「マイナンバーカードによる医療機関受診」促進策を更に進めよ、正常分娩の保険適用も見据えた検討会設置—社保審・医療保険部会
2024.5.16.(木)
「マイナンバーカードの保険証利用」率が、この4月(2024年4月)に過去最高となったが、さらなる利用推進に向けて若年者世代へのPRなどを強化していく必要がある—。
5月15日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、厚生労働省がこういった議論が行われました。
また、正常分娩の保険適用など妊産婦等支援を検討する会議を、新たに立ち上げる方針が厚生労働省保険局保険課の山下護課長から報告されています。
マイナ保険証の利用促進に向けて、さらなるPRに力を入れよ
医療DXの推進を目指し、「現行の健康保険証の新規発行を本年(2024年)12月2日に終了し、マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)を基本とする仕組みに移行する方針が固められ。「マイナンバーカードの保険証利用促進に向けた総合的な対策が順次進められています(関連記事はこちら(新たな一時金)とこちら(医療機関窓口での声掛け)とこちら(医療機関等への利用状況通知))。
こうした取り組みの効果が徐々に現れてきたのか、マイナ保険証の利用状況を見ると、本年(2024年)に入ってから、1月:4.60%、2月:4.99%、3月:5.47%と上昇モードに入り、4月に6.56%と「過去最高」になったことが厚労省保険局医療介護連携政策課の竹内尚也課長(医政局、老健局併任)から報告されました。
医療機関等の種類別にみると、病院13.73%、医科クリニック5.87%、歯科クリニック10.91%、調剤薬局5.71%となっています。
もちろん「過去最高」とはいえ、利用率は10%に満たないため、マイナ保険証のさらなる利用促進に向けて、竹内医療介護連携政策課長は▼登録データと住民基本台帳情報との突合など「紐付け誤りが生じない仕組み」の確保▼動画広報▼集中取組月間(本年(2024年)5-7月)における、4月の利用率が高い自治体・医療関係団体等の表彰—などを実施していることも報告しています。
本年(2024年)12月には新規の保険証発行がストップするため、マイナ保険証の利用を更に進めていくことが重要です。医療保険部会委員からは、▼若い世代へ「命を救うカードである」旨のPRを強化すべき(藤井隆太委員:日本商工会議所社会保障専門委員会委員)▼マイナ保険証を使ったことのない人に「一度、利用してもらう」ことが重要で、医療機関等の窓口での声掛けに力を入れてもらいたい(横本美津子委員:日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長)▼マイナ保険証利用率の高い病院では、受付の「マイナ保険証専用レーン」にスタッフを配置して円滑利用をサポートしているという。こうした取り組みに支援をすべき(猪口雄二委員:日本医師会副会長)▼国家公務員とその家族が率先してマイナ保険証を利用すべき(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長、原勝則委員:国民健康保険中央会理事長)—などの意見が出されています。
こうした意見も参考にしながら、さらなるマイナ保険証利用促進の取り組みが進められていきます。
「正常分娩の保険適用」も見据えた検討を行う会議体を設置
また、山下保険課長からは、「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等」を検討する会議体を新たに設置する考えが報告されました。
▼出産に関する支援等の更なる強化策(医療保険制度における支援の在り方、周産期医療提供体制の在り方など)▼妊娠期・産前産後に関する支援等の更なる強化策—などについて、妊産婦の声も聴きながら議論していく予定です。
現在の医療保険制度では「出産育児一時金」という「定額支援」の形で、出産費用をサポートしています。しかし、「一時金の引き上げ」に伴って「医療機関の出産費用も引き上げられる」ため、支援が追い付かないという声もあります。
そこで、「こども未来戦略」(2023年12月22日閣議決定)で「2026年度を目途に、出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含め、出産に関する支援等の更なる強化について検討を進める」とされたことも踏まえて検討会が設置されています。検討会では「正常分娩の保険適用」に向けた議論が正面から行われると見込まれます。
健康保険法等では「被保険者の疾病または負傷に関して、診察、薬剤・治療材料の支給、処置、手術、その他の治療、居宅における療養上の管理・療養に伴う世話その他の看護、病院・診療所への入院・療養に伴う世話その他の看護といった療養の給付を行う」とされているため、「正常分娩」を保険適用する(療養の給付の対象とする)ためには、健康保険法等の改正が必要となります。
このため、仮に検討会で「正常分娩を保険適用すべき」との結論に至った場合には、その後に医療保険部会で改めて「正常分娩を保険適用すべきか」という議論をする必要が出てきます。
この点について佐野雅宏委員(健康保険組合連合会会長代理)は「正常分娩の保険適用には課題も多く、また医療保険制度全体の枠組みを変えることにもなるため、丁寧に、時間をかけて議論する必要がある」と要望しています。
また、正常分娩が保険適用となった場合には、現在、医療機関が自由に設定している出産費用が「全国一律」となることから、産科医療機関等の経営にも影響が出てきます。その場合、「出産できる医療機関が地域で少なくなる」ことにもつながりかねません。このため猪口委員は「正常分娩の保険適用で地域医療にどのような影響あるのか、悪い影響でないかも十分に分析・検討してほしい」と要望しました。
検討スケジュールなどは明らかにされていませんが、仮に「2026年度の診療報酬で正常分娩の点数を設定する」というゴールを設定したとすると、遅くとも「本年(2024年)中に「正常分娩の保険適用」を検討会・審議会で決定し、2025年の国会に健康保険法等改正案を提出する」ことが必要となりそうです。今後の検討会設置・検討会論議に注目が集まります。
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