かかりつけ医の紹介受け、「医療資源を重点活用する外来の基幹病院」受診の流れを地域ごとに構築―医療計画見直し検討会(1)
2020.11.20.(金)
外来版の地域医療構想・外来機能報告制度の姿が明確になってきました。11月19日に開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」(以下、検討会)では、厚生労働省がこれまでの議論を踏まえた論点整理案を提示。注文は付くものの、構成員から反対意見・方向修正を求める意見は出ておらず、近く、大枠が固められる見込みです。
社会保障審議会・医療保険部会では、この外来機能報告制度をベースにした「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」にも、「紹介状なし患者に対する特別負担」徴収義務を拡大してはどうか、との議論が進んでいます。
「医療資源を重点的に活用する外来を地域で基幹的に担う医療機関」の詳細は、医療法等改正を経て、別途、専門的に議論されることとなり、その行方に大きな注目が集まります。
目次
「かかりつけ医を受診し、紹介を受けて専門的外来を行う病院を受診する」流れを構築
この方針に医療界、とりわけ病院団体は「全国一律の病床数基準で、定額負担徴収義務を考えるべきではない」「病院が地域で果たしている機能に着目した議論を行うべき」と指摘。これを受けて、社会保障審議会・医療部会や検討会において、まず「外来医療の機能分化」「かかりつけ医機能の推進」に関する方向性を固めることとなりました(関連記事はこちらとこちら)。
検討会では、まず「外来医療の機能分化」を進めるためには、「医療資源を重点的に活用する外来について、医療機関ごとにその機能を明確化し、地域で機能分化・連携を進めていく枠組み」を構築してはどうかとの方向で議論してきました(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
「医療資源を重点的に活用する外来」(以下、本稿では「重点外来」と呼びます)が何かを明確にしたうえで、そうした「重点外来を中心に行っている」病院には、患者が直接受診するのではなく、「かかりつけ医等からの紹介を受けて受診する」という患者の流れを全国で構築してはどうかとの考えです。
もちろん、地域によっては「まずかかりつけ医を受診し、そこから基幹病院の専門外来を紹介してもらう。専門外来での治療が一定程度終了した後には、かかりつけ医に逆紹介を行う」という流れがすでに構築されています。しかし、▼こうした流れが構築できていない地域もある▼患者・地域住民にとって、病院の機能(とりわけ外来機能)が分かりにくい―ことから、全国的な仕組みを構築する必要があるのではないかとの考えを厚労省医政局総務課の熊木正人課長は説明しています。
重点外来とは何かの詳細は、今後、別の検討の場で専門的な検討が行われますが、これまでに、▼医療資源を重点的に活用する入院の前後の外来(手術や麻酔を算定する患者が、術前の説明・検査、術後フォローアップを外来で受ける場合など)▼高額等の医療機器・設備を必要とする外来(外来化学療法加算や外来放射線治療加算を算定する場合など)▼紹介患者に対する外来(【診療情報提供料I】の算定から30日以内に別医療機関を受診した場合の、当該別医療機関など)―が浮上しています。
外来医療のデータ収集のため「外来機能報告」制度を設け、病院・有床診に報告義務付け
検討会では、データをもとに「個々の病院が重点外来をどの程度実施しているのか」を把握し、地域で「重点外来を基幹的に行う病院」(以下、重点外来基幹病院と呼ぶ)を明確化。重点外来基幹病院には「かかりつけ医等からの紹介」受診を原則とする、という患者の流れを全国で構築したい考えです。
このデータ収集は、入院における病床機能報告に倣い、NDBデータに基づく「外来機能報告制度」を新設することになります。医療現場の負担を考慮し、▼国がレセプトデータから「医療資源を重点的に活用する外来医療」の実施状況を集計し、それを各医療機関に提示する▼医療機関でそのデータをチェックする—という流れになる見込みです。
厚労省は、「一般病床・療養病床を持つ医療機関」に外来機能報告を義務付け、病床機能報告とセットで「データの収集」を行う考えを明確にしました。無床診療所については「任意で報告する」ことが可能です。
地域の実情を踏まえ、「重点外来」を基幹的に行う病院を明確化
このようにして集積されたデータを踏まえ、例えば「全外来患者に占める重点外来患者の割合が一定以上」の病院を重点外来基幹病院とする、ことなどが考えられます。この割合を、仮に「初診患者で50%以上」と設定すると、特定機能病院の98%、地域医療支援病院の75%が、病床規模別に見ると、▼200床台では17%▼300床台では33%▼400床台では47%▼500床以上では72%―が該当します。
もっとも、地域によって状況(医療資源、病院の機能、人口動態、医療へのアクセス状況など)が異なることなどから、これまでに次のような考え方が整理されてきています。
▽重点外来基幹病院の明確化は、地域における協議(例えば地域医療構想町営会議を活用するなど)で行う(病院側による「手上げ」方式とする)
