紹介状なし患者の特別負担拡大、一定所得以上の後期高齢者の2割負担論議を確認―社保審・医療保険部会
2020.12.21.(月)
紹介状なし患者の特別負担徴収義務を拡大するとともに、当該患者では保険給付の一部を控除し、その分を特別負担に上乗せする。例えば初診患者では、現行5000円以上の特別負担が課されているところ、7000円以上の特別負担が課されることになる。かかりつけ医等からの紹介状を持参すれば、こうした特別負担は発生しない―。
後期高齢者のうち「課税所得28万円以上および年収200万円以上」の者では、医療機関や薬局での窓口負担を2割に引き上げる。ただし激変緩和措置として、3年間は「最大でも引き上げ幅が3000円」に収めるようにする―。
12月17日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。近く意見取りまとめが行われます。
紹介状なし患者、保険給付の一部が控除され、初診では7000円以上の特別負担
Gem Medでお伝えしたとおり、政府の全世代型社会保障検討会議(12月14日)において▼一定所得以上の後期高齢者について、医療機関等の窓口負担を2割に引き上げる▼紹介状なし患者への特別負担(定額負担)徴収義務について、対象病院の拡大などを行う—などの医療保険制度改革方針が決定され、翌15日に閣議決定されました。
医療保険部会ではこれを受けて意見取りまとめに向けた最終議論を開始しています。
まず後者の「紹介状なし患者への特別負担(定額負担)徴収義務」については、次のような見直しが行われます。
(A)「一般病床・療養病床を持つ医療機関」(病院・有床診療所)に外来診療に係るデータを都道府県に報告することを義務付ける【外来機能報告制度】
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(B)提出された外来診療データをもとに、各地域で「医療資源を重点的に活用する外来を基幹的に担う病院」(紹介中心型の病院)を明確化する
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(C)「医療資源を重点的に活用する外来を基幹的に担う病院」へは、かかりつけ医等からの紹介受診を原則とし、紹介状を持たない患者からは特別負担を徴収する(除外要件に該当する場合以外は義務)
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(D)当該「紹介状なし患者」については、保険給付の一部を控除(例えば初診患者では2000円程度)し、その分、特別負担額を引き上げる(初診であれば現在の5000円+2000円→7000円程度以上など)
12月17日の医療保険部会では、上記(D)の「保険給付の一部控除」について「例外的・限定的な取り扱い」である旨を強調すべきとの考えが松原謙二委員(日本医師会副会長)や池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)から示されました。この点、12月18日に開催された日本病院団体協議会の代表者会議でも「この手法が拡大される」点への強い懸念が示されています。
また(B)の「紹介中心型病院」の明確化(=特別負担徴収病院)に関しても両委員は「病院の手上げで明確化し、一定の基準に合致し場合に機械的に対象に組み入れられるわけではない」旨を再確認。この点、厚労省保険局保険課の姫野泰啓課長は「社会保障審議会・医療部会等において『病院の手上げをもとに地域で明確化する』方向で議論が進んでいる」旨を改めて説明しています。
さらに松原委員は「外来医療の機能分化を進めるためには、大病院からクリニック等への『逆紹介』が極めて重要である」とし、今後の中央社会保険医療協議会論議に期待を寄せています。
なお、このほかに多くの委員から「患者、国民への制度周知」の重要性が指摘されています。もちろん、病院の窓口でもこうした説明が行われますが、国や保険者が「大病院を紹介状なしに受診した場合には、保険給付の一部が控除され、特別負担が課せられること」「まずかかりつけ医等を受診し、そこからの紹介を受ければ、こうした特別負担等が発生しないこと」などを、国民・加入者に対して丁寧に、かつ分かりやすく説明することが極めて重要です。これを放置すれば「病院が儲けようとして負担額を高く設定している」と誤解し、クレームが生じかねません。こうなれば「病院スタッフの負担増」につながってしまいます。
後期高齢者のうち一定所得以上では、2022年度後半から医療機関等の窓口負担は2割に
また前者の「後期高齢者の窓口負担」については次のように政治決着しています。
▽課税所得28万円以上(所得上位30%)および年収200万円以上(単身世帯の場合、複数世帯の場合は後期高齢者の年収合計が320万円以上)の後期高齢者について、医療機関や薬局の窓口負担割合を2割に引き上げる
▽長期・頻回に医療機関を受診する患者では、負担増の影響が大きくなることから、施行後3年間、1か月分の負担増が「最大でも3000円に収まる」ような配慮措置を設ける
厚労省は、この決定を受けた影響を試算。窓口負担2割を導入しない場合には2022年度に「6万8100円の保険料」となるところ、2割負担導入によって「700円低い6万7400円」に、2025年度には「7万9700円」になるところ「800円低い7万8900円」に抑えられます。なお、施行時期は「2022年度後半」、つまり「2022年10月から2023年3月」になります(詳細は政令で定める)。施行時期により配慮措置の発現度合いが異なるため、上記試算結果にはブレが生じます(2025年度の「800円」抑制は、2023年3月末に施行された場合。その前に施行されると抑制効果は小さくなる)。
なお、配慮措置は、現在の自己負担が1か月当たり「3000円」(医療費3万円の1割負担)から「1万5000円」(同15万円の1割負担)までの人が対象となる見込みです。
こうした見直し案に対して委員からは、「2割負担になる人を主な対象として、十分な説明を行うべき」(前葉泰幸委員:全国市長会相談役・社会文教委員/三重県津市長)、「政治決着ではあるが法改正に向けた基準値の理屈づけを行う必要がある」(菊池馨実部会長代理:早稲田大学法学学術院教授)、「現役世代の負担軽減効果は微々たるものであり、さらなる改革を行うべき」(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会副会長)などの意見が出ています。
ただし池端委員は「2割負担導入は現役世代から後期高齢者へのコストシフトにとどまっており、別に財源を確保して医療保険財政の持続可能性を確保する方策を検討しなければならない」と指摘しています。
もっとも医療保険財源は「公費(税金)」「保険料」「現役世代からの支援金」「患者負担」しかなく、新たな財源確保は困難です。今後は「保険給付の在り方」(医療のどこまでを保険でカバーするのか)という医療保険制度の根幹にかかわる議論をしていかなければなりません。
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