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ロボット支援下手術、「生存率向上」などの優越性エビデンスを構築し診療報酬の増点を目指す―外保連

2022.5.17.(火)

2022年度診療報酬改定では「胃がんに対するロボット支援下手術」について、従来の内視鏡手術に比べて「生存率が向上する」との優越性エビデンスをもとに「増点」が行われた。他の術式についても「生存率向上」などの優越性エビデンス構築を進めていく—。

2022年度改定では手術等の時間外加算1などについて「施設基準」の見直しが行われた。「緩和」と見ることができるが、今後、医療現場の状況を検証していく—。

大腿骨近位部骨折については「早期手術」(48時間以内の手術)で予後が改善するエビデンスがあり、本邦でも2022年度改定で加算が導入された。今後も早期手術の推進や多職種連携などを進めていく必要がある—。

100の外科系学会で構成される「外科系学会社会保険委員会連合」(外保連)が5月16日に開催した記者懇談会で、こういった考えが示されました。

手術等の時間外加算1などの施設基準見直し、「今後の検証」が重要

外保連は、100の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。例えば、手術点数の設定に当たっては、外保連の現場調査(どの手術にどういった職種が何人携わり、どの程度の時間がかかるのか、難易度はどの程度か、使用する医療機器等のコストはどの程度か、など)をベースにした「外保連試案」が相当程度勘案されるなど、その提言には深い意味があります。

今般、2022年度診療報酬改定内容の評価とともに、今後の診療報酬改定等に向けた考え方が示されました。

まず、2022年度改定においては、Gem Medでも報じているとおり手術・処置の【休日加算1】、【時間外加算1】、【深夜加算1】について次のような見直しが行うれました(関連記事はこちら)。

▽記録要件について、「予定手術前日の当直等」に加えて、「2日以上の連続当直」を加える

▽当直要件(現在、当直医が6人以上の場合には予定手術前日当直制限が通常の12日から24日に緩和される)について、「予定手術前日の当直が4日以内」かつ「2日以上の連続当直が年4日以内」に改める

手術等の時間外加算1等における施設基準見直し(2022年度診療報酬改定)



この点、「従前は『診療科単位』で予定手術前の当直状況を見ていたが、改定後はこれを『医師個人単位』で見ることとなるため厳しくなっているのではないか」と見る向きもありますが、瀬戸泰之・実務委員長(東京大学医学部附属病院院長)は▼医師働き方改革に向けて「連続当直」は非常に少なくなってきてる(予定手術前当直の回数が重要である)▼当直医の「数」が要件から外されている—ことから「個人的には『緩和』ではないかと考えている」と評価。ただし「今後の検証が必要」都も付言しています。

また、瀬戸実務委員長は、2022年度改定全般について▼外保連からの改正要望があまり受け入れられなかった(2020年度は受け入れ率41.8%であったが、2022年度は25%)▼人件費(外保連試案)のみで診療報酬点数をオーバーしてしまう術式(人件費だけで赤字)がやや増加してしまった(従前:2857件・90.9%→改定後:2896件・91%)▼償還不可材料費(外保連試案)のみで診療報酬点数をオーバーしてしまう術式(材料費だけで赤字)が増加してしまった—ことなどを受け、「厳しい改定であった」と振り返りました。

2022年度改定の評価(1)(外保連会見1 220516)

2022年度改定の評価(2)(外保連会見2 220516)

ロボット支援下手術、「がん患者の生存率向上」などの優越性エビデンスで評価アップ

もっとも「ロボット支援下手術」については、2022年度改定において次のような大きな前進が見られています。

(1)新規に、▼鏡視下咽頭悪性腫瘍手術▼鏡視下喉頭悪性腫瘍手術▼総胆管拡張症手術▼肝切除術▼結腸悪性腫瘍切除術▼副腎摘出術▼副腎髄質腫瘍摘出術(褐色細胞腫)▼腎(尿管)悪性腫瘍手術—に適用が拡大された(耳鼻科領域で初めて「咽頭がん」が適用となった)

新規のロボット支援下手術を保険適用した(2022年度診療報酬改定)



(2)食道がん・胃がん・直腸がんについて、施設基準の「術者要件」(例えば食道がんでは「ロボット支援下手術を術者として5例以上経験している医師を配置する」)などが削除された

