医療現場での「マイナンバーカード利用時のトラブル」対応を再整理、紙保険証なくとも「1-3割負担分」徴収可能—社保審・医療保険部会
2024.7.5.(金)
「マイナンバーカードの保険証利用」(マイナ保険証)について、「エラーが出る」「患者が暗証番号を忘れた」などのために資格確認が行えない場合が出るが、その場合でも「患者の医療保険資格を過去の受診歴から推測する」などして、紙保険証がなくとも1-3割の自己負担分徴収のみで可能とする—。
7月3日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、厚生労働省がこういった点の再整理を行いました。医療現場等への再周知が進められます。
マイナ保険証で資格確認が行えない場合の対応を再整理
医療DXの推進を目指し、「現行の健康保険証の新規発行を本年(2024年)12月2日に終了し、マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)を基本とする仕組みに移行する方針が固められ。「マイナンバーカードの保険証利用促進に向けた総合的な対策が順次進められています(関連記事はこちらとこちら)。
マイナ保険証の利用状況を見ると、昨年(2023年)12月に、直近では最も低い4.29%に低下しましたが、本年(2024年)に入ってから、1月:4.60%、2月:4.99%、3月:5.47%、4月:6.56%、5月:7.73%と上昇モードに入っています。
ただし、「依然としてマイナ保険証の利用率が低調である」状況そのものは変わっておらず、さらなる利用促進を図っていく必要があります。
ところで、マイナ保険証については、従前より医療機関等において「エラーが出る、患者が暗証番号を忘れてしまうなどした場合に、マイナ保険証での資格確認が行えない。一方、患者は保険証(従来からの被保険者証)を持参していない。どのように医療事務を行えばよいのか」という疑問・問題があります。この点については、都度都度「こうした対応を行ってほしい」と厚労省は呼びかけを行ってきていますが、厚労省保険局医療介護連携政策課の竹内尚也課長は「ケースごとの対応方法」を次のように再整理しました。新たな対応方針も含まれています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
【問題となるケース】
▼健康保険証は有効だが、マイナ保険証で「無効」と表示される
↓
(対応方法)
▽転職や転居等で資格変更があった(別の医療保険(健康保険組合、協会けんぽ、国民健康保険など)に加入した)際に、新たな資格情報が迅速に登録されるよう、昨年(2023年)6月に省令改正を行い「資格取得届け出から5日以内(資格変更から10日以内)にシステム登録する」ことを、医療保険者に求めており、「無効」のケースが極力少なくなるように努めている(更に、医療保険者に対し、迅速化を図るために改善計画策定を求め、フォローアップ調査を実施する予定である)
▽「オンライン資格確認未登録のままマイナ保険証を使ってしまう」事態を回避するため、「データ登録までの期間」の周知、「登録済となったことを通知する仕組み」の導入を図る
【問題となるケース】
▼顔認証付きカードリーダーシステムが起動しない
↓
(対応方法)
▽顔認証付きカードリーダーやPCなどの資格確認端末を日々のシャットダウンする、スケジューラー機能利用などで定期的に電源のオン・オフ(シャットダウン・再起動)を行うことで多くのケースが解消する
▽チェックリストも参照してほしい
【問題となるケース】
▼顔認証付きカードリーダーシステムで顔認証ができない
↓
(対応方法)
▽「マイナカードカードを袋にいれたままカードリーダーに置いてしまう」、「患者がカメラに近づき過ぎる」、「逆光や外光の影響を受ける」場合などに顔認証ができないことが多いので、こうした点に注意して再度の顔認証を行ってもらう
【問題となるケース】
▼マイナンバーカードの電子証明書有効期限が切れ、マイナ保険証として使えなくなっている
↓
(対応方法)
▽電子証明書有効期間の3か月前からJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)より更新手続き案内が送付され、有効期限満了日まで3か月以下の場合には顔認証付きカードリーダーの画面上で更新のアラート表示を行っている
▽さらに本年(2024年)12月より、電子証明書の有効期間満了「後」3か月間は「引き続き資格確認を行える」よう対応する
▽本年(2024年)12月2日(保険証の新規発行終了)以降は、「有効期限満了日から更新なく一定期間(3か月程度)経過した場合には、資格確認書」を職権で交付する(申請を待たずに交付する)。
また、こうした対応を行っても、なおマイナンバーカードでオンライン資格確認が行えない場合は生じえます。その際にも、「全額自己負担」とせずに、▼「資格(無効)」画面に表示された喪失済みの資格情報、過去の受診歴から確認した資格情報でレセプト請求を行う、▼被保険者番号等が不詳でも本人に資格申立書の記載を患者に求め、不詳レセプトとして請求を行う—ことで、紙保険証の提示がなくとも「適切な自己負担割合」(1-3割)となります。なお、この場合、オンライン資格確認等システムには「正しい医療保険者に、自動的にレセプトが振替請求される」という機能があり、「誰がこの患者の医療費を支払うのか分からない」という問題は生じないこととなっています。
