地域医療構想の実現に向け、詳細なデータ提供・公表を継続せよ―医療計画見直し検討会
2019.10.23.(水)
第7次医療計画の見直しに向けて、指標の見直し(追加等)を2019年中に固める。周産期医療・小児医療については、医療提供体制の整備はもちろん、「災害時の医療体制確保」「産婦人科医と精神科医との連携強化」が進むような見直しを検討していく。ただし、少子化も踏まえ「医療機関の集約化・重点化」も重要な検討課題となる―。
10月18日に開催された「医療計画の見直し等に関する検討会」(以下、検討会)で、こういった議論が行われました(関連記事はこちらとこちら)。
また、ダウンサイジングや機能分化を含めた再編統合を検討する424公立病院・公的病院等に関連し、「地域の特性を踏まえた丁寧な議論を行い、機械的に再編統合を進めるものではない」ことを確認した上で、構成員からは「今後も詳細なデータ提供・公表を継続していくべきである」とのエールが厚生労働省に送られました。
目次
中間見直しは「指標の小幅修正」等にとどめることを再確認
2014年施行の地域医療介護総合確保法(地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律)により、医療・介護連携を進めるために、従前の「5年を1期とする」医療計画から「6年を1期とする」医療計画に改めました。これにより「3年を1期とする」介護保険事業(支援)計画と歩調を合わせることが可能となります。
現在、2018-2023年度を対象とする第7次医療計画が稼働していますが、6年間は長期間であり、その間に地域医療を取り巻く状況が大きく変化することから、「3年後」(第7次医療計画では2021年度)に中間見直しを行います。
検討会では、▼2019年中に見直し事項等を検討会で固める → ▼2019年度中に医療計画見直し指針を厚労省で定める → ▼2020年度に各都道府県で見直し作業を進める → ▼2021年度から見直し後の第7期医療計画を稼働させる―というスケジュールを確認。
また中間見直しが大きなものとなれば、「前提が崩れ、これまでの都道府県の取り組みが水泡に帰してしまう」こともありうるため、検討会では「小幅な見直し」(5疾病・5事業および在宅医療ごとの課題把握や、指標の見直し(追加)など)にとどめる点も再確認しました。
一方、▼指標の在り方▼PDCAサイクルを推進する施策―など、大きな見直しについては、2024-2029年度を対象とする第8次医療計画に向けて、2020年度以降の検討会で議論をしていくことになります。
10月18日の検討会では、「医師の働き方改革が2024年4月からスタートするため、地域の医療提供体制にも一定の影響が出るのではないか。そうした影響をチェックできる指標の検討を行うべき」(城守国斗構成員:日本医師会常任理事)、「2020年度から都道府県の医師確保計画がスタートする。この効果をチェックできる指標も検討する必要がある。中間見直しで対応するとすれば、データ等を2020年3月までに都道府県に提供する必要がある」(今村聡構成員:日本医師会副会長)といった意見が出されました。主に第8次医療計画に向けて検討すべき課題と考えられます。
産婦人科医と精神科医との連携強化、災害時の周産期・小児医療確保対策など急げ
医療計画の見直し(中間見直しを含めて)は、▼5疾病・5事業および在宅医療のそれぞれについて今後の在り方を議論する「検討の場」(検討会や研究班)で、課題を整理し、事業を評価する指標案を定める▼「検討の場」の指標案等をベースに検討会で全体を整理する―という流れで行われます。
10月18日の検討会では、5疾病・5事業のうち▼周産期医療▼小児医療―について、課題と見直しの方向性が報告されました。
まず周産期医療については、例えば▼地域医療構想調整会議で「周産期医療提供体制に関する協議」を行った都道府県は少数派(周産期医療協議会は全都道府県で開催されているが、地域医療構想調整会議との連携・整合性が重要テーマとなっている)▼災害時小児周産期リエゾン(災害時に、都道府県が小児・周産期医療の総合調整を適切・円滑に行えるよう、都道府県災害医療コーディネーターをサポートするために都道府県から任命された者)に関する目標は全都道府県で設定されているわけではない▼「療養・療育支援」に関し、現状把握も目標設定もしていない都道府県が多い―などの課題があります。
また小児医療に関しては、▼地域で小児科医師の確保が難しく、小児中核病院・小児地域医療センターを設置していない県もある▼地域医療構想調整会議で「小児医療提供体制に関する協議」を行った都道府県は少数派▼小児医療に係る協議会を開催していない都道府県もある▼小児への訪問看護に関する目標設定を行っていない県が大多数―といった課題があります。
