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GemMed塾 DPC特定病院群への昇格・維持のために今やるべきこと

医療DX推進に向け「電子カルテ情報共有サービスの費用を誰がどう負担するのか」等の具体的論議始まる—社保審・医療保険部会(2)

2024.9.3.(火)

医療DXをさらに推進していくために、「電子カルテ情報共有サービスの費用を誰がどう負担するのか」、「標準型電子カルテの普及に向けた支援をどのように考えていくべきか」、「公的データベース(NDBや介護DB、DPCデータベースなど)のデータを第三者(研究者や企業等)に仮名化情報として提供することをどのように進めていくか」といった点について議論を進め、年内(2024年)内に意見を取りまとめる—。

8月30日に開催された社会保障審議会・医療保険部会では、こうした議論も始まりました。今後、関係法令整備論議が急ピッチに進められ、年内(2024年内)の意見とりまとめが目指されます。

なお、同日の医療保険部会では「一定所得以上の後期高齢者について、医療機関等の窓口負担を2割に引き上げたことの影響」報告も行われており、別稿で報じます(マイナ保険証利用促進策に関する記事はこちら)。

8月30日に開催された「第181回 社会保障審議会 医療保険部会」

マイナ保険証の利用実績が上昇しているが、まだ十分とは言えない

診療情報(レセプト情報や電子カルテ情報、処方箋情報など)を集積し、患者自身はもちろん、全国の医療機関で共有・閲覧可能とする(医療DX)ことで、例えば「この患者にはAという薬が処方されている。今、Bという薬を処方しようと思ったが、併用に注意点があるので、別のB1という薬に変更しよう」、「この患者にXという検査を行おうと思ったが、すでに先週、別の医療機関でXを包含する検査を行っているようだ。その検査結果を活用しよう」、「私は●●の検査結果が改善していない、かかりつけの医師の指示をもとに生活習慣を改善しよう」といった具合に質の高い効果的・効率的な医療提供が可能になると期待されます。また、先の能登半島地震では、こうした過去の診療情報を活かし「患者にどのような治療が行われ、どのような薬が処方されているのか」を把握し、適切な医療提供が可能となったとの実績もあがっています。

政府は、こうした医療DXの動きを加速化するために、昨年(2023年)6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を取りまとめ、例えば▼全国の医療機関で電子カルテ情報を共有可能とする仕組みを構築し、2024年度から順次稼働していく▼標準型電子カルテについて、2030年には概ねすべて医療機関での導入を目指す—などの具体的なスケジュールを示しています。

医療DX工程表の全体像



厚労省もこの工程表に則り、▼電子カルテ情報共有サービスの実現▼標準型電子カルテの普及▼医療・介護情報の2次利用推進—などの取り組みを進めており、武見敬三厚生労働大臣は「近未来健康活躍社会戦略」の中で「医療・介護DX」を更に推進していく方針を明確にしています。

8月30日の医療保険部会では、厚生労働省医政局の田中彰子参事官(特定医薬品開発支援・医療情報担当)(医政局特定医薬品開発支援・医療情報担当参事官室長併任)が次のような医療DXの推進状況・今後のスケジュールを報告しました。

(1)電子カルテ情報共有サービス
▽電子カルテ情報共有サービス(各医療機関・患者が電子カルテ情報を共有・閲覧可能とする仕組み)について、2023年3月9日の健康・医療・介護情報利活用検討会「医療情報ネットワークの基盤に関するワーキンググループ」で大枠を固めた
▽▼2023年度から社会保険診療報酬支払基金でシステム構築を行う▼2024年度中(2025年1月から)にモデル医療機関でスタートする▼2025年度中に本格運用する—といったスケジュールで進められており(関連記事はこちら)、2030年度に「概ねすべての医療機関」での導入を目指す(関連記事はこちら(医療DXの推進に関する工程表)

電子カルテ情報共有サービスの概要(医療情報利活用ワーキング(1)1 240610)

電子カルテ情報共有サービス運用までのロードマップ(医療等情報利活用ワーキング12 240124)



(2)電子カルテ情報の標準化
▽電子カルテをすでに導入している医療機関では「標準化情報(HL7FHIR)の授受を可能とするよう改修」が、未導入医療機関では「標準型電子カルテの新規導入」が必要となる

