紹介状なし患者の特別負担拡大、「初・再診料相当額の保険給付からの控除」には医療提供サイドが反対―社保審・医療保険部会(1)
2020.11.27.(金)
紹介状なし患者の特別負担徴収義務を、新たに設ける「紹介患者への外来を基本とする医療機関」(「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関)に拡大し、特別負担額を引き上げる方向は認められるが、「初・再診料相当額を保険給付から除外する」仕組みには違和感がある—。
11月26日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった議論が行われました。議論は相当煮詰まってきており、今後、最終調整に入っていきます。
特別負担徴収義務の拡大、徴収額の引き上げには目立った異論なし
Gem Medでお伝えしているとおり「外来機能報告制度」と、これを踏まえた「紹介状なし患者への特別負担徴収義務拡大」に向けた議論が進められています。
これまでの議論を一度整理しておきましょう。
フリーアクセス(誰でもどの医療機関にかかっても良い)が保障される我が国では、「大病院への患者集中」がかねてより問題視されていました。大病院の勤務医が軽症の外来患者に忙殺され、大病院ならではの「高度な診療」が真に必要な患者への医療提供が阻害されてしまうためです。
そこで診療報酬などで「紹介・逆紹介を進める」方策が各種設けられており、例えば1996年には「紹介状を持たずに一般病床200床以上の病院を受診する患者からは特別負担を徴収してよい(任意徴収)」という仕組みが、2016年度からは「特定機能病院や大規模な地域医療支援病院では、紹介状を持たない外来患者等から初診時5000円以上・再診時2500円以上の特別負担を徴収しなければならない(徴収義務)」という仕組みが導入されています。
しかし、依然として「紹介状を持たずに大規模な病院の外来を受診する患者」が後をたたないことなどを踏まえ、政府の全世代型社会保障検討会議が、後者の「特別負担徴収義務」について▼対象病院を拡大する▼負担額を引き上げる▼増額分は「医療保険の負担軽減」に充てる―方針を提示。詳細を医療保険部会や、社会保障審議会・医療部会、医療計画の見直し等に関する検討会で議論することとなったのです(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちらとこちらとこちら)。
これまでの各審議会・検討会の議論で仕組みの大枠が固まりつつあります(関連記事はこちらとこちら)。11月26日の医療保険部会では、厚生労働省保険局保険課の姫野泰啓課長から、対象病院の名称を分かりやすく整理するなどした次のような考え方が改めて提案されています。
(1)新設する「外来機能報告制度」に基づいて、各地域で「紹介患者への外来を基本とする医療機関」(「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関)を明確化し、そのうち一般病床200床以上の病院に「紹介状なし患者への特別負担徴収義務」を拡大する
(2)「敢えて紹介状なしに大病院外来を受診する」場合には、初・再診について保険給付を行う必要が低いと考えられることから、初診料相当額(例えば2000円)・外来診療料相当額(例えば500円)を保険給付から控除し、特別負担の下限(初診5000円以上、再診2500円以上)をそれ以上に引き上げる
(3)特別負担の徴収除外規定について、患者の医療機関へのアクセスを過度に制限しないよう配慮したうえで「直接受診する必要性の高い患者」に限定する観点で検討を進め、あわせて「再診における特別負担が徴収されない理由」を分析し、実効性を高める対応を検討する
このうち(1)の対象病院拡大方向には特段の異論・反論は出ていません。今後、「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関の詳細(医療資源と重点的に活用する外来とは何か、基幹的医療機関を明確化する基準値(目安)をどう設定するか、など)を、別の検討の場で議論していくことになります。正式名称についてもそこで議論されることとなるでしょう。
一方、(2)のうち「特別負担額を引き上げる」ことへの異論は出ていませんが、「初診料相当額・外来診療料相当額を保険給付から控除する」方針には、藤原弘之委員(日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)から「医療保険制度の持続可能性に資するもの」と評価する意見も出ていますが、医療提供サイドからは強い反対意見が出ています(関連記事はこちら)。
この控除方針は、180日を超える一般病棟等における入院では『入院料を15%控除(減額)し、その控除分を患者から選定療養として徴収できる』という選定療養の仕組みに倣ったものと説明されています。一般病棟から療養病棟等に転院するという選択肢があるにもかかわらず「敢えて当該病棟での入院を希望する」ことと、紹介状を得てから受診するという選択肢があるにもかかわらず「敢えて当該病院を直接受診する」こととの類似性に鑑みたものと言えるでしょう。
しかし、松原謙二委員(日本医師会副会長)は、「選定療養制度創設の議論では『180日超の入院患者の特別負担』について、例外中の例外として導入したものである。それを参考に初診料等相当を控除する仕組みは筋が悪い。患者負担を増やし、増加分を保険財政に戻すことには違和感がある」と指摘。
また池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長、福井県医師会長)は、「初・再診料相当を保険給付から控除する枠組みに違和感を覚える。初診の大病院直接受診はともかく、再診についてこの仕組みを導入しても、外来機能分化は進まないのではないか」との考えを示しています。
この(2)の仕組み、とりわけ「保険給付から一部を控除する」仕組みについては、さらに議論を深めていく必要がありそうです。
また池端委員の指摘は(3)にも関連します。厚労省の調査によれば、「他の医療機関を紹介(逆紹介)した再診患者」に特別負担が課された割合は、徴収義務対象病院(特定機能病院、一般病床200床以上の地域医療支援病院)でもわずか「0.2%」にとどまっています。初診患者と再診患者では、圧倒的に後者が多く、そこで「逆紹介」や「特別負担徴収」が進まないことは、外来医療全体としての機能分化が十分に進んでいない可能性をも意味します。
このため中医協で「再診で進まない理由を分析し、効果的な対策を検討する」ことになりますが、この点に関して池端委員は「現在の診療報酬水準では、大学病院ですら経営を維持するために再診患者を数千人確保しなければならず、入院への特化はできない。『外来患者(再診患者)を手放す』ことへの病院のインセンティブを検討しなければ、この問題は解決しない」と訴えました。今後、中医協でどういった議論が進められるのか注目していく必要があるでしょう。
遠藤久夫部会長(学習院大学経済学部教授)は議論が煮詰まってきていること、また検討期限が迫ってきていることを踏まえ、他の改革事項(後期高齢者の医療機関等窓口負担2割化など)とあわせて、意見取りまとめに向けた準備を進めるよう厚労省に指示。その後、全世代型社会保障検討会の議論を経て、最終的な制度改革案が決定する運びとなります。
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