特定機能病院で「再来患者の逆紹介」が進まない背景に何が?連携強化診療情報提供料の要件を緩和すべきか?―入院・外来医療分科会(2)
2025.7.18.(金)
外来医療の機能分化を進めるために、大病院では「紹介患者割合、逆紹介患者割の基準」を設け、これを満たさない場合には初診料や外来診療料が減算される。しかし、特定機能病院では「再来患者の逆紹介」が進んでいない。その背景(例えばがん患者の術後長期フォローを自院で行う必要があるのか?一般医療機関でも対応可能な患者を手放さないのか?など)を詳しく分析せよ—。
外来医療の機能分化を進めるためには、「医療機関間等での診療情報連携・共有」が必須となる。2022年度には「かかりつけ医機能を持つ中小医療機関」と「紹介受診重点医療機関等の大病院」との情報連携・共有を評価する【連携強化診療情報提供料】が創設され、算定回数も伸びている。さらなる連携強化に向けて、本点数の要件緩和を検討すべきか—。
7月17日に開催された診療報酬調査専門組織「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(以下、入院・外来医療分科会)では、こうした議論も行われています(同日の包括期医療その2論議の記事はこちら)。同日には、ほかに「短期滞在手術等基本料」「薬剤業務」なども議題に上がっており、別稿で報じます。

7月17日に開催された「令和7年度 第7回 入院・外来医療等の調査・評価分科会」
特定機能病院で「再来患者の逆紹介」が進まないが、その背景を詳しく分析せよ
Gem Medで報じているとおり、2026年度の次期診療報酬改定に向けた議論が、中央社会保険医療協議会や下部組織の入院・外来医療分科会などで精力的に進められています。
(中医協論議)
・医療機関を取り巻く状況(経営状況等)
・医療提供体制
・外来(その1)
(入院・外来医療分科会)
・急性期入院医療
・DPC
・高度急性期入院医療
・地域包括医療病棟
・回復期リハビリ病棟
・療養病棟
・いわゆる包括期入院医療全体
・その他、入院・外来全般
・データ提出を評価する加算
・生活習慣病管理料など
・機能強化加算・地域包括診療料など
・オンライン診療
・入退院支援
・看護師確保・負担軽減
・多職種連携
・急性期入院医療(その2)
・重症度、医療・看護必要度
・DPC(その2)
・救急、高齢者入院医療
・包括期入院医療(その2)
7月17日の入院・外来医療分科会では、▼外来医療(その2)▼包括期入院医療(その2)▼短期滞在手術等基本料▼薬剤業務—等のテーマに沿った議論が行いました。本稿では「外来医療(その2)」に焦点を合わせます。
Gem Medでも繰り返し報じているとおり「外来医療の機能分化」も医療制度改革の重要なテーマであり、新たな地域医療構想でもこの点が勘案されます。
大学病院等の大病院に軽症患者が押し寄せれば、「大学病院等でなければ対応できない「専門・高度な外来医療」を必要とする患者の円滑受診が妨げられてしまいます。また、軽症外来患者への対応で医師が多忙になれば、「入院患者への対応」が十分に行えず、また医師の働き方改革も進みません。
このため、▼まず「かかりつけ医機能」を持つクリニックや中小病院を受診する→▼そこで「大病院での高度・専門的な医療が必要」と判断された場合には紹介状(診療情報提供書など)を出してもらう→▼紹介状を持って大病院を受診する→▼大病院での専門・高度医療を終えた暁には、紹介元の「かかりつけ医機能」を持つクリニック・中小病院などへ逆紹介してもらう—という流れの強化が目指されています。
診療報酬でもこの流れを強化するために、例えば▼専門・高度医療を持つ大病院を評価する【紹介受診重点医療機関】の診療報酬上の評価(紹介受診重点医療機関入院診療加算)▼「クリニック・中小病院」と「紹介受診重点医療機関」との双方向情報連携の【連携強化診療情報提供料】での評価▼紹介状なしで受診する場合等の患者特別負担の厳格化—などの対応が2022年度の診療報酬改定で行われています。
このため「紹介割合・逆紹介割合」は外来医療の機能分化・連携の状況を見る重要な指標の1つと言えますが、7月16日の中央社会保険医療協議会でも報告されたように「特定機能病院において逆紹介率の平均値が減算基準を下回る」という事態が生じています(大病院では「紹介患者割合、逆紹介患者割の基準」を設け、これを満たさない場合には初診料や外来診療料が減算される)。

外来における患者の流れと紹介・逆紹介割合の考え方(中医協総会1 250716)

病院の紹介割合(中医協総会2 250716)
あわせて厚労省は次のようなデータも示しました。
▽特定機能病院、一般病床200床以上の地域医療支援病院・紹介受診重点医療機関・許可病床400床以上病院では、約6割の外来患者が「2年以内に初診料の算定がない再診患者」である

大病院の外来では「2年以内の初診料を算定していない患者」が6割を占める(入院・外来医療分科会(2)1 250717)
▽特定機能病院、一般病床200床以上の地域医療支援病院・紹介受診重点医療機関・許可病床400床以上病院では、8割程度の外来患者が「直近6か月以内に再診を受けていた」