▽後者の標準型電子カルテについては、まず「無床診療所向けの標準型電子カルテα版」の開発がデジタル庁で進められ、▼来年(2025年)1月から一部のクリニックにおいてモデル事業を開始▼そこで得られた知見をもとにα版改修等を行い、より多くのクリニックへの普及を図る

診療上向けの標準型電子カルテα版のスケジュール(社保審・医療部会(1)1 240712)

電子カルテ標準化スケジュール(社保審・医療部会(1)2 240712)



▽既に電子カルテを導入している医療機関では、自院の電子カルテについて上記6情報を標準規格(HL7FHIR)で授受できるように改修する必要があります。一般的に電子カルテシステムは5-7年ごとにシステム改修が行われることから、そのタイミングに合わせて標準化対応の改修も行えるよう、改修費を補助する(本年(2024年)3月から申請受付がスタート、関連記事はこちら)。
【健診実施医療機関の場合(健診部門システム導入済医療機関)】
▼200床以上病院→657万9000円を上限に補助(事業額1315万8000円を上限に、その2分の1を補助する)
▼200床未満病院→545万7000円を上限に補助(事業額1091万3000円を上限に、その2分の1を補助する)

【健診未実施医療機関の場合(健診部門システム未導入医療機関)】
▼200床以上病院→508万1000円を上限に補助(事業額1016万2000円を上限に、その2分の1を補助する)
▼200床未満病院→408万5000円を上限に補助(事業額817万円を上限に、その2分の1を補助する)

病院に対する電子カルテ改修補助(医療情報等利活用ワーキング(1)3 240610)



(3)医療等情報の2次利用(関連記事はこちら
▽医療・介護等の公的データベース(NDBや介護DBなど)の情報を、より生データに近い形で「本人特定を不可能」とし(仮名化)、それらを連結解析し、「新たな治療法の開発」や「効果的な疾病対策」につなげられる仕組み(第三者への情報提供)を構築する

▽電子カルテ情報共有サービスで共有される臨床情報についても「2利用を可能とする」方向で検討する

▽公的データベースの情報、電子カルテ情報を適切に第三者提供するための「情報提供基盤」を構築する

医療・介護DBの利活用推進(社保審・医療保険部会(2)1 240830)



(4)PMH
▽自治体・医療機関をつなぐ情報連携基盤(PublicMedicalHub:PHM、自治体が実施する子供医療費助成、予防接種、母子保健分野における情報を医療機関・薬局に連携してマイナンバーカードによりそれらの情報を活用する取り組み)を構築・推進する

▽2023年度に16自治体87医療機関・薬局を選定し、医療費助成の分野は本年(2024年)3月から事業を開始し、予防接種・母子保健分野は本年(2024年)夏頃を目途として順次開始していく

▽本年度(2024年度)は、医療費助成分野で更に174自治体を選定し、累計177自治体(20都府県、157市町村)において先行実施を進める
→予防接種・母子保健分野では予防接種B類の追加、里帰り出産への対応等のPMHの機能拡充を予定している

PMHの推進(社保審・医療保険部会(2)2 240830)



(5)診療報酬DX(関連記事はこちらこちら
▽▼共通算定モジュール(自動的に医療費・患者負担などを計算する仕組み)の開発・運用(2025年度から試行し、2026年度にクラウドで実装予定)▼共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善(2024年度から順次実施)▼標準様式のアプリ化とデータ連携▼診療報酬改定施行時期の後ろ倒し(2024年度から実施)—を進める

診療報酬改定DX対応方針

診療報酬改定DXの取り組みスケジュール



また、こうした医療DXの実施主体については、▼社会保険診療報酬支払基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する▼改組にあたっては、地方関係者の参画を得つつ、国が責任をもってガバナンスを発揮できる仕組みを確保し、絶えず進歩するIoT技術やシステムの変化に柔軟に対応して一元的な意思決定が可能となる仕組みとする—方針も田中参事官から明確化されました(関連記事はこちら)。