厚労省は、こうした課題の解消に向け、次のような点の改善が必要と考えています。
【周産期医療について】
▽産科・小児科の医師偏在対策(▼周産期医療に係る医療計画と産科・小児科の医師確保計画の整合性確保(新生児医療を担う医師は、多くの場合小児科医師)▼周産期医療圏の定義明確化と医療圏の見直し▼医療機関の集約化・重点化―など)
▽妊産婦に対する医療体制の整備(▼産婦人科以外の医師に対する妊産婦診療に関する研修▼妊産婦診療に係る相談窓口の設置―など)
▽災害対策(▼災害時小児周産期リエゾンの任命▼災害に対応したインフラ整備―など)
▽周産期医療体制構築に係る指標の見直し
▽周産期医療における機能分化・連携の推進(▼NICU・MFICUの重点化など)
【小児医療について】
▽産科・小児科の医師偏在対策(▼小児医療に係る医療計画と小児科の医師確保計画の整合性▼小児医療圏の定義明確化と医療圏の見直し▼医療機関の集約化・重点化▼小児医療に係る協議会の設置明確化―など)
▽子ども医療電話相談事業(#8000事業)の整備と周知
▽災害対策(災害時小児周産期リエゾンの任命など)
▽小児医療体制構築に係る指標の見直し
▽小児医療における機能分化・連携の推進
今後、こうした項目について「第7次医療計画の中間見直しで対応するのか」「第8次医療計画の中で対応するのか」の切り分けを検討会で行っていきます。
構成員からは、「大災害が毎年のように、各地で発生する状況を踏まえ、災害時の医療提供体制の確保を緊急に進める必要がある」(岡留健一郎構成員:日本病院会副会長、山口育子構成員:ささえあい医療人権センターCOML理事長ら)、「産後鬱などの対策に向けて、産婦人科医と精神科医との連携体制を早急に構築する必要がある」(城守構成員、櫻木章二構成員:日本精神科病院協会理事ら)といった意見が出ています。
なお、産婦人科・小児科については「深刻な医師不足」が大きな問題としてクローズアップされ、厚生労働省の「医療従事者の需給に関する検討会」および、その下部組織である「医師需給分科会」で、「産婦人科・小児科については、他診療科とは異なる、特別の医師確保計画を進める」方針が固められ、現在、各都道府県で計画作成が進められています。
この点に関連して今村委員は、「予想を上回る急速なスピードで少子化が進んでいるようだ。産婦人科・小児科の医師については、近い将来、マクロでオーバースペック(医師過剰)になる可能性が高い。産婦人科・小児科について集約化・重点化を進める方向は正しい」との考えを強調しています。「現在の産婦人科・小児科の医師偏在」の解消は喫緊の課題であり、産婦人科・小児科の医師確保を進めなければいけません。一方で、「少子化が進行し、産婦人科・小児科の医療ニーズが減少していく」点も加味しなければならず、この双方の課題解消に向けた解を見出すという難しい課題も、今後、検討会をはじめとする各所で検討していかなければなりません。
424の再検証対象病院、調整会議での再検証方針などをワーキングで詰める
10月18日の検討会には、下部組織である「地域医療構想に関するワーキンググループ」(以下、ワーキング)の検討状況も報告されました。
ワーキングでは、地域医療構想の実現に向けて、▼がんなど急性期医療の診療実績が特に少ない▼がんなど急性期医療機能の類似した病院が近接している―424の公立病院・公的病院等について「機能分化の再検証を求める」方針を固めました。
この点、「どのように地域医療構想調整会議の議論を進めればよいのか考えあぐねている地域も少なくない。そうした点への情報提供を丁寧に行ってほしい」(岡留構成員)、「地域の特性を踏まえて再検証を行い、その結果、現在の機能を維持するという結論が出ることもある。病院が消滅(吸収・廃止など)するわけではないことを厚労省が地域や医療関係者等に丁寧に説明してほしい」(城守構成員)、「日本全体では2025年に向けて医療ニーズは増加していくが、地域によっては少子化で医療ニーズが減少するところもある。地域ごとに状況を踏まえて議論を進めていく必要がある」(今村委員)など多数の意見が出されました。
地方自治体からは「424病院の実現が唐突に公表され、混乱している」との批判があり、厚労省は「ブロック別の説明会」に追われていますが、検討会では「各病院が『自院の立ち位置』を確認し、将来の方向性を自ら考えられるよう、民間病院も含めて、詳細なデータ提供・公表を今後も進めてほしい」とのエールが送られた格好です。今後、岡留構成員から要請された「再検証の具体的な進め方」などをワーキングで詰めていくことになります。
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