(3)胃がんについて、ロボット支援下手術の「優越性」が評価され、既存の内視鏡手術に比べて「点数の引き上げ」が行われた

胃がんのロボット支援下手術の点数を引き上げるなどした(2022年度診療報酬改定)



このうち(2)については、岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)から「食道がん、胃がん、直腸がんについて、NCD(外保連の運営する、ほぼすべての外科手術症例データを格納したNational Clinical Database)を用いて医師の術者経験症例別に合併症の発生状況を詳細に分析したところ、差がないことが明らかとなった。これは各施設において『経験症例の少ない医師は早期がんなど比較的容易な症例を、経験症例の多い医師が難易度の高い症例を担当する』という具合に振り分けていることを意味する。施設基準で縛らずとも、プロフェッショナルオートノミーによる縛りがかかっており、施設基準からの削除が行われた」との説明が改めてなされました(関連記事はこちら)。

ただし、他の術式では施設基準に術者要件が依然として盛り込まれており(例えば「腹腔鏡下副腎摘出手術」では、ロボット支援下手術に関する5例以上の術者経験を持つ医師の配置などが求められている)、今後の診療報酬改定において、上記の食道がん・胃がん・直腸がんと同様の「経験症例数による合併症発生頻度の差はない」というエビデンスを構築し、厚生労働省に提示することで「施設基準による縛りを廃止」を目指すことになります。



また(3)は、胃がんにおいて「ロボット支援下手術」のほうが、通常の内視鏡手術に比べて、▼術後30日以内の再手術割合が有意に低い▼術後在院日数が有意に短い(早期退院が可能である)▼総医療費・手術費が有意に少ない▼3年生存率が有意に高い—などのエビデンスを構築できたことが背景にあります。

胃がんへのロボット支援下手術は、既存の内視鏡手術に比べ「生存率」を向上させる(外保連会見7 220516)



岩中会長や、エビデンス構築を行った静岡県立静岡がんセンターの寺島雅典副院長は「がん症例において、ロボット支援下手術のほうが『生存率(3年生存率)が高い』ことは、優越性に関する何よりのエビデンスである。他の術式においても『生存率が高い』とのエビデンスを構築し、これをもとに『ロボット支援下手術の加点』を目指す」方針を強調しています。さらに岩中会長は「点数増は患者負担・保険者負担増につながる。このためには優越性エビデンスを示すことがどうしても必要になる」との考えも付言しています。



このほか、ロボット支援下手術について次のような状況・考えも示されました。

▽咽頭・喉頭(とりわけ早期の中咽頭がん)においてはロボット支援下手術が適しており(侵襲が低く、自由度が高く細かな手技が可能、将来の重複がんに備えた放射線治療温存も可能)、▼有用性が高い(腫瘍の取り残しが少ない)▼安全性に優れている—エビデンスもある。今後、さらなる優越性に関する国内エビデンスを構築して「診療報酬加点を目指す」とともに、声門がん(現在はロボット支援下手術の実施が難しい)などにも対応できる小型ロボットの登場も期待できる(藤田医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の楯谷一郎教授)

経口的ロボット支援下手術(外保連会見3 220516)

咽頭癌に対するロボット支援下手術と内視鏡手術との比較(外保連会見4 220516)



▽泌尿器分野においてはメジャー術式のほとんどはロボット支援下手術の適用となった(施設によっては前立腺がん手術はすべてロボット支援下手術で実施している)。既存の内視鏡治療に比べて安全性・有用性に優れており「診療報酬の施設基準緩和」などを目指す。学会では「ロボット支援下手術ガイドライン改正」(専門医でなくとも、20例の助手経験があれば指導医(プロクター)の下で執刀可能とするなど)、「ロボット支援下手術プロクター制度改正」(術式別から領域別など)を実施。今後「泌尿器腹腔鏡技術認定制度」の改正論議も行っていく(鳥取大学医学部附属病院泌尿器科の武中篤教授、同がんセンター長)