ところで、医療DXを上記の方針に沿って進めるためには「制度的な裏付け」が必要となります。例えば、「電子カルテ情報共有サービスを運用等するためのコスト(費用)を誰が、どのような形で負担するのか」、「公的データベースの『仮名化』情報を第三者に提供するための法的根拠をどう考えるのか」などを決めておかなければ、医療DXを推進し、その果実を国民が享受できる環境が整いません(法的根拠なしに公的データベースのデータを第三者に提供することは認められない)。

そこで田中参事官は、、制度的な対応(例えば法律改正など)を行うにあたり、その内容を、今後、医療保険部会と医療部会で議論してほしいと要請しました。

(1)全国医療情報プラットフォームの構築等
▽電子カルテ情報共有サービス(医療機関から支払基金等に電子カルテ情報(3文書6情報)を電子的に提供し、本人や他医療機関等が当該情報を閲覧できる仕組み)の構築
→電子カルテ情報共有サービスの運用費用の負担のあり方をどう考えるか
→次なる感染症危機に備えた、「電子カルテ情報と感染症発生届の連携」など、電子カルテ情報共有サービスの利用などをどう考えるか
→標準型電子カルテの開発・普及、運用費用の負担のあり方をどう考えるか

▽PMH(Public Medical Hub:自治体-医療機関の情報連携の仕組み)による公費負担医療制度等の資格情報等の連携
→公費負担医療制度等、介護保険制度における電子的な資格確認の導入、普及、運用費用の負担のあり方をどう考えるか
→自治体検診情報の医療機関等への共有をどのように行うか

▽診療報酬改定DXの推進
→共通算定モジュールの開発・普及、運用費用の負担のあり方などをどう考えるか

(2)医療等情報の2次利用の推進
▽電子カルテ情報等に係る公的データベースの構築

→電子カルテ情報共有サービスで収集するカルテ情報の2次利用(電子カルテ情報データベース(仮称))の構築をどう進めるか

▽医療・介護等の公的データベースの「仮名化」情報の利用・提供等をどう進めるか
→レセプト・介護レセプト・DPCデータ等の仮名化情報の利用・提供をどう進めるか
→各公的データベース間での仮名化情報の連結解析や、次世代医療基盤法の認定作成事業者の仮名加工医療情報との連結解析をどう進めるか

▽情報連携基盤の構築、利用手続のワンストップ化、コード標準化
→公的データベース等を研究者や企業等が一元的かつ安全・効率的に利活用できるVisiting環境(クラウド)の情報連携基盤の構築、利用手続きのワンストップ化などをどう進めるか
→医療情報の標準化・信頼性確保等の取り組みをどう推進していくか

(3)実施体制(支払基金の抜本改組による「医療DX推進機構」(仮称)の構築)
▽国のガバナンス強化
→厚生労働大臣が医療DXの総合的な方針(医療DX総合確保方針(仮称))を示し、支払基金が中期的な計画を策定する仕組みをどう考えるか
→支払基金の改組により、医療保険者に加え、国・地方が支払基金の運営に参画することをどう考えるか

▽迅速・柔軟な意思決定
→情報技術の進歩に応じた迅速・柔軟な意思決定を可能とし、DXに精通した専門家が意思決定に参画することをどう考えるか

医療DXに関する法整備に向けた論点案(社保審・医療保険部会(2)3 240830)



具体的な議論は今後進められますが、委員からは早くも「電子カルテ情報共有サービスが概ねすべての医療機関等に導入されるのは2030年とされている。そうなった暁には『費用を誰がどのように負担するのか』の検討が必要となるが、そうなるまでの開発・準備段階においては費用は国が負担すべきである」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理、前葉泰幸委員:全国市長会相談役・社会文教委員/三重県津市長)、「公的データベースに格納されたデータの2次利用・仮名化による第三者提供が検討されるが、個人識別のリスクが高まると思う。個人情報保護や漏洩対策に力を入れるとともに、現在の匿名化と、これからの仮名化との違い、仮名化情報提供により誰がどのようなメリットを受けられるのかなどを詳しく説明してほしい」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)、「支払基金の改組にあたり、支払基金と医療機関との間でこれまでに醸成された信頼関係が崩れることのないように留意してほしい」(城守国斗委員:日本医師会常任理事)などの注文がついています。

今後、医療保険部会・医療部会で年内(2024年内)に意見をとりまとめるべく、「医療DX推進」論議が加速していきます。



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