でも、この試算結果が共有されたことが望月議長から報告されました。現時点では「具体的な要望項目にまで昇華させる」議論こそ行われていませんが、こうした試算結果をもとに「2026年度の大幅プラス改定」実現に向けた動きが日病協などでさらに進んでいくことになるでしょう。
あわせて日病協代表者会議では、▼看護師確保が困難であり、さらに今後、その度合いが増していく▼病院薬剤師の確保が極めて難しい▼看護補助者数が急減している—ことなども確認(関連記事はこちらとこちら)。

看護師養成校卒業者は減少傾向にある(入院・外来医療分科会(2)2 250626)

看護師養成校の入学者等も厳守している(入院・外来医療分科会(2)3 250626)

看護補助者は急減している(入院・外来医療分科会(2)12 250626)
医療従事者がいなければ病院の経営が維持できず、地域医療提供体制は崩壊してしまいます。少子化が進む中で人材確保はどの業界でも難しくなっていますが、保険医療の世界では「収益が公定価格(診療報酬)で決まっており、民間企業(とりわけ大企業)並みの賃上げを医療機関独自の努力だけで行うことは困難」であり、「診療報酬や補助金による賃上げ支援」が必須となります。
こうした点も勘案した「プラス改定財源の確保」と「診療報酬点数の配分」が行われることに期待が集まります。
また、生産年齢人口そのものが減少していく中では、「賃上げ」による人材確保にも限界があるため、日病協代表者会議では「これまでの人員配置に基づく診療報酬(ストラクチャー評価)から、プロセス(医療の過程)やアウトカム(治療成績)を重視する診療報酬への移行が重要かつ必要である」ことが改めて確認されたことも望月議長から報告されました。
厚生労働省保険局医療課の林修一郎課長は、2016年度診療報酬改定で医療課長補佐(筆頭補佐)であり、その際「回復期リハビリテーション病棟へのアウトカム評価(リハビリテーション実績指数)の導入」を行いました。「入棟時のADL」から「退棟時のADL」への改善度合いを「リハビリの効果」と捉えて、リハビリ実績指数を計算し、「効果の高いリハビリを行っている(=リハビリ実績指数の高い)回復期リハビリ病棟」では6単位を超える疾患別リハビリ料の算定を認めるという仕組みです(関連記事はこちら)。
2026年度で「さらなるアウトカム評価導入」が林医療課長総指揮の下でどのように検討されるのか、注目が集まります。
なお、入院・外来医療等の調査・評価分科会(中医協の下部組織)では「内科症例の看護必要度が低くなりがち」点に着目した議論が行われていますが、望月議長は「外科が高く評価されているかと言えば、それほど十分な評価がなされているとも思えない。診療科によらず、重症患者受け入れなどを適切に評価できる看護必要度が必要であろう」とコメントしています。
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