▽国は「参考値」(例えば上記で例示した「初診における重点外来の割合が50%以上」など)を示し、これを参考に地域の実情を踏まえて「地域における協議の場」で検討する
したがって、「●●の基準に合致したので、◆◆病院を当該地域の重点外来基幹病院として指定する」などの機械的な明確化が行われるわけではありません。Gem Medでお伝えしたとおり「重点外来基幹病院」となった場合には、「紹介状なし患者から特別負担(初診時に7000円、再診時に3000円など)を徴収する義務」が課せられることになります。医療資源の少ない地域では200床、300床の比較的規模の大きな病院が「かかりつけ医」機能も兼ねているケースがあり、こうした病院では「自院は地域密着型の病院として、紹介状のない患者も受け入れている。このため重点外来基幹病院に手上げするのは控えよう」と判断することになるでしょう。
一方で「自院では紹介患者に対し専門的な外来診療を中心に行いたいと考え、そうした体制・設備整備も行っている。当該地域にはクリニックも比較的多く、『当院は原則、紹介患者のみ』としても住民の医療アクセスを阻害することにならないであろう」と考える病院では、積極的に重点外来基幹病院に手上げをしていくことになるでしょう。
この点、検討会では、「重点外来基幹病院の名称が重要」との意見が山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)や幸野庄司構成員(健康保険組合連合会理事)、尾形裕也構成員(九州大学名誉教授)らから相次いでいます。例えば、「高機能外来」などの名称を付せば、「この病院にかかれば高機能な医療を受けられるのか。7000円で高機能な医療を受けられるのであれば安いものだ」と考えてしまう人も少なくないでしょう。これでは「外来機能の分化」を実現できません。一般の患者・住民が「子の病院は紹介を受けてかかることが原則である」ことを正しく理解できるような名称を今後検討していくことになります。
なお、当面「重点外来基幹病院は病院単位で明確化する」ことになります。しかし、1つの病院でも「●●科は総合的に多くの患者を診療するが、◆◆科は専門的に紹介患者を中心とする」といった診療科間の差もあるため「診療科ごとに重点外来を把握する」検討も進められます。ただし、一般の患者・住民には「わかりにくくなる」恐れもあり、慎重な検討が必要でしょう。
重点外来基幹病院に紹介を行う、「かかりつけ医」の明確化・強化も重要課題
このように重点外来基幹病院を受診するには、まず「かかりつけ医などを受診し、そこから紹介を受ける」ことが基本的な流れとなります。
しかし、「かかりつけ医」の定義は必ずしも明確になっていません。
日本医師会と四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)では2013年に「なんでも相談できる上、最新の医療情報を熟知して、必要な時には専門医、専門医療機関を紹介でき、身近で頼りになる地域医療、保健、福祉を担う総合的な能力を有する医師」と定義づけし、かかりつけ医機能を明確化する合同提言を行っていますが、「共通認識」「明確な定義」となっているわけでもなく、また医療現場等への浸透も必ずしも十分ではありません。さらに、一般の患者・住民には「どこにかかりつけ医機能を持った医師がいるのか」などの情報を十分に得られる状況にもなっていません。
このため、「紹介状を得て重点外来基幹病院を受診する」流れの起点となる「かかりつけ医」について、▼その機能を発揮している事例等を調査・研究し、好事例の横展開を図る▼医療関係団体による「かかりつけ医機能を強化するための研修」などを支援する▼国民・患者が「かかりつけ医機能を担う医療機関等を探しやすくする」などの取り組み(例えば、医療機能情報提供制度の改善など)を進める—考えが厚労省から示されました。
極めて重要な視点ですが、検討会では「外来機能報告制度に比べて、抽象的すぎる」との指摘が尾形構成員らから相次いでいます。今後、さらに「かかりつけ医機能の明確化」「かかりつけ医機能の強化」などに向けた具体的な議論が進むことに期待が集まります。
重点外来基幹病院には、「紹介状なし患者からの特別負担徴収義務」が課せられる見込み
このような「外来機能報告制度を創設して、データに基づいて重点外来基幹病院を明確化し、かかりつけ医からの紹介による受診の流れを推進していく」仕組みの大枠は、検討会で概ね了承されたと言えます。近く、最終的な意見取りまとめを行ったうえで、「医療部会への報告、承認」→「医療法改正」などが行われることになります。
また、上述のとおり「重点外来基幹病院」には、紹介状なし患者から特別負担を徴収する義務が課せられる見込みです(医療保険部会で議論中)。特別負担徴収義務の拡大は「遅くとも2022年度初から実施する」こととされており、重点外来基幹病院の詳細(重点外来とは何か、基幹病院の基準をどう考えるか、基幹病院明確化の手続きをどう仕組むか、など)を別の検討で急ぎ固めていくことも今後の重要検討事項となります(どれだけ遅くとも2021年度中に詳細を固めなければ、2022年度に特別負担徴収義務が拡大できなくなってしまう)。
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