30年ぶりに「看護師等確保の基本指針」を改訂、看護業務の魅力PR、教育の充実、業務負担軽減などを総合実施—看護師確保基本指針検討部会
2023.8.28.(月)
看護師等確保の基本指針について「30年ぶりの改訂」論議を行う、看護業務の魅力・重要性をより強くPRするとともに、養成校教育・職場教育・生涯教育を充実し、より質の高い看護職員の確保を目指す。あわせて「業務負担軽減」にも力を入れる必要がある—。
8月24日に開催された医道審議会・保健師助産師看護師分科会の「看護師等確保基本指針検討部会」(以下、検討部会)で、こうした内容が概ね了承されました。今後、労働政策審議会の意見や、総務大臣・文部科学大臣との協議を経て「改正看護師等確保基本指針を今秋(2023年秋、10月頃予定)に告示」します。
なお、「看護補助者」について名称や業務内容の見直し論議も別に進みます。看護職員からのタスク・シフトを進めるために「看護補助者の活躍」に期待が集まる一方で、補助者のなり手が不足している状況の改善に向けて、どういった議論が進むのか注目が集まります。
6年に一度の医療計画見直しと合わせ、また必要に応じて基本指針を見直していく
1992年に「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が制定され、厚生労働大臣・文部科学大臣には「看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」(以下、基本指針)を定めることが義務付けられました。基本指針には、(1)看護師等の就業動向(2)看護師等の養成(3)病院等に勤務する看護師等の処遇改善(4)研修等による看護師等の資質向上(5)看護師等の就業促進(6)その他看護師等の確保促進—に関する事項が定められています。
基本指針に沿って看護師等の育成・定着促進策が進められ、就業看護師等(看護師・保健師・助産師・准看護師、以下同)の数は1990年の84万人から、2020年には2.1倍の173万4000人に増加するなど、大きな成果をあげています。
しかし、30年間改訂がなされず、その後の「少子高齢化の進展」「介護保険制度の創設」「働き方改革」「地域医療構想の策定」「診療報酬の大幅見直し」「新興感染症(新型コロナウイルス感染症など)の蔓延」などさまざまな動きを踏まえ、今般、基本指針見直し論議が行われているものです。
厚生労働省は7月7日の前回会合での議論を踏まえた内容(基本指針見直し案)についてパブリックコメントを募集。120件近く寄せられた意見(項目別に見れば300件程度)、さらに都道府県や労働政策審議会委員の意見も踏まえた「改正案の見直し版」をもって、8月24日の会合に提示(諮問)。前回案から次のような見直し・追記が行われています。
【看護師等の養成】について
▽「学生からの相談(生活、ハラスメントなど)へのカウンセラー対応など、学生等が必要な支援を受けられる体制の確保などの工夫、養成所内のハラスメント防止に必要な体制を整備が望ましい」旨を記載
▽「養成所で行われている看護教育の内容」と「臨床現場の看護実践」とを効果的に結びつけるべきことを記載
【病院等に勤務する看護師等の処遇改善】について
▽労働時間短縮とともに「業務負担の軽減」が必要である旨を強調
▽年次有給休暇について、「勤務割を長期的に組む」ことなどにより、計画的な休暇取得を可能とすべき旨を記載
▽「休職後の円滑な復帰」が図られるよう研修等の実施に努めるべきことを記載
▽「雇用管理の責任体制明確化」「雇用管理責任者が看護師等の雇用管理についての十分な知識・経験を持つ」旨を記載
【研修等による看護師等の資質向上】について
▽「キャリア中断からの復帰」を含めたキャリアアップの道筋を示す工夫を行うべきことを記載
【看護師等の就業促進】について
▽看護師等は「生涯にわたり研鑽を積み、様々な環境で職能を高め続ける専門職業人である」との基本的な認識に立ち、持てる能力を遺憾なく発揮できるようにすることが重要である旨を強調
ほか、▼看護師等の専門性の具体的な内容と役割を国民に対して発信する▼特定行為研修修了者、専門看護師、認定看護師その他の専門性の高い看護師の専門性の具体的な内容と役割を国民に対して発信する—ことの重要性なども追記されました。
●基本指針見直しのポイントはこちら(今後、修正の可能性あり)
●基本指針見直しの新旧対照表はこちら(今後、修正の可能性あり)
これらの見直し・追記に異論・反論は出ませんでしたが、別に▼ハラスメント対策にとどまらず、看護師等がうける「直接暴力」への対策など「職員安全」強化にもしっかり言及すべき(岡本呉賦委員:日本精神科病院協会常務理事、沼崎美津子委員:南東北福島訪問看護ステーション結統括所長)▼夜勤について、複雑な勤務形態がある中でも「負担軽減」をはかるべき旨をより具体的に記載すべき(鎌倉やよい委員:日本看護系大学協議会代表理事、山口育子委員:ささえあい医療人権センターCOML理事長)▼特定行為研修修了者の配置・確保について、病院のみならず、介護施設等でも推進すべき旨を記載すべき(沼崎委員)—などの注文が付きました。
今後、萱間真美部会長(国立看護大学校長)を中心に文言調整などを行い、加藤勝信厚生労大臣に宛てて「改正内容に関する答申」がなされます。
また、「指針改定の効果・成果について、次期見直し時にしっかり検証すべき」(小野太一委員:政策研究大学院大学教授)、「指針が都道府県等にも十分に周知されるように国の協力をお願いしたい」(宮﨑美砂子委員:千葉大学大学院看護学研究院教授)、「都道府県ナースセンターの機能強化に向けた支援を十分に行ってほしい」(稲井芳枝委員:前徳島県看護協会会長(徳島県ナースセンター))との要請も出ています。いずれも非常に重要な指摘であり、今後の運用面などで配慮がなされます。
基本指針改正については、別に「労働政策審議会の議論」「総務大臣、文部科学大臣との調整」も行われ、これらを経て「改正看護師等確保基本指針を今秋(2023年秋、10月頃予定)に告示する」ことになります。
なお、今回の改正後も「看護師等確保と極めて密接に関する『医療計画』の見直し(6年に一度、次期見直しは2030年度)時や、さらに必要に応じて基本指針の改正が行われる」ことになり、その際には小野委員の指摘するように「これまでの成果・効果の検証」結果を踏まえた議論が進むと考えられます。
30年ぶりの基本指針見直しに当たり、高橋弘枝委員(日本看護協会会長)は「パブリックコメントでも現場看護師から多くの声が寄せられた。看護師が安全に、安心して働ける環境の構築が極めて重要である。国、都道府県と協力して改正基本指針に基づく取り組みに注力したい。とりわけ医療提供体制の維持確保の責任主体である都道府県には、看護師等確保に向けて、地域医療介護総合確保基金をはじめとした対応充実を期待したい」とコメントしています。
なお、看護補助者の確保・活用推進に向けて「名称の見直し」も論点の1つにあがりました。「補助や助手という名称では、目指そうと考える人がいない。その仕事に就きたいと思うような名称も重要である」との指摘が委員から数多く出ており、厚労省は「まず病院等でも好事例について情報提供するとと同時に、厚労省内部でも名称・呼称の見直しを考えていく」としています(検討の場を設置するか否かは未定)。厚労省の調査研究によれば、「看護アシスタント」「ナースエイド」「ケアワーカー」などの名称・呼称を使用する病院も少なくないことが分かっています(関連記事はこちら)。
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