大病院の外来では「直近6か月以内に再来受診した患者」が8割を占める(入院・外来医療分科会(2)2 250717)
これらのデータからは「大病院において、比較的高頻度(6か月に一度以上)に長期間(2年程度)にわたって、継続して再診を受ける患者が多い」ことを意味します。
こうしたデータから直ちに「大病院、とりわけ特定機能病院において逆紹介が進んでいない。減算などのペナルティを強化し、逆紹介を進めるべき」との指摘も出てきそうです。しかし、こうした結論を出すことは危険であるとの指摘が入院・外来医療分科会では多数出されました。例えば、▼がん患者などでは再発確認などのために3-6か月単位での定期受診による術後フォローアップが必要となる。地域のクリニックなどに逆紹介できない患者も少なくない。例えばDPC特定病院群(旧II群)の状況などとの比較を行う必要がある(牧野憲一委員:旭川赤十字病院特別顧問・名誉院長、日本病院会副会長)▼特定機能病院を「長期間、継続受診する患者」にはそれなりの理由がある可能性がある。患者ごとに「どういった疾患で特定機能病院を継続受診しているのか」などを詳しく見る必要がある(中野惠委員:健康保険組合連合会参与)▼外来化学療法などのために特定機能病院を継続受診する患者も少なくない。どういった診療行為が行われているのかなども見ていく必要がある(津留英智委員:全日本病院協会常任理事)▼がんなどの特殊疾患管理のために特定機能病院を継続受診する患者も少なくない、特定機能病院について「紹介率・逆紹介率に応じた減算規定」の見直しを検討すべきではないか(眞庭謙昌委員:神戸大学国際がん医療・研究センターセンター長)▼逆紹介しようにも地域に適切なクリニック・中小病院が存在しないケースもある。より丁寧に再来患者の状況を見る必要がある(小池創一委員:自治医科大学地域医療学センター医療政策・管理学部門教授)▼特定機能病院の再来患者が「高機能病院での診療が必要な傷病なのか、地域医療機関でも対応可能な傷病なのか」などをNDB(National Data Base:レセプトデータを格納するデータベース)なども活用して分析する必要がある(池田俊也委員:国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授)▼例えば「がん」と「循環器疾患」では、長期フォローの内容なども変わってくる。がんでは特定機能病院での長期フォローの必要性が高いと考えられる。特定機能病院ごとに再来患者の状況を詳しくみるべき(井川誠一郎委員:日本慢性期医療協会副会長)—などの意見が出されました。
委員意見も踏まえて「外来医療の機能分化・連携」をさらに進めるための方策の検討を継続していきます。関連して津留委員は「紹介・逆紹介の状況は地域によって、医療機関によって異なる。一律の減算基準で良いのか検討し直す必要がある」ともコメントしています。
医療機関間の診療情報連携推進に向け、連携強化診療情報提供料の要件を柔軟化すべきか
外来医療の「連携」(かかりつけ医機能を持つ地域の中小病院・クリニックと、大病院との連携)を進めるためには「診療情報の共有」が不可欠です(機能分化だけを進め情報連携をおざなりにしたのでは、一から検査などをしなければならず、機能分化の意味がなくなる)。
この点、診療報酬では▼診療情報提供料(I)(医療機関の医師が、他医療機関受診等の必要性を認め、他医療機関や薬局、介護医療院などへの情報提供を行うことを評価する。250点)▼診療情報提供料(II)(患者がセカンドオピニオン受診を希望した場合に、その求めに応じて医療機関の医師が情報提供を行うことを評価する。500点)▼連携強化診療情報提供料(かかりつけ医機能を持つ医療機関と紹介受診重点医療機関等との情報連携を評価する。150点)—などの項目で「診療情報連携」を評価しています。

診療情報提供料(I)の概要(入院・外来医療分科会(2)3 250717)

診療情報提供料(II)の概要(入院・外来医療分科会(2)4 250717)

連携強化診療情報提供料の概要(入院・外来医療分科会(2)5 250717)
いずれの診療報酬項目も算定回数は増加傾向にあり、「医療機関間などでの診療情報連携が進んでいる」状況が伺えます。

診療情報提供料などの算定状況(入院・外来医療分科会(2)6 250717)
しかし、連携強化診療情報提供料については、連携医療機関の片方が「地域包括診療加算」「地域包括診療料」「小児かかりつけ診療料」「在宅時医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院に限る)」「施設入居時等医学総合管理料(在宅療養支援診療所・在宅療養支援病院に限る)」のいずれかを取得していなければならない、というルールがあるため、「この要件を満たさないクリニックとの情報連携が十分に評価されていないのではないか」との指摘もあります。
今後、要件見直しの議論が行われると考えられますが、井川委員は「連携強化診療情報提供料の算定は病院では大きく伸びているが、クリニックではそれほどでもない。状況を詳しく見て、必要があればシンプルな仕組みに見直すべき」と提案しています。

連携強化診療情報提供の算定例1(入院・外来医療分科会(2)7 250717)

連携強化診療情報提供の算定例2(入院・外来医療分科会(2)8 250717)
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