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ロボット支援下手術による患者の生存率向上や合併症減少等の優越性エビデンスを示し、2024年度改定での増点等目指す―外保連

2023.2.28.(火)

2024年度の次期診療報酬改定に向け、例えば「様々な種類のロボット支援下手術の優越性(患者の生存率向上などの優越性、入院期間短縮や合併症減少に伴う医療費面での優越性)に関するエビデンス」を提示し、増点や施設基準緩和などを目指す—。

ほかにも、新規のロボット支援下手術の保険適用(腰椎固定術など)や、新規の医療技術の保険適用(胎児MRIや運動器ハイドロリリース療法など)も要請していく—。

なお、昨今の光熱水費・人件費の高騰が病院経営を極めて強く圧迫しており、「診療報酬の4%を超える引き上げ」がなければ病院経営が成り立たなくなる点も訴えていく—。

100の外科系学会で構成される「外科系学会社会保険委員会連合」(外保連)が2月27日に開催した記者懇談会で、こういった考えが示されました。

外保連の岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)

患者視点の優越性として生存率向上や断端陽性率低下などのエビデンスを示していく

外保連は、100の外科系学会で構成される組織で、主に外科系診療の適正かつ合理的な診療報酬のあるべき姿を学術的な視点に立って研究し、提言を行っています。例えば、手術点数の設定に当たって、厚生労働省も、外保連の現場調査(どの手術にどういった職種が何人携わり、どの程度の時間がかかるのか、難易度はどの程度か、使用する医療機器等のコストはどの程度か、など)をベースにした「外保連試案」を相当程度勘案するなど、その提言には深い意味があります。

今般、2024年度の次期診療報酬改定に向けた考え方の一部が示されました。

「ロボット支援下手術」について、2022年度の前回診療報酬改定では次のような評価の見直しが行われました。

(1)新規に、▼鏡視下咽頭悪性腫瘍手術▼鏡視下喉頭悪性腫瘍手術▼総胆管拡張症手術▼肝切除術▼結腸悪性腫瘍切除術▼副腎摘出術▼副腎髄質腫瘍摘出術(褐色細胞腫)▼腎(尿管)悪性腫瘍手術—に適用が拡大された(耳鼻科領域で初めて「咽頭がん」が適用となった)

新規のロボット支援下手術を保険適用した(2022年度診療報酬改定)



(2)食道がん・胃がん・直腸がんについて、施設基準の「術者要件」(例えば食道がんでは「ロボット支援下手術を術者として5例以上経験している医師を配置する」)などが削除された

(3)胃がんについて、ロボット支援下手術の「優越性」が評価され、既存の内視鏡手術に比べて「点数の引き上げ」が行われた

胃がんのロボット支援下手術の点数を引き上げるなどした(2022年度診療報酬改定)



こうした評価、とりわけ(2)(3)については、外保連の提示したエビデンスがベースとなっています。岩中督会長(埼玉県病院事業管理者)から「食道がん、胃がん、直腸がんについて、NCD(外保連の運営する、ほぼすべての外科手術症例データを格納したNational Clinical Database)等のデータを用いて「合併症発生状況と、医師の術者経験症例との間には関連がないこと」「各病院において『経験症例の少ない医師は早期がんなど比較的容易な症例を、経験症例の多い医師が難易度の高い症例を担当する』という具合に振り分けていること」を示し、「施設基準で術者経験症例数などを縛る必要はない」ことを厚労省に提言し、受け入れられました。

また、胃がんについては(3)のように「ロボット支援下手術のほうが3年生存率が良好である」との症例データ・エビデンスを提示した結果、増点が認められています(内視鏡手術用支援機器を用いる【腹腔鏡下胃切除術】:6万4120点→7万3590点(+9470点)、内視鏡手術用支援機器を用いる【腹腔鏡下噴門側胃切除術】:7万5730点→8万点(+4270点)、内視鏡手術用支援機器を用いる【腹腔鏡下胃全摘術】:8万3090点→9万8850点(+1万5760点))。

岩中会長は、2024年度の次期改定に向けて▼患者視点における優越性(例えば生存率の改善、断端陽性率(がん再発につながる)の低下、機能温存など)▼医療費における優越性(例えば入院期間短縮よる医療費・医療資源の削減、合併症減少による医療費の削減など)—の2軸に沿ってエビデンスを構築し、他の術式の「増点や施設基準緩和」などを強く要請していく考えを強調しています。