さらに竹内医療介護連携政策課長は、次のような対応方針の明確化も行っています。
【問題となるケース】
▼過去に「別人との紐付け誤り」が報じられたこともあり、安心してマイナ保険証を利用できないとの患者の不安がある
↓
(対応方法)
▽「全登録済みデータ(1億6000万件)と住民基本台帳情報との突合を完了し、うち確認が必要なデータについての保険者等による確認作業も完了している」、「新規加入者の登録時に全データを住民基本台帳情報と突合するチェックシステムを本年(2024年)5月から実施する」ことにより、「別人との紐付け誤り」への対応を行っている
【問題となるケース】
▼高齢者がうまくマイナ保険証を使えない、暗証番号を忘れて入力できない
↓
(対応方法)
▽暗証番号入力や顔認証が困難な場合には、「目視確認モード」による資格確認も可能なことをさらに周知する
→来年春(2025年発)予定のシステム改修により、「窓口での目視モードの操作」を簡便化する(資格確認端末まで戻らず、目視確認モード切替を可能とするなど)
▽暗証番号を3回誤入力した場合でも、顔認証や目視確認モードの対応が可能である
▽暗証番号を設定しない顔認証カードでもマイナ保険証としての利用が可能である
【問題となるケース】
▼顔認証付きカードリーダーがクリニックに1台しかなく、待合室が混雑してしまう
↓
(対応方法)
▽2023年度補正予算でカードリーダーの増設補助を行っている(補助要件となる利用件数の判定期間を「本年(2024年)3月」から「本年(2024年)7月」に延長)している
→「昨年(2023年)10月から本年(2024年)7月のいずれかの月」のマイナ保険証利用件数が500件以上の施設が造設補助対象
▽「同意画面」の操作について、今秋頃(2024秋)を目途に「包括同意」を可能とするなどの改善を行う(「毎回の同意などが面倒である」と考える患者では、包括同意を可能とするなどし、円滑な資格確認を目指す)
【問題となるケース】
▼薬局では、通常の受付窓口以外で対応する方式(ドライブスルー形式等)をることもあるが、1台のカードリーダーで対応することになり、マイナ保険証での受付が困難である
↓
(対応方法)
▽「居宅同意取得型」を活用したマイナ保険証による受付が可能であり、運用について本年(2024年)9月頃までに提示する予定である
【問題となるケース】
▼資格確認時に表示された情報に「●」が出てしまう
↓
(対応方法)
▽カナ氏名確認よる受付や、「●」表記のままでもレセプト請求が可能であり、「●」表記のままや漢字に置き換えても返戻されない点を再周知する
▽レセコンやオンライン資格確認等システム、保険者システムの文字コードの違いを踏まえつつ、「よく『●』表記となる漢字」から修正を検討していく
こうした再整理・再周知について、「医療現場の不安が相当程度解消するのではないか」と医療保険部会委員は歓迎。
あわせて、さらなるマイナ保険証の利用促進に向けて、▼マイナ保険証であれば、転職や転居などで加入医療保険が変わったとしても(協会けんぽ→健保組合、A国保→B国保など)、患者は何もせずにマイナンバーカードで保険診療を受けられる(ただし、上記のように資格登録のタイムラグが数日生じる点に留意)というメリットをPRすべき(佐野雅宏委員:健康保険組合連合会会長代理)▼薬局等でリアルタイムで「マイナ保険証利用状況」を確認できる仕組み、利用しやすい目視確認モード(カードリーダーシステムのみの操作で目視確認モードに移行可能とするなど)などに対応してほしい(渡邊大記委員:日本薬剤師会副会長)▼地域によるマイナ保険証利用率の差について、どういった背景があるのか詳しく分析すべき。最終的に「国民の不安」解消が重要となる(城守国斗委員:日本医師会常任理事)▼国民の真意を詳しく調査し、どこで間違ったのかを明らかにして対応すべきではないか。様々な取り組みを行っても、マイナ保険証利用率が伸びない状況は見るに忍びない(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)—などの意見が出されています。いずれも重要な指摘です。
また、厚労省保険局の伊原和人局長は、「本年(2024年)12月2日で保険証(従来からの紙保険証)発行が終了する。マイナ保険証の利用促進に努めるが、当面はマイナ保険証(マイナンバーカード)と保険証とが混在する形になろう。既存の保険証も1年間有効であり、新規保険証発行の終了後には、資格確認証が交付され、保険証の有効期限終了後は資格確認書で保険診療を受けることになる」と述べ、「本年(2024年)12月2日以降、保険証は使えなくなる」などの誤った情報を否定。
あわせて正しい情報を、テレビ番組を含めた各種メディアも通じて提供すべき「若手厚労省職員がPRを行う」ことなども明らかにしました。
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