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新興・再興感染症対策を医療計画・地域医療構想の中でどう勘案していくべきか―医療計画見直し検討会

2020.10.2.(金)

新型コロナウイルス感染症が蔓延する中で、「新興・再興感染症対策」が医療提供体制の再構築においても重要な検討テーマとなる。まず感染症法における取り組みの効果を検証し、その結果を踏まえて医療計画の中に「感染症対策」を位置付けるべきか、などを議論してはどうか―。

また地域医療構想の中で「感染症対策」どう勘案するべきか、機能分化や再編・統合の再検証が求められる約440の公立・公的医療機関について「感染症対応機能」をどう勘案していくかを、地域医療構想ワーキングで議論してはどうか―。

さらに、新型コロナウイルス感染症の影響も踏まえた「外来医療の機能分化」論議を再開させてはどうか―。

10月1日に開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」(以下、医療計画見直し検討会)で、こういった方針が了承されました。

10月1日に開催された、「第21回 医療計画の見直し等に関する検討会」(新型コロナウイルス感染症対策のために一部委員はオンラインで出席)

感染症対策を「医療計画」の中に位置付けるべきか、まず感染症法の取り組みを検証

本年(2020年)初頭から、世界各国で新型コロウイルス感染症が猛威を振るい、多くの方が罹患し、尊い命も奪われています。我が国では医療現場の努力もあり、感染拡大・死者の発生を非常に低い水準に抑えられていますが、▼医療機関間の役割分担・連携体制の構築▼感染防護具や医療用物資の確保・備蓄▼局所的な病床数不足(感染症病床を超えて、一般病床での対応も必要となった)▼特定の診療科における医師不足、看護師等の不足―などの医療提供体制上の課題・問題点が浮き彫りとなっています。

今秋冬には患者数が再び増加し、「新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザと並走する」ことが、さらに将来、新型コロウイルス感染症とは別の新興・再興感染症が流行する可能性も指摘されています。このため政府は、新型コロナウイルス感染症対策を契機に、「新興・再興感染症対応に係る医療連携体制」を構築する必要性を確認しています。



一方、少子高齢化は依然として進んでおり、そうした中では効果的・効率的な地域医療提供体制の再構築が求められ、「地域医療構想の実現」等を急ぐ必要があります。8月24日に開催された社会保障審議会・医療部会では、「新型コロナウイルス感染症対策を進める中で、我が国の医療提供体制の課題がより明確となった。▼地域医療構想の実現▼医師働き方改革の実現▼医師偏在の解消―を加速する必要がある」との意見が相次ぎました。



さらに、政府の全世代型社会保障検討会議では、「大病院への患者集中を防ぎかかりつけ医機能の強化を図るための定額負担の拡大」(大病院を紹介状なしに受診した場合の特別負担の拡充)を進める方針を打ち出しており、本年末(2020年末)に結論を出すこととしています。



こうした状況を踏まえて医療計画見直し検討会では、次の3点を今後の検討テーマに据える方針を決定しました。

(1)「新興・再興感染症対応に係る医療連携体制」を医療計画の中でどのように考えるか
(2)新興・再興感染症対応の内容を踏まえつつ、将来の医療需要を見据えた病床機能の分化・連携(地域医療構想)をどう進めるか
(3)新興・再興感染症対応の内容を踏まえつつ、外来機能の分化・連携をどう進めるか



まず(1)の医療計画の中には、広範かつ継続的な医療提供が必要な疾病(5疾病:がん、脳卒中、心血管疾患、糖尿病、精神疾患)や、地域医療確保に必要な事業(5事業:救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)、さらに在宅医療について、地域の状況を踏まえて対応方針(どの程度の医療体制が必要で、具体的にどの医療機関が対応するかなど)を記載することが求められます。しかし、新型コロウイルス感染症に代表される「新興・再興感染症」対策については5疾病・5事業には含まれず、医療計画への記載は求められていません。

この点、上述のような課題が浮き彫りとなる中では「医療計画の中に新興・再興感染症対策を明確に位置付けるべきではないか」という指摘も出ており、医療計画見直し検討会でもそうした意見が多数出されました(先の医療部会でも同旨の指摘がなされている)。

もっとも新興・再興感染症については、感染症法で対策方針等が規定されています。具体的には、厚生労働大臣が対策の「基本方針」を示し(法第9条第1項)、各都道府県がこれを踏まえて「予防計画」を作成する(法第10条第1項)ことになっており、例えば都道府県の「予防計画」には▼地域における感染症医療提供体制(感染症指定医療機関の整備目標、一般医療機関における感染症患者に対する医療提供など)▼感染症の発生予防・蔓延防止・医療提供のための施策(国との連携、自治体間の連絡体制など)―を盛り込みます。

感染症法において、厚生労働大臣は感染症対策の基本指針を定め、それに沿って都道府県が予防計画を定めることとなっている(医療計画見直し検討会 201001)



このため、まず、こうした「感染症法の対応」について▼現在の内容で十分か▼改善すべき事項はないのか▼運用上の課題はどこにあったのか―などを検証し、その結果を踏まえて「医療計画の中でも、新興・感染症対策を位置付ける必要があるか」を改めて検討していくことが求められます。現時点では、「感染症法の対応」の効果等も明らかになっておらず、医療計画の中で何を規定すれば効果的かなどが不明瞭だからです。