患者視点での優越性と医療費における優越性の2軸でエビデンスを整理していく



ロボット支援下手術については、「一定の安全性・有効性を確認したうえで、既存の腹腔鏡手術と同じ点数で保険適用する」→「その後、優越性のエビデンスが明らかになった段階で点数の引き上げなどを行う」という1つの流れができつつあると言えるでしょう。

このほか、外保連では▼レジストリを義務付けられた医療技術の報告体制の構築を進める(レジストリ登録が義務付けられた35技術などについて、効果検証データの提出も義務付けられ「再評価」が行われる)▼診療報酬点数表の手術コード(Kコード)の中には「複数のSTEM7」が紐づいている技術があり(例えばK046【骨折観血的手術】の「1」(1万8810点)には肩甲骨、上腕、大腿の3部位が含まれるが、外保連の手術分類STEM7では3つが別コードとなっており、それぞれ麻酔時間の分布(=資源投入量)が異なる)、2024年度改定に向けて整形外科領域の整理を進める—方針も示しています(関連記事はこちら)。

ロボット支援下腰椎固定術、胎児MRI、運動器ハイドロリリース療法等の保険適用目指す

また2月27日の外保連記者懇談会では、加盟学会の一部から「2024年度診療報酬改定に向けた重点要望項目」に関する説明も行われました。その概略を以下に示します。

【日本脊椎脊髄病学会】(聖マリアンナ医科大学整形外科学講座の赤澤努教授)
「脊椎手術支援ロボットを用いた腰椎固定術」の保険適用を要望
▽腰椎固定術の椎弓根スクリュー(腰椎を固定するねじ)挿入には十分な経験・スキルが求められる(わずかなミスが神経損傷や大出血を招く)が、脊椎手術支援ロボットでは「術前プランニングに基づき、ロボットアームが自動的にスクリュー挿入を行ってくれる」ため、より多くの患者に正確な医療提供が実現できる(術者の経験などが少なくともハイパフォーマンスが可能となる)
▽海外からは「ロボット支援により合併症の減少、入院期間の短縮など」の報告もある
▽「一部の『神の手』を持つ医師だけでなく、若手医師でも簡単に正確な治療が実施可能になる」と赤澤教授は強調する

腰椎固定術では、卓越した技術が求められている

聖マリアンナ医科大学整形外科学講座の赤澤努教授



【日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会】(九州大学大学院医学研究科循環器外科学の塩瀬明教授)
「ロボット支援下での弁置換術」の保険適用を要望
▽ロボット支援機器では「3D画像での視野拡大」「常にカメラでの正対」「ロボットアームを用いた全方向での可動」などが可能となり、より正確・安全・短時間に心臓の弁置換術が実施可能となる
▽心臓の拍動を停止させる時間も従来より短く済み、患者にとっても大きなメリットがある
▽すでにK554-2【胸腔鏡下弁形成術】についてはロボット支援下手術が保険適用されており、この両輪となる「弁置換術」についても保険適用すべきである

ロボット支援下の心臓手術は、従来手術に比べて有用である

九州大学大学院医学研究科循環器外科学の塩瀬明教授



【日本泌尿器科学会】(帝京大学医学部附属溝口病院泌尿器科の横山みなと教授)
ロボット支援機器を用いるK803-2【腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術】(ロボット支援膀胱全摘除)について、施設基準の中に「当該保険医療機関で膀胱悪性腫瘍手術(K803【膀胱悪性腫瘍手術】、K803-2【腹腔鏡下膀胱悪性腫瘍手術】(内視鏡手術用支援機器を用いる場合を含む)、K803-3【腹腔鏡下小切開膀胱悪性腫瘍手術】)を1年間に10例以上実施している」旨の要件が盛り込まれているが、これの削除または緩和を求める
▽ロボット支援膀胱全摘術は、開腹手術や通常の腹腔鏡手術に比べて合併症の発生率・入院期間の短縮・輸血や死亡退院などの点で優れているとのデータがそろっている
▽しかし、上記の基準を満たす施設は全国で33施設に限られ、東北地方・中国地方・四国地方では各1施設、北陸地方には存在せず、アクセスに非常に大きな偏りがある
▽ロボット支援膀胱全摘術については、「経験数の少ない施設」でも合併症が少なく、入院期間が短いというデータもある
▽上記の施設基準について、削除、あるいは緩和が必要である(半分の1年間5例とするだけで要件クリア施設は全国で122施設に増加し、アクセスが改善される)