▽また、国産初の手術支援ロボット「hinotori」(2020年に薬事承認、保険適用、まず泌尿器科分野からスタート)については、全国で20台超が稼働しておりエビデンス構築に向けて推進している。今後は「海外展開」や「da vinciで遅れている『遠隔手術』の臨床導入」「低コスト化」を目指している(神戸大学大学院医学系研究科腎泌尿器額分野の藤澤正人教授)

国産の手術支援ロボットhinotoriの展開(外保連会見5 220516)

遠隔手術のイメージ(外保連会見6 220516)



▽肝臓のロボット支援下手術についても有用性・安全性が認められ、2022年度改定で保険適用となったが、ロボット支援下肝切除では▼他臓器と比べて必要機材の種類が多く、高価な機材も含まれる▼長時間・高侵襲術式もあり、医療コストは高い—ことから「赤字」になると見込まれる。今後、優越性のエビデンスを構築し「保険点数の引き上げ」や「施設基準緩和」などを目指していく(藤田医科大学先端ロボット・内視鏡手術学の加藤悠太郎教授)

▽直腸がんにおくれて結腸がんについても、2022年度改定でロボット支援下手術の適応となった。今後、ロボット支援下手術が結腸がん治療のスタンダードになると見込まれる。短期成績は良好であり、今後「長期予後」に関するエビデンスを構築していく(東京医科歯科大学大学院消化管外科分野の絹笠祐介教授)

▽2022年度改定において「腹腔鏡下の直腸切除・切断術」についても、「肛門温存手術」が保険適用となった(開腹手術と腹腔鏡手術との分類統一)。ただし、ロボット支援下手術での「肛門温存手術」は保険適用外であり留意してほしい(国立がん研究センター東病院の西澤祐吏医師)

腹腔鏡下の直腸切除においても肛門温存が保険適用された(2022年度診療報酬改定)



▽2022年度改定で「腹腔鏡下左心耳閉鎖術」が新規に保険適用となった。「心房細動→血栓→心原性脳梗塞」を防ぐための画期的な治療法(従前の抗凝固療法、カテーテル的ウォッチマン移植法に比べて、侵襲が少なく、脳梗塞予防効果も高い、さらに医療経済上の優れている)であり、さらなる進展が望まれる(ニューハートワタナベ国際病院ウルフ-大塚低侵襲AF手術センターの大塚俊哉センター長、同病院副院長)



このようにロボット支援下手術には、従前の内視鏡手術に比べて、例えば▼有用性▼安全性—が高いことが知られ、保険適用術式が拡大されてきています。今後は「優越性」に関するエビデンスを構築し「診療報酬点数の増点」を目指すフェーズに入ってきていると言えます。そこでは「胃がん」が前例をつくったように「生存率が高くなる」点に関するエビデンスが構築されることに期待が集まります。

大腿骨近位部骨折、病院到着から48時間以内の手術実施により予後が大幅に改善

なお、福島県立医科大学外傷学講座の竹中信之教授(日本骨折治療学会評議員)は、2022年度改定でK801【人工骨頭挿入術】に「大腿骨近位部の骨折に対し、骨折後48時間以内に人工骨頭の挿入を行った場合に、4000点を加算する」【緊急挿入加算】が設けられたことを紹介。

早期の大腿骨近位部骨折手術について加算が行われた(2022年度診療報酬改定)



高齢者では、短期間の臥床で筋力が低下(1週間の臥床で20%低下)が生じ、要介護状態に陥ることが知られています。しかし大腿骨近位部骨折では、病院に到着してから手術が行われるまでに、現在は平均108時間(=4日半)かかっている状況です。

この点、英国イングランドでは「大腿骨近位部骨折に早期に手術を行った場合に加算する」仕組みを設けました。その結果、加算を設けていないウェールズに比べて「1年死亡率が顕著に低下した」とのエビデンスが得られました。

大腿骨近位部骨折に対する早期介入が予後を大きく改善する(外保連会見8 220516)



このエビデンスを踏まえて世界各国で「大腿骨近位部の骨折に対し、骨折後48時間以内に手術を行う」動きが広まり、今般、本邦においても診療報酬での評価が行われることになったものです。竹中供述は「早期手術」「二次性骨折の予防」「多職種連携」などをさらに推進していく必要があると訴えています(関連記事はこちら(二次性骨折予防継続管理料に関する疑義解釈8))。



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