マイナ保険証利用が著しく低い医療機関等に「なぜ利用が進まないのか、困り事はないか」等の視点で個別アプローチ—社保審・医療保険部会(1)
2024.9.2.(月)
マイナ保険証利用が著しく低い医療機関等に対し、「なぜ利用が進まないのか、困りごとはないか」等の視点で個別アプローチを行っていく—。
ちなみに「マイナ保険証は利用できません」との対応は、療養担当規則に違反する恐れがある点に留意してほしい—。
また、マイナ保険証について「プライバシー性の高い情報は入っていないため安全・安心に利用できる」など、国民の不安払拭に向けた広報に力を入れていく—。
8月30日に開催された社会保障審議会・医療保険部会で、厚生労働省がこういった方針を報告しました。
まず「マイナ保険証利用がなぜ進まないのか」を調べるところから始め、「利用実績の基準値をどう設定するか」「個別アプローチをいつ頃から進めるか」などは今後、詰めていくことになると厚労省保険局医療介護連携政策課の山田章平課長、同課保険データ企画室の河合篤史室長はコメントしています。今後の動きに要注目です。
なお、同日の医療保険部会では「医療DX推進にかかる法整備の検討を今後、医療保険部会・医療部会で進めていくこと」、「一定所得以上の後期高齢者について、医療機関等の窓口負担を2割に引き上げたことの影響」についても議題としており、別稿で報じます。
マイナ保険証の利用実績が上昇しているが、まだ十分とは言えない
医療DXの推進を目指し、「現行の健康保険証の新規発行を本年(2024年)12月2日に終了し、マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)を基本とする仕組みに移行する方針が固められ、「マイナンバーカードの保険証利用促進に向けた総合的な対策が順次進められています(関連記事はこちらとこちらとこちらとこちら)。
マイナ保険証の利用状況を見ると、本年(2024年)に入ってから、1月:4.60%、2月:4.99%、3月:5.47%、4月:6.56%、5月:7.73%、6月:9.90%、7月:11.13%と上昇モードに入っています。
ただし、「依然としてマイナ保険証の利用率が低調である」状況そのものは変わっていません。
厚労省は、本年(2024年)5月・8月に行ったアンケート調査で「紛失リスクや個人情報の観点、情報漏洩の観点からマイナ保険証に不安に感じる方々が一定割合存在する」ことなども踏まえ、次のような新たな取り組みを行う考えを報告しました。
(1)マイナ保険証の利用実績が低い医療機関・薬局に対する個別アプローチ
▽マイナ保険証の利用実績が著しく低い医療機関・薬局の中には、患者がマイナ保険証を使う機会を奪っているものも考えられ、その場合には、療養担当規則違反となるおそれがある
→例えば「マイナ保険証は当院では使えません」などの対応は、療養担当規則違反となるおそれあり
(参考)
●保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則、Gem Med編集部で抜粋・改変)
第3条 保険医療機関は、患者から療養の給付を受けることを求められた場合には、次に掲げるいずれかの方法によって療養の給付を受ける資格があることを確認しなければならない。ただし、緊急やむを得ない事由によって当該確認を行うことができない患者であって、療養の給付を受ける資格が明らかなものについては、この限りでない。
1 健康保険法第3条第13項に規定する電子資格確認(いわゆるオンライン資格確認)
2 患者の提出する被保険者証
3 当該保険医療機関が、過去に取得した当該患者の被保険者・被扶養者の資格に係る情報を用いて、保険者に対し電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により、あらかじめ照会を行い、保険者から回答を受けて取得した直近の当該情報を確認する方法
▽マイナ保険証の利用実績が著しく低い医療機関・薬局に対して、「マイナ保険証の利用促進に当たり困っている場合の支援」や「地方厚生局が個別に事情を確認する」などの働きかけを実施する。働きかけの対象となることについて、メール等で個別に医療機関・薬局に対して事前に周知する。
▽10月から【医療DX推進体制整備加算】の最低利用率が適用されることも踏まえ、窓口でのマイナ保険証の声かけ等の更なる利用促進の取組を改めて呼びかけていく
(2)マイナ保険証を基本とする仕組みへの円滑な移行を見据えた周知広報
▽これまでの周知広報におけるキーメッセージ(「12月2日で健康保険証の新規発行が終了する」、「病院・薬局ですぐに利用登録できる。救急の現場など様々なメリットがある」、「まずはマイナ保険証を利用してほしい」など)に加え、次のような周知広報に力をいれる
▽国民の不安の解消につながるような広報
→▼マイナ保険証が使えない(何らかの事情でマイナンバーカードによるオンライン資格確認を行うことができない)場合でも、マイナポータルの活用・資格情報のお知らせとマイナンバーカードの組み合わせなどで保険診療が受けられる▼マイナンバーカードを取得していない方や健康保険証の利用登録をしていない方等に対し、資格確認書がプッシュ型で交付される▼マイナンバーカードにはプライバシー性の高い情報は入っていないため安全・安心に利用できる—など
▽「顔写真入りで対面での悪用が困難、より確実な本人確認が可能」といったメリットの医療機関に対する広報も追加的に実施する
▽周知広報の対象ごとに実感してもらいやすいと考えられるメリットを訴求するなど効果的な周知広報を実施する
このうち(1)については、「利用実績が著しく低い医療機関・薬局の基準をどう考えるのか」「いつ頃から個別アプローチがなされるのか」などが気になりますが、山田医療介護連携政策課長、河合保険データ企画室長は「まず『マイナ保険証利用がなぜ進まないのか』を調べるところから始める。利用実績の基準値や個別アプローチ実施時期などは、その状況を見ながら今後詰めていく」とコメントするにとどめています。
この10月から【医療DX推進体制整備加算】の最低利用率が適用され、マイナ保険証利用率が「5%未満」の医療機関では同加算が算定できなくなります。例えば、こうした基準値なども参考にしながら、マイナ保険証利用が進んでいない医療機関に対して「なぜマイナ保険証参利用が進まないのか?マイナ保険証利用に向けて困っていることはないのか?」などの調査が進むと想定されます。
こうした方針に異論・反論は出ていませんが、「威圧的なアプローチをすれば、かえって医療機関等サイドの反発を招く。地域・患者ごとに事情は異なる点を踏まえて、丁寧かつ慎重に進めてほしい」(城守国斗委員:日本医師会常任理事)、「マイナ保険証利用に不安を抱える国民の割合は減っていない。不安払拭に向けた広報に力を入れるべき」(村上陽子委員:日本労働組合総連合会副事務局長)、「12月2日以降、紙保険証が使えなくなると思っている高齢者も少なくない。当面はマイナ保険証と紙保険証との併用状態が続くことをしっかり周知すべき」(袖井孝子委員:高齢社会をよくする女性の会理事)などといった要望が出されています。
マイナ保険証は、別途報じる「医療DX推進の入り口」と言え、丁寧かつ強力に利用促進を図っていくことが重要です。
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