今後、厚生労働省の別の審議会・検討会等(例えば厚生科学審議会の部会・分科会などが考えられる)で検証を進め、その結果を踏まえて医療計画見直し検討会で議論することになります(医療計画の中で感染症対策を位置付けるのか、位置付けるとした場合、どういった点を記載すべきかなど)。

ところで医療計画については、現在「第7次計画」が動いており、2020年度・21年度に「中間見直し」が行われます(2018年度スタートの第7次計画から「6年計画」となったため、3年後に中間見直しを行う、関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。医療計画の作成・見直し責任を負う「都道府県」の代表として参画する野原勝構成員(岩手県保健福祉部長)は、新興・再興感染症対策を医療計画に盛り込むこととなった場合、「中間見直しで盛り込むことになるのか、2024年度からの第8次計画で盛り込むことになるのか」に注目しました。この点、議論がまだスタートもしていないことから具体的なスケジュールを見通すことは極めて困難ですが、厚労省医政局地域医療計画課の担当者は「今年度(2020年度)に中間見直しを行っている都道府県が半数程度ある。そこに、今から『新興・再興感染症対策も加味した見直しを行ってほしい』と求めることが現実的かどうかも考えなければいけない」とコメントしています。中長期的な検討課題となる可能性もあるでしょう。

地域医療構想の中で感染症対策をどう考えるか、再検証対象医療機関は見直されるのか

(2)の地域医療構想は、2025年度における医療ニーズを定量的に予測して、それに過不足なく応えられるだけの病床数を▼高度急性期▼急性期▼回復期▼慢性期等―の機能別に整備することを目指すものです。例えば、地域で「回復期のベッドが不足しており、逆に急性期病床は将来的に過剰になる」と見通されれば、地域の医療関係者の協議で「急性期病床から回復期病床への転換」を進めていくことになります。

地域医療構想の概要(医療計画見直し検討会2 200228)



医療ニーズは地域の人口構成と極めて密接に関係するため、平時に必要となる病床数などは、新型コロウイルス感染症が蔓延したとしても大きな影響を受けることはありません。しかし、今般の新型コロナウイルス感染症による教訓(局地的な病床不足など)を踏まえて「地域医療構想の中でも、感染症に対応するための病床を勘案すべき」との指摘も出てきています。

医療計画見直し検討会でも、岡留健一郎構成員(日本病院会副会長)や今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)から、「急性期の大病院に一定の『余力』が必要なことが、新型コロナウイルス感染症に対応する中で痛感された。ベッド数削減論議からのパラダイムシフトが必要である」と指摘しています。

このほか、▼機能転換や再編・統合の再検証を求められている約440の公立・公的等医療機関の中にも、新型コロナウイルス感染症対策で重要な役割を果たしているところが少なからずあり、再検証対象病院の在り方を検討しなおすべきではないか(野原構成員)(関連記事はこちらこちらこちらこちら)▼2040年を見据えた「ポスト地域医療構想」についても検討を開始すべきではないか(尾形裕也構成員:九州大学名誉教授)▼ベッド数だけでなく、人材確保も重要な視点ではないか(吉川久美子構成員:日本看護協会常任理事)―などの指摘も出ており、下部組織である「地域医療構想に関するワーキンググループ」で検討を行っていく方針が決まりました。



近く、地域医療構想ワーキングが再開され、そこで具体的な論点を改めて固めることになりますが、▼感染症対策▼再検証に向けた取り組み▼地域医療構想実現の加速化―などが議論されると予想されます。

なお、Gem Medを運営するグローバルヘルスコンサルティング・ジャパン代表取締役社長の渡辺幸子も参画している「コロナ危機下の医療提供体制と医療機関の経営問題についての研究会」(座長:小宮山宏・三菱総合研究所理事長/プラチナ構想ネットワーク会長)では、新型コロナウイルス感染症による医療提供体制の逼迫は、「病床などの絶対数が足りない」わけではなく、「医療資源の適切な配分が行われていない」(ミスマッチ)ことが主因であると分析。「感染症対策等のために、地域の病床数を増やそう」という動きに強い警戒感を示しています。

今後、客観的なデータに基づいた議論が地域医療構想ワーキングで進むことに期待が集まります。

新型コロナの影響も踏まえて、「外来機能分化」論議を近く再開

また(3)は、上述した全世代型社会保障検討会議の指摘を踏まえて、外来医療の機能分化論議を再開するものです(関連記事はこちらこちらこちらこちらこちら)。

この点、城守国斗構成員(日本医師会常任理事)や山口育子構成員(ささえあい医療人権センターCOML理事長)、幸野庄司構成員(健康保険組合連合会理事)らは、新型コロナウイルス感染症によって外来医療の在り方が変化している点を踏まえた議論を行うよう要望。厚労省医政局総務課の高宮裕介企画官は、▼患者の受診控え▼新たな発熱外来の設置▼新型コロナウイルス感染症以外の一般医療提供の必要性―などの要素を例示し、データに基づく「外来機能分化論議」を行っていく方向を確認しています。

全世代型社会保障検討会議では、今年末(2020年末)に結論を出すことを求めており、今後、医療計画見直し検討会において、精力的に本テーマの議論が進むと予想されます。



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