ロボット支援膀胱全摘術は、経験の浅い医師でも優れた成績を上げられる

膀胱全摘術年間10件をクリアできる施設は全国で33施設だが、5件になるとクリア施設は全国121件となる

帝京大学医学部附属溝口病院泌尿器科の横山みなと教授



【日本肥満症治療学会、日本消化器外科学会、日本内視鏡外科学会】(大分大学グローカル感染症研究センターの太田正之教授)
重度の肥満症を対象とした「腹腔鏡下でのスリーブ状胃切除・バイパス術」の保険適用を要望
▽胃がん症例の多い我が国では、胃がんの早期発見という点も考慮し、肥満症に対する外科手術として▼スリーブ状胃切除術(LSG、K656-2【腹腔鏡下胃縮小術(スリーブ状切除によるもの)】(4万50点)として保険適用済)▼スリーブ状胃切除術・パイバス術(スリーブ・バイパス術、先進医療A)—が行われている
▽重度肥満(BMI35以上)では「スリーブ状胃切除術」よりも「スリーブ・バイパス術」が適しており、糖尿病の寛解率も高く(例えば重症者では、前者では寛解率62%であるのに対し、後者では80%と高い)、術後5年では90%の患者で糖尿病治療薬が不要になるとの成果も出ている
▽しかし、先進医療Aのため(保険外部分は自己負担)、重度肥満患者でも保険適用されている「スリーブ状胃切除術」が選択されているケースがあると考えられる
▽重症患者(BMI35以上または、BMI30以上かつ肥満関連12疾患の併発)を対象に、「腹腔鏡下でのスリーブ状胃切除・バイパス術」を保険適用すべきである

スリーブ状胃切除術とスリーブバイパス術との比較

分大学グローカル感染症研究センターの太田正之教授



【日本周産期・新生児医学会、日本産科婦人科学会】(昭和大学横浜市北部病院産婦人科の市塚清健教授)
「胎児MRI」の保険適用を要望
▽2004年の「The fetus as a patient 2004福岡宣言」では「胎児も医療の対象・患者として扱われるべき」とされたが、現在、胎児を対象とした保険診療は7項目(心エコー、輸血など)に限られている
▽例えば胎児頸部腫瘤では窒息を防ぐために「帝王切開時に臍帯が閉じるまでの間に気道確保をする」などの対応(EXIT)が不可欠となるが、そのためには「胎児MRIで正確な診断を行い、EXIT実施可能施設への搬送を行う」ことが大前提となる
▽新生児に対してはMRI撮影を保険診療の中で行えるが、胎児では保険診療の中で実施できず、上記治療が制限されてしまっている
▽胎児MRIが必要なケースは年間1400名程度と推察され、施設基準で縛り(例えば周産期母子医療センターに限定するなど)をかけたうえで胎児MRIを保険適用すべきである

he fetus as a patient 2004福岡宣言

保険適用されている胎児医療

昭和大学横浜市北部病院産婦人科の市塚清健教授



【日本整形外科学会】(東京先進整形外科の面谷透院長)
超音波ガイド下での「運動器ハイドロリリース療法」の保険適用を要望
▽超音波を活用して、正確に「筋肉や筋膜等」と「神経」とを低侵襲で剥離(生理食塩水等を注射して剥離する)することにより疼痛を解消できる「運動器ハイドロリリース療法」については、有効性と安全性に関するエビデンスが確立され、我が国でも臨床で活用され大きな成果を上げている
▽ただし初期費用(超音波診断装置などの購入に500万円強)とランニングコスト(シリンジやゲルなどの消耗品、超音波診断新装置の保守点検費用、人件費などで1例当たり7000円程度)を勘案した点数設計が必要となる
▽例えばL104【トリガーポイント注射】(80点)程度の点数であれば、年間で300万円超の赤字となり、優れた治療法を患者に提供できない事態となってしまう点に留意してほしい

超音波ガイド下のハイドロリリース療法1

超音波ガイド下のハイドロリリース療法2

超音波ガイド下のハイドロリリース療法3

東京先進整形外科の面谷透院長



外保連では、こうした「新規技術の保険適用」や「既存技術の施設基準緩和」などのほか、「人件費のみで現行点数を上回ってしまっている技術の増点」「材料費のみで現行点数を上回ってしまっている技術の増点」なども要請していく構えです。

人件費が点数を上回ってしまう手術

材料費だけで点数を上回る手術



なお、岩中会長は「現下の物価・人件費の高騰が病院経営を大きく圧迫している」状況(とりわけ電気代の高騰が厳しい)に鑑みて、「診療報酬を4%超引き上げてもらわなければ、病院経営が成り立たない」と極めて強く訴えています。



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