「医療療養病床→介護保険施設等」転換を2025年度末まで財政支援、マイナ保険証利用率高い医療機関へ補助—社保審・医療保険部会
2023.12.15.(金)
医療療養病棟から介護医療院などへの転換を支援する「病床転換助成事業」を2025年度末まで2年間延長する—。
12月14日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、こういった方針が概ね了承されました。近く厚労省で「前期高齢者交付金及び後期高齢者医療の国庫負担金の算定等に関する政令」の改正が行われます。
なお、この事業の利用は低調であり「効果の検証」を十分に行うよう求める意見が出されてます。
「医療療養病床→介護保険施設等」の転換支援事業を「2025年度末」まで延長
病床転換助成事業は、2008年にスタートした「医療療養病床から介護保険施設等への転換」を支援する補助事業です。
高齢化が進展する中で「要介護者等の入所する施設」整備の重要性が増すこと、地域医療構想では「医療療養病床に入院する医療区分1の患者の70%などを、在宅医療や介護施設等で対応する」とされていることなどから、「医療療養病棟から介護保険施設等への転換」が進められており、病床転換助成事業はこれを経済的に支える重要な意味を持っています。
病床転換助成事業は当初「2008-2012年度の事業」としてスタートしましたが、上述の重要性などに鑑みて2010年に「2017年度まで延長する」ことを、2016年に「2023年度まで延長する」ことを決定しています。
12月14日の医療保険部会では、厚生労働省保険局医療介護連携政策課の竹内尚也課長から、▼地域医療構想の実現が迫る中で、「医療療養に入院する医療区分1患者の70%」の受け皿となる介護保険施設等の整備がさらに求められること▼2024年度からの新たな医療費適正化計画では「都道府県の医療計画に基づく事業の実施による病床機能分化・連携推進の成果」を必須記載事項としており、「医療療養病棟から介護保険施設等への転換」を促す病床転換助成事業の活用が都道府県でも重視されていること—などを踏まえ、「さらに2年間の延長を行ってはどうか」と提案しました(2025年度まで延長)。地域医療構想のゴールとも平仄を併せる延長内容となります。
この延長方針に対し、都道府県サイドは「現在、医療費適正化計画を作成しており(2023年度中に作成し、24年度から稼働)、病床転換助成事業を活用した『医療療養病棟から介護保険施設等への転換』も進めている。また地域医療構想実現のためには、『医療療養に入院する医療区分1患者の70%』の受け皿となる介護保険施設等の整備も必要である。事業延長はこれに沿うものである」との、慢性期医療サイドは「治療・在宅復帰を目指す医療療養と、介護の場となる介護保険施設との機能分化が重要で、地域には『医療療養から介護保険施設等への転換』ニーズがまだある。助成事業の延長が必要である」との賛同意見を明確に示しています。
しかし、本事業には▼2008年の実施から16年経過する中で、利用(転換)は7359床にとどまっている(利活用が低調である)▼都道府県によっては、利活用が極めて低調、あるいは利活用実績ゼロのところもある—という課題もあります。
このため、事業延長には賛同するものの「事業の効果をしっかり検証すべき(本来は効果検証を先に行い、その結果をもとに延長の必要性を提示すべき)」「利活用が低調な理由を分析し、改善を図るべき」との注文も佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)や村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)らから出されています。
竹内医療介護連携政策課長は、こうした声も踏まえ、2年間の事業延長と同時に、「事業・取り組みに対する効果検証を行う」「事業活用実績の少ない都道府県の要因分析を行い、その結果や課題を踏まえ具体的な取り組みを検討する」「都道府県の更なる病床転換が図られるよう、周知広報を見直す」などの考えも強調しています。
なお、利活用が低調なことから、本事業は「当初の2年間(2008・9年度)には医療保険者から費用拠出を求めた」ものの、その後は保険者に費用拠出は求めず「剰余金での運用」が続けられています(1年度の交付金額実績は420万円-2億8700万円)。この剰余金は2022年度時点でも「45億8300万円」もあるため、現在「拠出金の保険者への返還」が検討されています。竹内医療介護連携政策課長は「拠出金返還の方法」や「2026年度以降の病床転換助成事業の在り方」を今後検討していく考えも示しています。
マイナ保険証の利用率が増加する医療機関等に「利用実績に応じた支援金」を交付
また12月14日の医療保険部会では「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」に向けた状況確認も行われています。
例えば、「来春(2024年春)頃に、不一致データの確認などマイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用による医療機関等受診)の不安払拭に向けた取り組み作業が完了する」見通しであること、これを踏まえ、12月12日に岸田文雄内閣総理大臣がマイナンバー情報総点検本部において「予定通り、現行の健康保険証の発行を来秋(2024年秋)に終了し、マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する」考えを明確に示したことなどが報告されています。
また、医療機関等でのオンライン資格確認等システム導入・準備が進んでいるものの、「患者のマイナ保険証利用が進んでいない」状況を受け、例えば次のようなマイナ保険証利用促進策が講じられることも竹内医療介護連携政策課長から示されています。
▽国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)、国立高度専門医療研究センター(NC)、労働者健康安全機構(JOHAS)、日本赤十字社、済生会に▼2024年5月末・11月におけるマイナ保険証利用率の目標設定と進捗管理▼マイナ保険証利用者の受け付け専用レーン設定と担当者による声掛け・案内実施―を要請した
▽他の公的医療機関(自衛隊病院、国家公務員共済組合連合会、自治体、厚生農業協同組合連合会、地方公務員共済組合、国立大学法人、公立大学法人など)にも、上記対応を要請する
▽民間医療機関等にも「マイナ保険証利用率を自主的な指標として活用可能」となるように実績通知を検討中
▽2023年度補正予算の中で、マイナ保険証利用率が「2023年10月」から「2024年1-5月」「2024年6-11月」に増加した医療機関では、増加率(最低5%以上-最高50%以上)に応じて1件当たり20-120円の支援金を交付する
▽マイナ保険証利用件数が多い医療機関等へ「顔認証付きカードリーダーの増設」を支援する(クリニック・薬局では利用件数に応じて1-3台、病院では3台まで。顔認証付きカードリーダー・資格確認端末の購入費・工事費の2分の1を補助)
▽マイナンバーカードを「診察券」「公費負担医療や地方単独医療費助成の受給者証」として利用可能とするために、医療機関等のシステム(再来受付機・レセコン)改修を補助する(デジタル庁)
▽認知症などで暗証番号設定に不安がある方向けに「暗証番号の設定が不要なカード」(下位認証カード)の交付を2023年12月15日から開始する
医療保険部会委員からは、「マイナ保険証をはじめとする医療DX推進のためには、国民にメリットを実感してもらうことが極めて重要である。しかし例えば電子処方箋の導入率が極めて低調であり、強力に推進するべきである」、「国民への丁寧な説明をさらに進め、不安を解消する必要がある」、「五月雨式のシステム改修は現場にとって大きな負担である」といった注文・意見がだされています。こうした意見も踏まえながら、医療DXの基盤となる「マイナ保険証の普及、利用促進」に向けた取り組みが進められます。
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